性分化異常症

【概念】
 遺伝的性 genetic sex により性腺の性 gonadal sex が決定され、それに従って外見上の性 phenotypic sex が出現する。この過程で異常が生じると性分化異常症となる。性分化異常症は新生児期・乳児期の外陰部異常または思春期の二次性徴の欠如で発見される。

【正常性分化プロセス】
・遺伝的性は受精時の染色体核型により決定される。
 男性では46, XY、女性では46, XXである。
・胎児期において、性腺はまず男女共通の未分化性腺が形成される。
 Y染色体(SRY)が存在すると胎児精巣に、存在しないと退治卵巣に分化する。
・胎児精巣はホルモン産生能を持つセルトリ細胞やライディッヒ細胞を有するが、精子形成過程を示す生殖細胞を欠き、減数分裂も伴わない。
・胎児卵巣はホルモン産生能を持たないが、卵子形成過程を示す生殖細胞の減数分裂を伴う。
・思春期には性腺はさらに発達し、ホルモン産生能と配偶子形成能の両者を有する成人精巣および成人卵巣となる。
・性管・外性器は胎児精巣由来ホルモンの有無に依存して分化する。
・ミュラー管はセルトリ細胞から分泌される抗ミュラー管ホルモンが存在するときに退縮し、存在しないときに子宮・卵管・膣上部に分化する。
・ウォルフ管はライディッヒ細胞から分泌されるテストステロンが存在するときに精巣上体・輸精管・精嚢に分化し、存在しないときに退縮する。
・外性器は、5α-reductase によりテストステロンから変換されたジヒドロテストステロンが存在するときに陰茎・陰嚢に分化し、存在しないときに陰核・陰唇となる。
・したがって、外性器の性は胎児精巣および精巣由来のホルモンの有無に大きく依存し、胎児卵巣の有無は関係しない。
・性管の男性化は少量のテストステロンで誘発されるが、外性器の男性化は充分量のジヒドロテストステロンを必要とする。
 二次性徴は、成人精巣からの男性ホルモンおよび成人卵巣からの女性ホルモンの作用により出現する。

【性分化異常症の分類】
・性分化異常症は、性腺形成障害・男性仮性半陰陽・女性仮性半陰陽に大別される。
・性腺形成障害は、胎児期では男性の性分化異常をきたすが、女性の性分化過程には原則として影響しない(思春期では男女ともに二次性徴出現を障害する)。
・男性仮性半陰陽は、精巣形成は正常であるが、精巣ホルモン効果の障害により完全型から不完全型までの幅広い男性化障害が生じる。
 その原因は、精巣自体の機能障害と精巣以外の異常に大別される。
・女性仮性半陰陽は、卵巣形成は正常であるが、男性ホルモン効果の過剰によりさまざまな程度の男性化を呈する。
 その原因は、副腎由来と胎盤由来に大別される。

【代表的疾患】
<性腺形成障害>
・XXおよびXY性腺無形成:未分化性腺細胞発生不全
・XX性腺異形成:生殖細胞発生または維持障害
・XY性腺異形成:精巣形成障害
・Drash / Frasier 症候群:泌尿生殖系発生障害
・Campomelic dysplasia:間葉系(軟骨および胎児精巣)発生障害
・Turner症候群:卵母細胞維持障害(相同染色体対合不全)
・真性半陰陽:精巣と卵巣の共存
・混合型性腺異形成:精巣と索状性腺の共存
・XX male:精巣形成遺伝子の誤作動
・精巣退縮:退治精巣維持障害

<男性仮性半陰陽>
・ライディッヒ細胞低形成:hCG / LH receptor 遺伝子異常
・Smith – Lemli – Opitz 症候群:コレステロール産生障害
・先天性副腎リポイド過形成:ミトコンドリア内膜へのコレステロール輸送障害
・ステロイドホルモン産生障害:テストステロン産生障害
・5α- reductase 欠乏症:ジヒドロテストステロン変換障害
・アンドロゲン不応症:アンドロゲンレセプター遺伝子異常
・矮小陰茎 / 停留精巣:胎児のゴナドトロピン遺伝子異常
・ミュラー管遺残症:抗ミュラー管ホルモン分泌および受容体の遺伝子異常

<女性仮性半陰陽>
・ステロイドホルモン産生異常:副腎由来の男性ホルモン過剰
・胎盤 aromatase 異常症:胎盤由来の男性ホルモン過剰
・Rokitansky 症候群:ミュラー管発生障害

<男女共通仮性半陰陽>
・ステロイドホルモン産生障害:3β-HDS異常症
・POR 異常症:ミクロゾーム酵素の複合異常


【参考】
・「まぎらわしい外性器の診断と対策は?」永井敏郎:小児内科 Vol. 37 No. 8 2005