新型コロナウイルス感染症

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
Coronavirus disease 2019


【概念】
 2019年12月に中国武漢に端を発した、新型コロナウイルス SARS-CoV-2感染による一連の疾患の総称。その主体は上気道炎および肺炎である。
 世界保健機関(WHO)は、2020年1月30日、COVID-19について「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言した。

【疫学】
 2020年2月1日より感染症法第6条第8項の指定感染症に定められ、診断した医師は直ちに管轄の保健所に届け出ることが義務づけられた(感染症発生動向調査)。また、感染症法第15条に規定する積極的疫学調査を行うことが可能となった。

 2020年2月17日に発表された中国CDCの疫学調査まとめによると、感染者のうち81%は軽症で自然回復する。14%は重症で呼吸困難や低酸素血症を起こし、5%が呼吸不全や敗血性ショック、多臓器不全などの重篤な状態に陥り、致死率は2.3%だった。
 9歳以下の子供は患者全体の1%以下と少なく、死亡例はなし。10代も軽症ですむ場合が多かった。年齢が上がるとともに、感染するリスクも、死亡するリスクも高くなり、致死率は60代で3.6%、70代で8.0%、80歳以上で14.9%と急激に上昇する。
 また、基礎疾患のない人の致死率は0.9%程度だが、心血管疾患があると10.5%、糖尿病があると7.3%、慢性呼吸器疾患があると6.3%、がん患者では5.6%、高血圧患者では6.0%となり、慢性の基礎疾患が致死率を上昇させることが明らかになった。
(ただし致死率は、検査によって感染者と確定した人のうち何人が死亡したかを見るCFR(Case Fatality Ratio)であるため、どのような集団を対象に検査するかで変わってくる。)
 潜伏期間は平均5日だが、1〜14日と幅がある。また、全く症状が出ない無症候性感染者もいると考えられているが、その割合はまだ明らかになっていない。
(実際に社会の中でどの程度感染が広がっているかを知るには、過去にウイルスに感染した人を高い確度で発見できる抗体検査が必要となる。)

【病原体】
 ヒトに感染するコロナウイルスは従来6種類が知られており、普通感冒(かぜ)の原因の10〜15%(流行期は35%)を占めるとされる4種類のコロナウイルス(ヒトコロナウイルス Human Coronavirus:HCoV)の他、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)および中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)である。
 新型コロナウイルスはこれらと異なるウイルスであり、SARS-CoV-2と表記され、主に呼吸器感染を起こし、病原性はMERSやSARSより低いレベルと考えられている。致死率は2%前後とみなされている。
 飛沫および接触でヒト−ヒト感染を起こすと考えられているが、現在のところ空気感染は否定的。感染力は1人の感染者から2〜3人程度に感染させると考えられている。
 環境中におけるウイルスの残存期間は現時点では不明であるが、インフルエンザウイルスよりも環境中に長く残存する可能性がある。

【感染機序】
  コロナウイルスの表面にはスパイクが多く見られ、これが宿主側細胞の表面にあるレセプターを認識して結合し、細胞内に侵入する。レセプターはコロナウイルスの種類によって異なり、SARDではアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)、MERSではセリンプロテアーゼのDPP4である。SARS-CoV-2のスパイクはSARSの10倍強くACE2と結合する能力がある。ACE2受容体は肺細胞にも多く見られるため、COVID-19は肺炎を起こしやすいと考えられる。
 通常のコロナウイルスは細胞膜のエンドサイトーシスによっていったん小胞内に取り込まれてから細胞内に侵入するが、宿主細胞にTMPRSS2というタンパク分解酵素があるとそれによりウイルス表面のスパイク蛋白が活性化し、小胞を経ずに直接外の細胞膜と結合して侵入する。SARS-CoV-2が細胞に侵入するにはACE2とTMPRSS2の両方が必要である。
 RNAには蛋白質のアミノ酸配列情報をそのままコードしているプラス鎖と、これと相補的なマイナス鎖がある。コロナウイルスの遺伝子はプラス鎖のRNAである。
 コロナウイルスは細胞内に侵入するとただちに宿主細胞のタンパク合成システムを乗っ取り、タンパク合成を開始する。ウイルスのRNAから2つのポリタンパク(RNAの複製に必要なタンパクがつながったもの)が合成される。それらは自身の内部にあるタンパク分解酵素(3CLプロテアーゼとパパイン様プロテアーゼ)によって切断され、16種類のタンパクとなる。これらは合成後のウイルスの殻には含まれないため、非構造タンパク(NSP)と呼ばれる。
 ウイルスは独自にRNA合成システムを持っており、自身の遺伝子であるプラス鎖RNAを鋳型としてさまざまな長さのサブゲノムRNA(マイナス鎖)を合成する。それを鋳型としてプラス鎖RNAが合成され、そこからウイルスの殻を構成するさまざまなタンパクが合成される。小胞体の膜上でこれらのタンパクが集まってウイルスの殻を形成し始める。一方、それとは別にウイルス自身の遺伝子であるプラス鎖RNAも合成され、殻の中に取り込まれる。細胞外に放出される小胞の中でウイルスは完成し、細胞の働きにより外へ放出される。

【臨床的特徴】
 呼吸器系の感染が主体となり、ウイルスの主な感染部位により上気道炎、気管支炎および肺炎を発症する。感染者全員が発症するわけではなく、無症状で経過してウイルスが排除される例も存在する。
 潜伏期は平均5〜6日で最長14日程度。
 遷延する発熱を主体とする上気道炎ないし肺炎が持続し、発症8日以降に呼吸不全が進行し、急性呼吸促迫症候群(ARDS)を併発して致死的となる例がある。
 症状としては、発熱、咳、筋肉痛、倦怠感、呼吸困難などが比較的多く、頭痛、血痰、下痢などを伴う場合もある。重症例には息切れ、39℃以上の高熱や悪寒が多く見られ、これは肺炎の重症度を反映しているものと推測される。
 中国CDCのデータによると軽症例が約80%を占め、呼吸困難が生じる重症例や呼吸不全に至る重篤例は20%未満と報告されている。
 重症例は主に高齢者、高血圧などの循環器疾患、糖尿病、喘息やCOPDなどの呼吸器疾患、がん、各種免疫不全、人工透析などに多い。
 小児や若年者におけるCOVIDの割合は少なく、重症化する例も比較的少ないとみられているが、今後若年層に急速な感染の拡大が起こる可能性もある。
 COVID-19は季節性インフルエンザと比較して、非常に肺炎を起こしやすいことが特徴で、臨床症状が軽症であっても肺炎がみられる症例も多く報告されており、軽症でも胸部CTですりガラス状陰影や斑状陰性がみられる場合もある。
 インフルエンザの場合は二次性肺炎が多いが、COVID-19ではウイルス自体が肺で増殖し、肺胞を傷害して換気不能をおこすウイルス性(一次性)肺炎が多いと考えられている。

【消毒】
・医療機関においては、患者周囲の高頻度接触部位などはアルコールあるいは 0.05%の次亜塩 素酸ナトリウムによる清拭で高頻度接触面や物品等の消毒の励行が望ましい。
・高齢者施設、不特定多数が利用する施設内、自宅等において、患者が発生した際、大がかり な消毒は不要であるが、長時間の滞在が認められた場所においては、換気をし、患者周囲の高頻 度接部位などはアルコールあるいは 0.05%の次亜塩素酸ナトリウムによる清拭で高頻度接触面 や物品等の消毒の励行が望ましい。
 また、新型コロナウイルス感染症の疑いのある患者や新型コ ロナウイルス感染症の患者、濃厚接触者が使用した使用後のトイレは、次亜塩素酸ナトリウム (1,000ppm)、またはアルコール(70%)による清拭を毎日実施することを推奨する。

【治療】
 現在のところ有効な治療法はない。重症時の全身管理のみ。
 治療薬候補としては以下のものがある。
① オルベスコ(シクレソニド)
 喘息治療薬。ウイルスのRNA合成を阻害すると考えられる。
② カレトラ(リトナビルとロビナビルの合剤)
 抗HIV薬。3CL プロテアーゼを阻害すると考えられる。
③ アビガン(ファビピラビル)
 インフルエンザ治療薬。RNA合成を阻害する。
④ レムデシビル
 エボラ感染症の治療薬として開発中。RNA合成を阻害する。
⑤ クロロキン
 抗マラリア薬。ウイルスの細胞内への侵入を抑える。

【経過】
 2019年12月8日に発症したケースを皮切りに、中国の武漢で海鮮市場(華南海鮮卸売市場)と関連した原因不明の肺炎が広がりはじめた。29日に武漢市が患者の調査を開始し、31日にウイルス性肺炎の可能性が高いと判断してWHOに44人の患者の発生を報告。同日、中国湖北省武漢市保険当局が新型ウイルス性肺炎の発生を発表し、2020年1月1日より海鮮市場は閉鎖された。
 2020年1月7日に中国疾病対策センター(CDC)国立ウイルス病予防管理研究所などのグループが病原体を特定。βコロナウイルスと呼ばれるグループに属する新型ウイルス(後にSARS-CoV-2と命名)であることが判明した。このゲノム配列を手がかりとして、11日に武漢市保険当局は41人がSARS-CoV-2に感染していたことを突きとめた。同日、中国CDCと復旦大学研究チームはインターネット上にSARS-CoV-2の塩基配列データを公開した。
 感染は中国国外にも拡大しはじめ、13日にタイで、15日には日本で最初の感染例がみつかった。18日以降、武漢市内で新規感染者の発生が急増し、隣接する都市や北京などの遠隔地でも感染者がみつかりはじめ、中国は23日に武漢市の都市封鎖に踏み切った。
 WHOは22〜23日の会議で「国際的に懸念される公衆衛生の緊急事態(PHEIC)」の宣言を検討したが、このときは見送られた。しかし24日にベトナムで家族内感染が確認され、ヒト−ヒト感染の発生がほぼ確実になると、30日にWHOはPHIECを宣言し、加盟各国にサーベイランス(感染症の発生動向調査)の強化や感染拡大の防止などを求めた。その時点で世界全体の感染者数は7800人に達し、中国の他18ヶ国で感染者が確認されていた。
 中国CDCは24日にウイルスの電子顕微鏡写真を公開した。29日にオーストラリアのピーター・ドハティー感染・免疫研究所が中国以外で初めてウイルスの粒子そのものの分離に成功したのを皮切りに、世界各国の研究機関が相次いでウイルス分離に成功し、31日には日本でも国立感染症研究所がウイルスを分離した。
 武漢では都市封鎖の結果、1月23日〜27日をピークに発症者は次第に減少し始めた。2月17日、中国CDCは2月11日までに感染が確定した約4万5000人についての疫学調査をまとめ公表した。同時期の2月16〜24日、WHOと中国、ドイツ、日本、韓国、米国などの合同調査チームが中国に入り、確定診断された5万6000人の臨床経過を調査した。
 3月に入ると中国では徐々に流行が収まる兆しが見えてきたが、一方感染者は世界中に拡大し、ヨーロッパ(特にイタリア)、米国、イランなどで急激に感染者が増加し始めた。3月7日には世界の感染者数が10万人を突破。WHOのデドロス事務局長は3月11日、世界的な感染の拡大を受けて「パンデミックとみなせる」と表明した。

【日本における経過】
01/16 国内初の感染例発表 武漢市より帰国した30代男性
01/21 外務省、中国全土に感染症危険情報(レベル1)を発令
01/25 クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の乗客1人が香港で下船 後に感染確認
01/29 日本政府のチャーター機第1便で武漢の邦人206人が帰国
01/30 WHO「国際的に懸念される公衆衛生の緊急事態(PHEIC)」宣言
   政府、新型コロナウイルス感染症対策本部を設置
02/01 日本政府、新型コロナウイルス感染症を指定感染症に指定
02/03 ダイヤモンド・プリンセス(DP)号横浜に停泊 厚労省が検疫開始
02/13 日本で初めての死者 神奈川県の80代女性
02/14 「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」を設置
02/19 岩田健太郎神戸大教授、DP号の感染対策の不備をネットで告発
02/21 DP号からの乗客下船始まる
02/24 日本の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が流行の現状と対策に向けた考え方を表明
02/25 日本政府が「新型コロナウイルス感染症対策の基本指針」を策定 相談・受信の目安を盛り込む
02/26 安倍首相がイベントなどの自粛を要請 公演中止や無観客公演始まる
02/27 安倍首相が小中高校の一斉休校実施を発表 教育現場に混乱起こる
02/28 北海道知事が緊急事態を宣言
03/01 DP号からの下船完了
03/02 日本の小中高校の一斉休校開始
03/09 専門家会議の第2回目見解発表
03/10 政府、新型コロナウイルス感染を「歴史的緊急事態」に指定
03/13 「新型インフルエンザ等対策特別措置法」改正法成立
03/18 外務省、全世界に対して感染症危険情報レベル1に指定
03/21 国内での感染者数が1000人を超える
03/24 東京オリンピック2020 延期を発表
03/25 東京で感染確認者数が急増 1日40人を超える
03/27 東京都知事 週末の不要不急の外出自粛を要請


【参考】