特発性肺線維症
idiopathic pulmonary fibrosis : IPF
【概念】
特発性間質性肺炎 IIPs のうち最も頻度が高く、緩徐に進行する予後不良の疾患。
50歳以降に多く、男性に多い。喫煙が危険因子となる。
【病態】
繰り返す肺胞上皮の損傷と、それに伴う修復の異常により間質の線維化、肺胞構造の再構築が起こる。
線維化による肺胞隔壁肥厚のため拡散能が低下し、低酸素血症をきたす。
肺胞構造の再構築により、牽引性気管支拡張、蜂巣肺、肺胞虚脱による肺容量減少が起こる。
【臨床症状】
・主症状:乾性咳嗽と徐々に増悪する労作性呼吸困難。
・ばち指 clubbed finger(30〜60%)
・進行するとチアノーゼ、右心不全による浮腫。
・合併症:肺がん、気胸、胃食道逆流症、肺高血圧、右心不全
【検査】
1)聴診:両側下肺野で吸気終末期にfine crackles。
2)血液検査
・血清マーカー:SP-A (surfactant protein-A)・SP-D上昇、KL-6上昇、LD上昇
・自己抗体:しばしば抗核抗体、RF陽性
3)肺機能:拘束性障害+拡散障害
・VC低下(%VC <80%)、RV低下(ただし残基率は不変)
・DLco低下(早期診断に有用)
・安静時または労作時のSpO2低下、PaO2低下、A-aDO2の開大
代償性過換気によりPaCO2は低下することが多い
4)胸部X線:左右対称・下肺野優位の網状・輪状影、両側下肺野の縮小
5)HRCT:病変が両側下肺の背側胸膜下優位に分布
・蜂巣肺 honeycomb lung、網状陰影、肺容量減少、牽引性気管支拡張像
6)生検:UIPパターン
7)BAL:特異的所見なし。他疾患除外に用いる。
【IPF/UIPパターンの特徴】
・既存の肺胞構造が改築された線維化病変が主体で、線維化巣内の末梢気腔拡張による蜂巣肺を伴う。
・病変の時相が多彩(陳旧性の病変と活動性の病変が混在)
・病変は空間的にも多彩(正常部分と病変部分が混在)
【診断基準】
① 主要症状及び理学所見:以下の1)を含む2項目以上
1)捻髪音 fine crackles 2)乾性咳嗽 3)労作時呼吸困難 4)ばち指
② 血清学的検査:以下のうち1項目以上
1)KL-6上昇 2)SP-D上昇 3)SP-A上昇 4)LD上昇
③ 呼吸機能:以下のうち2項目以上
1)拘束性障害 (%VC<80%) 2)拡散障害(%DLco<80%)
3)低酸素血症:以下のうち1項目以上
安静時PaCO2<80Torr、安静時AaDO2≧20Torr、6分間歩行時SpO2≦90%
④ 胸部X線画像所見:以下の1)を含む2項目以上
1)両側びまん性陰影 2)中下肺野、外側優位 3)肺野の縮小
⑤ 病理診断を伴いわないIPF:以下の画像所見のうち1)及び2)が必須条件
1)胸膜直下の陰影分布 2)蜂巣肺 3)牽引性気管支・細気管支拡張
4)すりガラス陰影 5)浸潤影
※下記の条件を満たす確実、及びほぼ確実な症例をIPFと診断する。
・Definite:①〜⑤の全項目が陽性または外科的肺生検病理組織診断がUIP。
・Probable:①〜⑤のうち⑤を含む3項目以上を満たすもの。
・Possible:⑤をふくむ2項目しか満たさないもの
【治療】
1)薬物療法
・抗線維化薬:ピルフェニドン、ニンデダニブ;肺活量低下の抑制作用あり。
・慢性安定期:ステロイド単独または免疫抑制剤との併用は行わない。
2)支持療法
・長期酸素療法:運動耐容能の改善あり。生存率向上はない。
・肺高血圧併存例:在宅酸素療法適応。
・呼吸リハビリテーション:運動耐容能、QOL改善あり。
3)肺移植
・IPFで長期生存が得られる(適応)。
【予後】
・診断時からの生存期間中央値は約3年。予後は不良。
・死因:呼吸不全、急性増悪、肺がん。
【IPFの急性増悪】
・病期が進行するほど、急性増悪の頻度は増加する。
・感染や手術・検査、治療の不適切な中断などが誘引となる可能性がある。
・経過中、急速に(1ヶ月以内の経過で)呼吸困難の増悪、画像上の新たなすりガラス陰影の出現、PaO2の低下などが見られる。KL-6などの血清マーカーも上昇する。
・診断には、明らかな感染症、気胸、悪性腫瘍、肺塞栓、心不全の除外が必要。
・治療はステロイドパルス療法が基本。免疫抑制剤の併用療法も行われるが、死亡率は50%以上と予後は不良。
【合併した肺がんの治療】
・間質性肺炎患者には効率に肺がんが合併する。
・合併肺がんでは化学療法、外科的治療に伴う急性増悪が問題。
治療関連死の頻度が高い。
・胸部放射線照射は原則行わない。