溶血性連鎖球菌感染症

溶血性連鎖球菌感染症


【概念】
 連鎖球菌は皮膚に常在し、血液寒天培地上のコロニー溶血性より次の3群に分類される。
・α 溶血:不完全溶血、緑色不透明環
・β 溶血:完全溶血、透明環
・γ 溶血:非溶血
 さらに、細胞壁の多糖体抗原の差異に基づく Lancefield分類によって細分化される。

・β溶血性連鎖球菌は毒性が高く、A群β溶血性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、B群β溶血性連鎖球菌(S. agalactiae)、G群β溶血性連鎖球菌(S. dysagalactiase equisimilis)などが含まれる。
 A群β溶血性連鎖球菌は咽頭・扁桃炎、丹毒、蜂窩織炎、壊死性筋膜炎などの皮膚・軟部組織感染症や、毒素性ショック症候群(streptococcal toxic shock syndrome : STSS)などを起こす。
 B群β溶血性連鎖球菌は妊婦の保菌に続発する新生児の敗血症・髄膜炎の起炎菌となる。
・α溶血性連鎖球菌は口腔内に常在し、脳膿瘍、縦隔膿瘍、誤嚥性肺炎、感染性心内膜炎を起こす。
 肺炎球菌や緑色連鎖球菌(viridans group streptococci)が含まれる。
・γ溶血性連鎖球菌の多くは口腔内に常在し、病原性を有することは少ない。

【臨床症状】
1)A群連鎖球菌
 A群連鎖球菌の感染経路はヒトからヒトへの飛沫感染や接触感染が主である。
 劇症型溶血性連鎖球菌感染症(死亡率35%)の約70%をA群が占める。
 菌が莢膜の内側に持つM蛋白は、C3bの菌表面への結合を阻害し、補体によるオプソニン作用を抑制する。また、ストレプトリジンなどの細胞傷害毒素や、T細胞を活性化するスーパー抗原を有する。

・急性咽頭・扁桃炎
 5〜15歳の青少年の咽頭炎の約15〜30%を占め、小児では5歳での発症が最も多い。
 突然の発熱や咽頭痛で発症し、扁桃腫大や膿苔、頸部リンパ節腫大などを認めるが、鼻汁や咳・痰などの感冒症状は少ない。

・猩紅熱 scarlet fever
 咽頭罹患後2〜5日で鼠径部や肘窩などの間擦部位を中心に、1〜2mmの点状丘疹を認めるもの。A群連鎖球菌が産生する毒素(erythrogenic toxin:発赤毒)に対する遅発性あるれるギー反応が原因となる。発疹はその後全身に拡大し、紙やすり状 sandpaper rashと呼ばれ、灼熱感やかゆみを訴える。手掌や足底には皮疹は出現しない。

・壊死性筋膜炎
 連鎖球菌による皮膚軟部組織感染症のうち最も重症で致死的である。病変部位に発赤、浮腫、壊死、水疱を形成し、視診状正常部位にも疼痛を認める。病状は急速に進行し、しばしば病変部位の切断を余儀なくさせられることもある。バイタルサインの異常を伴うことも多い。

・毒素性ショック症候群 streptococcal toxic shock syndrome (STSS)
 血圧低下、腎機能障害、肝機能障害、皮疹や急性呼吸不全などを特徴とし、スーパー抗原活性を有する連鎖球菌性発熱性外毒素 streptococcal pyogenic exotoxin (SPE)が原因となる。近年増加中のG群連鎖球菌でも類似した病態がみられる。

・合併症
 急性リウマチ熱と急性糸球体腎炎が重要。

2)B群連鎖球菌
 B群連鎖球菌は妊婦の膣に常在し、産褥熱や保菌母体からの垂直感染による新生児敗血症や新生児髄膜炎の起炎菌となる。
 また、高齢者や免疫抑制患者の皮膚軟部組織感染症、敗血症、尿路感染症の原因となる。

3)緑色連鎖球菌グループ(S. bovis sp. Groupを除く)
 口腔内の常在菌であり、感染性心内膜炎の重要な起炎菌となる。
 S. anginosus sp. Groupは化膿性感染症を引き起こし、扁桃周囲膿瘍、肺炎、肺化膿症、膿胸、脳膿瘍などの原因となる。

4)D群連鎖球菌(S. bovis species group)
 感染性心内膜炎の起炎菌となり、大腸癌や胆道系感染症との関連を持つものもある。

【診断】
・塗抹培養検査による検体からの菌検出
・迅速検査法:咽頭拭い液によるA群連鎖球菌抗原検査

【治療】
 連鎖球菌のペニシリン耐性の頻度は少なく、マクロライド系やキノロン系への耐性が増加している。
・A群連鎖球菌による咽頭・扁桃炎にはペニシリン系抗菌薬の10日間投与が基本となる。
 代替的にセフェム系抗菌薬5日間投与も行われる。
・A群連鎖球菌による皮膚・軟部組織感染症に対しては、重症例ではペニシリン系抗菌薬の点滴静注が行われる。壊死性筋膜炎やSTSSでは毒素の中和を目的としてクリンダマイシンが使用され、感染巣の切開排膿やデブリドマンが併用される。

【予防】
・A群連鎖球菌の予防は、効果的な治療開始後24時間を経過するまで飛沫予防策が推奨される。
・妊婦には妊娠33〜37週にB群連鎖球菌の保菌調査が推奨される。
 前児がB群連鎖球菌感染の既往、B群連鎖球菌陽性妊婦、保菌状態不明妊婦の場合、経膣分娩中あるいは前期破水後、ペニシリン系薬剤静注による母子感染予防を行う。
・溶連菌感染症は学校保健安全法で三種感染症であり、適正な抗菌薬開始後24時間が経過し、一般状態が良好なら登校可能である。
 A群溶連菌咽頭炎は、感染症法上における定点把握五類感染症に指定されている。
 劇症型溶血性連鎖球菌感染症は、感染症法上における全数把握五類感染症に指定されている。


【参考】