丹毒 Erysipelas・蜂窩織炎 Cellulitis
【概念】
皮膚軟部組織の細菌感染症で、病変が皮膚表層、特に真皮に限局したものが丹毒 erysipelas、真皮から皮下組織に至るものが蜂窩織炎(蜂巣炎) cellulitisである。
〈丹毒 erysipelas〉
【病原体】
ほとんどがA群連鎖球菌による。まれにC群、G群連鎖球菌。
新生児ではB群連鎖球菌もみられる。
ごくまれに黄色ブドウ球菌も原因となる。
【臨床症状】
乳幼児と高齢者に多い。
限局した発赤と腫脹で始まり、境界を保ちながら急速に拡大する。
病変部は鮮紅色で周囲の正常皮膚より隆起し、境界鮮明であることが特徴。
70〜80%は下肢に、5〜20%は顔面にみられ、顔面では鼻唇溝に沿って境界明瞭な浸潤局面ができる。
表面には水疱・膿疱がみられることもある。
悪寒、発熱、全身倦怠感などの全身症状を伴う。
第5〜10病日に病変部の落屑がみられる。
【感染経路】
皮膚の潰瘍、外傷や擦過傷、湿疹、皮膚白癬などから菌が侵入する。
リンパ流の障害や浮腫、静脈うっ滞のある部位に発生しやすい。
【診断】
・2セットの血液培養
・病変部からの原因菌分離
〈蜂窩織炎 cellulitis〉
【病原体】
A群連鎖球菌と黄色ブドウ球菌が主。まれにC群、G群レンサ球菌。
新生児ではB群連鎖球菌、乳幼児では肺炎球菌やインフルエンザ菌b型(Hib)も原因となる。
白血球減少状態では緑膿菌、先天性無γグロブリン血症ではカンピロバクター属も原因となりうる。
海産物・鶏肉・豚肉を扱う職業では、Erysipelothrix rhusiopathiaeによる類丹毒もみられる。
【臨床症状】
局所の圧痛、疼痛、紅斑で始まり、急速に悪化し、悪寒・発熱・全身倦怠感が出現する。
病巣は広範に及び、発赤、熱感、腫脹が著明となる。
境界は不鮮明で、複数の病変部位が離れて存在することもある。
水疱、膿疱、局所リンパ節腫脹、皮下膿瘍がみられることもある。
下肢に好発するが、乳幼児ではHibが頬部、肺炎球菌が眼窩周囲に炎症をおこすことが多い。
【感染経路】
外傷やせつ・癰などの皮膚病変から進展する。
【診断】
・2セットの血液培養
・局所の穿刺吸引による原因菌分離
【治療】
A群連鎖球菌と黄色ブドウ球菌を想定した治療が標準的。
基本は経静脈的投与だが、経口薬へのスイッチや、軽症の場合は初期からの内服治療も可能。
下肢病変の場合は下肢挙上も重要。
末梢性浮腫が持続すると蜂窩織炎を繰り返すことがあるため、サポーターストッキングの使用、皮膚の衛生的ケアを行い、場合によってはペニシリン系薬等の予防投与を行う。
【註記】
【参考】
・西順一郎「丹毒、蜂巣炎(蜂窩織炎)」:日医雑誌 第143巻・特別号(2) 2014
【作成】2017-06-10