抗GAD抗体陽性小脳失調症
Cerebellar ataxia with anti-glutamic acid decarboxylase antibodies
【概念】
グルタミン酸脱炭酸酵素 glutaminic acid decarboxylase : GAD はグルタミン酸からγ−アミノ酸 gamma-aminobutyric acid : GABAを生成する酵素であり、中枢神経や膵臓に存在している。
抗GAD抗体は1型糖尿病や stiff-person症候群(SPS)の患者でみられる。
【臨床症状】
頻度は小脳失調症患者のおよそ170人に1人と推定される。
比較的若年〜中年の女性に多く、進行性の経過をたどることが多い。
多様な自己免疫疾患(1型糖尿病38%、甲状腺疾患72%)、SPS26%、てんかん12%などが合併する。また、悪性腫瘍(胸腺腫、子宮内膜がん、乳がん)もみられる。
症状は歩行障害がほぼ必発。
眼振、構音障害、四肢失調は60〜70%にみられる。
MRIで少脳萎縮を認めることもある。
免疫治療により症状の改善が期待できる。
【病態生理】
GADは興奮性伝達物質であるグルタミン酸から、抑制性伝達物質のGABAを合成する酵素である。抗GAD抗体は抑制性ニューロンからのGABA放出を減少させる。
GADには2種類のアイソタイプが存在し、分子量65のGAD65は主に神経終末のシナプス小胞に存在し、神経伝達物質としてのGABA合成に関与する。GAD67は細胞質全体に存在し、細胞内のGABAを生成している。
SPS患者の抗GAD抗体はGAD65のN末端を特異的に認識するが、1型糖尿病患者の抗GAD抗体ではこれが認められないことより、抗GAD抗体の中にも認識するエピトープの差異が存在していると考えられる。
GABA放出が減少すると、抑制性シナプスの抑制と同時に興奮性シナプスの増強が起き、プルキンエ細胞は顕著な興奮を示して細胞死に至る。
【参考】
・脳神経内科、93(1) : 109-114, 2020