急性上気道炎

急性上気道炎 acute upper respiratory inflammation


【症状】
 上気道の炎症により、粘膜の腫脹、粘液分泌亢進をきたし、疼痛や発熱も伴う。
 鼻炎と副鼻腔炎は同時性、続発性に存在することが多く、「鼻副鼻腔炎」と呼称される。
 鼻咽腔の細菌叢より耳管を経由して病原微生物が中耳腔に侵入すると、急性中耳炎が発症する。

【病原体】
 上気道炎の感染初期にはウイルス感染が優位で、感冒症状を呈する。
 ウイルス感染により、気道のクリアランスや粘膜防御機構が傷害されると、好気性細菌である肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、モラクセラ・カタラーリス、溶連菌などが増殖し、細菌感染優位へと移行し、症状の増悪がみられる。
 さらに炎症が遷延すると、嫌気性菌であるプロボテラ属、フソバクテリウム属、ペプトストレプトコッカス属などによる感染へと移行する。

 ヒト鼻咽腔には生後早期から細菌叢が形成されており、主な構成要因は肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、モラクセラ・カタラーリスであり、普段は無症候性に存在している。最近では肺炎球菌ワクチンの普及により、相対的に肺炎球菌の割合が減少している。一方、インフルエンザ桿菌のなかではアンピシリン耐性株(βラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性株:BLNAR)が増加している。

【急性鼻副鼻腔炎】
 急性副鼻腔炎は、「急性に発症し、発症から4週間以内の鼻副鼻腔の感染症で、鼻閉、鼻漏、後鼻漏、咳嗽といった呼吸器症状を呈し、頭痛、頬部痛、顔面圧迫感などを伴う疾患」である
(急性副鼻腔炎診療ガイドライン2010)
 鼻炎による鼻粘膜の発赤・腫脹は重症度との相関は低い。
 軽症例ではウイルス感染の可能性が高く、鼻処置と解熱鎮痛剤による対症療法にて5日間経過観察することが推奨される。
 遷延例や中等〜重症例は細菌感染の可能性が高くなるため、アモキシシリンやアンピシリンを中心とした抗菌薬治療を検討する。

・小児の重症度分類

  症状・所見 なし 軽度/少量 中等以上
 臨床症状 鼻漏 0 1
時々鼻をかむ
2
頻繁に鼻をかむ
不機嫌・湿性咳嗽 0 1
咳がある
2
睡眠が妨げられる
 鼻腔所見 鼻汁・後鼻漏 0
漿液性
2
粘膿性少量
4
中等量以上

 軽症:1〜3 中等症:4〜6 重症:7〜8

【急性中耳炎】
 急性中耳炎は、「急性に発症した中耳の感染症で、耳痛、発熱、耳漏を伴うことがある」。「急性」は3週間以内が目安とされる。
(急性中耳炎診療ガイドライン2018)
 耳痛・耳漏などの耳症状は、約3/4にみられる。
 鼓膜の膨隆は、中耳貯留液の存在を疑わせる。
 軽症例はウイルス感染の可能性が高く、解熱鎮痛剤による対症療法が第一選択となる。3日以上の経過観察によって改善しない軽症例や中等症以上の症例は、細菌感染を考慮して抗菌剤治療を検討する。

・小児の急性中耳炎重症度

 24ヶ月齢未満 3
 臨床症状  耳痛 0 1
痛みあり
2
持続性高度
 発熱 0
37.5℃未満
1
38.5℃未満
2
38.5℃以上
 啼泣・不機嫌 0 1  
 鼓膜所見  鼓膜発赤 0 2
ツチ骨柄・鼓膜一部
4
鼓膜全体
 鼓膜膨隆 0 4
部分的な膨隆
8
鼓膜全体の膨隆
 耳漏 0 4
鼓膜観察可
8
鼓膜観察不可

 軽症:1〜5 中等症:6〜11 重症:12以上

【急性上気道炎の主な病因ウイルス】
・ライノウイルス:100以上の血清型
・コロナウイルス:主に成人に感染
・インフルエンザウイルス:パンデミック感染、細菌感染の重症化
・RSウイルス:乳幼児の上気道感染症で最多
・パラインフルエンザウイルス:小児では急性感染、成人では無症状
・アデノウイルス:50以上の血清型、多彩な臨床像
・ヒトメタニューモウイルス:10歳までに感染


【参考】
・急性上気道炎(鼻副鼻腔炎・中耳炎)ー診断の決め手となる症状と原因病原体:河野正充、保富宗城:小児内科 Vol.51 No.2 2019