免疫性小脳失調症

免疫性小脳失調症 immune-mediated cerebellar ataxia : IMCAs
autoimmune cerebellar ataxia


【概念】
 免疫性小脳失調症は、免疫性機序により小脳失調症状を示す疾患の総称。
 小脳以外の病変による症状を合併することもある。
 自己免疫的な機序で小脳とその入出力系が障害されていることを証明することによって診断される。
 免疫療法が適応となるが、予後はさまざまである。

【SRCA consensus paper 2016分類】
1. 小脳障害を主とするもの
 1)自己免疫の誘因が明確なもの
  ・グルテン失調症 Gulten atazia : GA
  ・急性小脳炎 Acute cerebellitis
   または感染後小脳炎 post-infectious cerebellitis : PIC(感染性)
  ・Miller Fischer 症候群(感染性)
  ・傍腫瘍性小脳変性症 paraneoplastic cerebellar degenerations : PCD(悪性腫瘍)
  ・Opsoclonus myoclonus 症候群 : OMS(後から追加)
 2)自己免疫の誘因が不明確なもの
  ・抗GAD抗体関連小脳失調症 Cerebellar ataxia associated anti-GAD Abs
  ・橋本脳症小脳型 Cerebellar type of Hashimoto’s encephalopathy
 3)自己免疫の機序で小脳失調を主徴とするが、上記の病型の特徴にあわないもの primary autoimmune cerebellar ataxia : PACA
  既知の病型には属さないが、、亜急性の経過で、小脳失調と少脳萎縮を示し、自己免疫疾患の既往があり、免疫療法に反応を示す症例。髄液で小脳皮質を標的とする抗体がみられることもある。複数の未知の病型が含まれる。
2. さまざまな部位が障害され小脳障害はその一つとするもの
  ・多発性硬化症
  ・SLE
*SRCA : Society for Research on Cerebellum and Ataxia

【診断】
・亜急性から慢性の小脳失調で、特に歩行失調が顕著。
・他の神経症候をともなうこともある。
・髄液に炎症細胞増加やオリゴクローナルバンドを認めることもある。
・MRIで病期に相当した少脳萎縮を認める。
・自己免疫機序が背景に存在する
 自己免疫疾患の合併、主に小脳に対する自己抗体の存在
・自己抗体は以下の3種類に分類される。
 ①特定の病型を示す well characterized autoantibodies
 ②IMCAsを含みさまざまな免疫性疾患に合併する自己抗体
 ③少数例のIMCAsにしか報告されておらず、その性状がまだ不明な自己抗体

【病態生理】
1)細胞性免疫を介するもの
 某腫瘍性小脳変性症(PCD)が代表的。病理学的にはリンパ球、形質細胞、ミクログリア/マクロファージが血管周囲から小脳皮質に浸潤し、プルキンエ細胞が広範に脱落する。
 Yo (cdr2)やHuなどの onconeural antigensは腫瘍細胞や神経細胞の細胞質に存在する。
2)自己抗体の作用に寄るもの
 ①放出機構の障害:抗GAD抗体
 GADは興奮性伝達物質であるグルタミン酸から、抑制性伝達物質のGABAを合成する酵素である。抗GAD抗体は抑制性ニューロンからのGABA放出を減少させる。
 GABA放出が減少すると、抑制性シナプスの抑制と同時に興奮性シナプスの増強が起き、プルキンエ細胞は顕著な興奮を示して細胞死に至る。
 ②シナプス構成蛋白の障害:抗GluRδ抗体
 GluRδはグルタミン酸に活性化されず、ニューレキシン、CbLn1と複合体を形成してシナプスの形成、維持、伝達の調節に関わるシナプス構成蛋白 synaptic organizing proteinである。抗GluRδ抗体はPICの一部にみられる。
 ③受容体の障害:抗mGluR1抗体
 代謝調節型グルタミン酸受容体1型 metabotropic glutamate receptor 1 : mGluR1に対する抗体はホジキンリンパ腫に合併するPCDとPACAにみられる。

【治療】
・自己免疫の機序が明確な場合は、まずこれを除去し抗原刺激を回避する。
・無効例または機序が不明な例では免疫療法を行う。
 治療反応性のもの:PIC、GA、亜急性の anti-GAD ataxia、OMS
 治療抵抗性のもの:慢性の anti-GAD ataxia、PCD
・小脳にはほかの中枢神経部位と比較して強い自己対償・修復機能があるので、この予備脳 cerebellar reserveが維持されている間に治療介入し、病勢の進行を止めた上で回復につなげることを目的とする。


【参考】
・脳神経内科、93(1) : 100-108, 2020