腸球菌感染症

腸球菌感染症 enterococcal infection


【概念】
 腸球菌はヒトの腸管や外陰部の常在菌で、市中感染より医療関連感染の原因菌として重要。
 尿路感染、腹腔内・骨盤内感染、創部感染、血管留置カテーテル関連血流感染、感染性心内膜炎などの疾患の起炎菌として頻度が高い。

【病原菌】
 腸球菌は15以上の種からなり、臨床的に分離されるのは80%以上が Enterococcus faecalis、10〜15%が Enterococcus faeciumである。
 形態的には長短の連鎖状を呈するG陽性の球菌だが、分類学的にその他の連鎖球菌と区別され、抗菌薬感受性や臨床的特徴も異なる。他のG陽性菌と比べて病原性は高くなく、激しい臨床経過を取ることは少ない。
 通性嫌気性菌で、酸素濃度の低い状態でも増殖できる。通常院内で使用される消毒薬に耐性を示さず、熱消毒も有効。国内ではβラクタマーゼ産生株の報告はない。
 近年は、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が問題となっている。

【臨床】
 術後の腹腔内感染や胆道感染、バルーン留置に関連した尿路感染、カテーテル関連血流感染など、医療デバイスに関連した発症が少なくない。
 院内での血液培養分離菌の約10%を占め、菌血症を呈した場合、30日死亡率は20〜30%になる。
 肺炎の起炎菌となることはまれ。
 現在、国内でのVRE頻度は1%以下(米国では30%)で、感染症法により全例報告が義務付けられている。

【治療】
 腸球菌は多くの抗菌薬に耐性を示す。
・第一選択はアンピシリンやペニシリンG(アレルギーがあればバンコマイシンやテイコプラニン)。
・セフェム系は単独で有効なものはない。
・キノロン系、カルバペネム系は十分な臨床効果が期待できない。
・VREにはリネゾリド、キヌプリスチン、ダルホプリスチンが有効。
・感染性心内膜炎にはアンピシリンにゲンタマイシンの併用が基本。


【註記】


【参考】


【作成】2017-06-10