急性髄膜炎 acute maningitis

急性髄膜炎 acute maningitis


Ⅰ. 急性無菌性髄膜炎 acute aseptic maningitis 

・ウィルス性髄膜炎 viral meningitis
 Entero virus (Coxasackie virus、ECHO virusなど)と Mumps virus が多い。

【臨床症状】
 エンテロウィルスによるものは夏期に流行性に発生する。
 頭痛、発熱などで発症し、悪心・嘔吐を伴う。
 髄膜刺激症状が主で、意識障害はほとんどみられない。全身症状は軽度、または欠如する。
 約2週間以内に自然治癒し、予後は良好。

【病理】
 くも膜下腔へのリンパ球を主体とした炎症細胞の浸潤。

【髄液】
 リンパ球を主体とする細胞増多と蛋白上昇。軽度の髄圧上昇。糖や塩素は正常。ウィルス抗体価の上昇。

【診断】
 ペア血清におけるウィルス抗体価の4倍以上の上昇。
 急性期における髄液、咽頭ぬぐい液、便などからのウィルス分離同定。

・無菌性髄膜反応 aseptic meningeal reaction
 化学性髄膜炎(くも膜下腔内への薬剤、血液などの混入)ないし反応性髄膜炎(くも膜周囲の炎症の波及)。

・良性反復性無菌性髄膜炎 benign recurrent aseptic meningitis(Mollaret 髄膜炎)
 発熱を伴う急性無菌性髄膜炎症状が反復性に生ずるもの。
 個々のエピソードは数日で自然寛解し、数週から数カ月の間隔を置いて再発する。
 髄液はリンパ球主体の細胞増加、蛋白増加を示す。糖、塩素は正常。
 しばしば Mollaret 細胞(内皮様の細胞)がみられる。間欠期の髄液は正常。
 単純ヘルペス(herpes simplex virus type Ⅰ)の感染による。


Ⅱ. 急性化膿性髄膜炎 acute purulent meningitis

【概念】
 一般細菌によって起こる髄膜炎。菌は直達性ないし血行性に侵入し、くも膜下腔に炎症を起こす。

【起炎菌】
 新生児ではグラム陰性桿菌(大腸菌、緑膿菌)、連鎖球菌、ブドウ球菌。
 小児期ではインフルエンザ菌、肺炎球菌、髄膜炎菌。
 成人では肺炎球菌、髄膜炎菌。
 高齢者ではグラム陰性桿菌、黄色ブドウ球菌。

 肺炎双球菌:急性肺炎、中耳・乳様突起・副鼻腔の感染、頭部外傷に続発。
 他の連鎖球菌:乳様突起炎、副鼻腔炎に続発。
 髄膜炎菌:鼻咽腔に存在。血行性に感染が広がりやすい。
 ブドウ球菌:顔面・頭部の炎症や骨髄炎、脳外科手術、頭部外傷に続発。比較的少ない。
 インフルエンザ桿菌:上気道の常在菌。小児では上気道炎に続発する。
  成人では中耳炎、乳様突起炎、副鼻腔炎、頭部外傷に続発。または免疫低下状態に伴う。

【臨床】
 通常高熱(38〜40℃)を伴い、急激に発症する。
 典型的な髄膜症状を呈することが多い。頭痛はほぼ必発で、早期から起こり、しばしば激烈。
 意識障害・精神症状:無欲状、易刺激性、錯乱、せん妄、昏睡など。
 その他:痙攣発作は乳幼児に多い。脳神経麻痺が時に見られる。炎症が1週間以上持続するとうっ血乳頭がみられる。
 慢性期には、くも膜下腔ブロックによる水頭症がみられることがある。
 Waterhouse-Friderichsen症候群:髄膜炎菌敗血症にともない電撃的な経過を示す。24時間以内に死亡。

【病理】
 くも膜下腔に好中球を主体とする化膿性炎症がみられる。
 炎症は全中枢神経系にびまん性に拡がり、時に脳室内に及んで脳室上衣炎を来す。

【髄液】
 好中球を主体とする細胞増加と蛋白増加が著明で、髄液は白濁する。
 圧は上昇し、糖は低下する。塩素は正常。

【診断】
 抗生剤投与前に髄液を含めた感染巣からの培養を行う。

【治療】
 適切な抗生剤投与。ステロイド剤の併用も行われる。

【予後】
 菌種、年齢、基礎疾患、治療開始の時期などによる。
 グラム陰性桿菌、黄色ブドウ球菌によるものが死亡率が高い。
 2ヶ月未満の乳児と60歳以上の老人も死亡率が高い。
 一般に後遺症は少ないが、脳神経麻痺や巣症状、てんかん、水頭症などがみられることもある。
 乳児・小児では聴神経障害や硬膜下水腫(インフルエンザ桿菌)に注意する。


【註記】


【参考】


【改訂】2016-12-04