皮膚・軟部組織感染症
【分類】
・原発性(単純性):細菌が直接皮膚に感染したもの。化膿球菌によるものが多く、膿皮症 pyodermaとも呼ばれる
・続発性(複雑性):創傷、熱傷、褥瘡などすでに皮膚損傷のある部位に細菌が感染したもの。
【起炎菌】
表皮ブドウ球菌と黄色ブドウ球菌が全体の7割近くを占め、黄色ブドウ球菌の2〜4割は市中MRSAである。
化膿レンサ球菌やG陰性桿菌は10%前後。
【臨床病型】
1)せつ、せつ腫症、癰(よう)
おもに黄色ブドウ球菌による毛嚢の感染症。
せつは、毛孔に一致する、発赤を伴う紅色小丘疹で始まり(毛嚢炎)、圧痛を伴う硬い浸潤性のしこりとなる。次第に中心部が膿瘍化し、波動を触れるようになる。膿瘍内の膿汁は毛孔を開大して膿栓を形成する。
膿栓は通常2〜3日で自己融解し、膿汁の排泄が起こると症状は急速に軽快し、治癒する。
病巣より線状にリンパ管の走行に沿って紅潮が走り、軽度の圧痛と浸潤を触れたり(リンパ管炎)、所属リンパ節が痛みを伴って孤立性に腫脹し、皮下結節として触れることもある(リンパ節炎)。
せつ腫症は、せつが比較的長期にわたって消長出没を繰り返す場合をいう。
癰は、相隣接する数個以上の毛嚢が同時に侵されて大きな1つの局面を形成したもの。
2)伝染性膿痂疹(とびひ)
皮膚表層の細菌感染症で、黄色ブドウ球菌による水疱性膿痂疹と、連鎖球菌性の痂皮性膿痂疹とに分類される。
生後数カ月から7歳までの乳幼児に多いが、成人はまれ。夏季に多い。
鼻孔部周辺、口周辺、四肢などの露出部に初発し、顔面、四肢、体幹に好発する。
水疱性膿痂疹では、まず水疱が生じ、次第に膿性混濁を呈し、水疱が破れてびらん局面となる。遠隔部にも同様の皮疹を次々に生じる。痂皮性膿痂疹は大水疱となることはなく、痂皮を形成する傾向が強い
3)丹毒
主にβ溶連菌による真皮浅層を主に侵す浮腫性化膿性炎症。
顔面、頭部、耳介や、外傷を受けやすい四肢、臍部、陰部などに好発し、リンパ液のうっ滞しやすい部位に多い。
皮膚病変は境界鮮明、深紅色を呈し、疼痛と灼熱感を伴い、水疱や膿疱がみられることもある。
しばしば悪寒、発熱などの全身症状を伴う。
4)蜂窩織炎(蜂巣炎)
真皮深層から皮下組織に及ぶびまん性急性化膿性炎症。
まず限局性の浮腫性紅斑が生じ、次第に病変は拡大し、境界は不鮮明で、硬い浸潤を触れるようになる。局所熱感、圧痛、紅潮も増大してくる。リンパ管炎、リンパ節炎を伴う。
全身症状を伴うことは少なく、一般に軽度。
5)壊死性筋膜炎
A群溶連菌や混合感染により、真皮から皮下脂肪織が主病変で、浅層筋膜を中心として周辺に急速に拡大していく。
びまん性の紅潮、腫脹、浮腫から急速に多彩な皮膚症状に進行し、水疱、血疱、表皮剥離、紫斑、点状出血、壊死などがみられる。
強い腐敗臭が生じ、切開するとクリーム状の粘稠な排膿が多量に生じることがある。
嫌気性菌やG陰性桿菌の一部では、皮下にガスを発生し、触診上捻髪音が聞かれることもある(ガス壊疽)。
全身症状が強く、せん妄などの精神症状を呈することもある。
速やかにデブリードマンを行い、大量の抗菌薬投与と全身管理を行う必要がある。
【治療】
経験的療法としてβラクタム系薬(ペニシリン系、セフェム系)の経口投与を行う。
リンパ管炎・リンパ節炎を合併する重症例では静注が必要。
市中MRSAの頻度が高いため、ST合剤またはミノマイシン(8歳以上)、ニューキノロン系(16歳以上)を用いる。
膿瘍には必要に応じて切開・排膿を行なう。