デング熱 dengue fever
【概念】
デングウィルスの感染によっておこる疾患。一過性の発熱疾患である予後良好なデング熱と、重篤な症状をきたすデング出血熱の2つの病態がある。
世界の熱帯・亜熱帯地域のほぼ全域で発生がみられる。特に東南アジア、南アジア、中南米に多い。日本では輸入感染症として知られるのみだったが、2014年夏には東京で小流行がおこった。
【病原体】
・フラビウイルス科フラビウイルス属のデングウイルス dengue virus。
・1〜4型の4つの型があり、1つの型に感染すると終生免疫を獲得する。
・蚊の唾液から感染したウイルスは皮膚のランゲルハンス細胞あるいは所属リンパ節の単球・マクロファージ系細胞で増殖し、1次ウイルス血症となる。各臓器に到達したウイルスは網内系細胞で増殖し、2次ウイルス血症をおこすと考えられているが、主にどの臓器で増殖するのかはまだ明らかでない。
【疫学】
・夏季に多く、小児に好発する。不顕性感染も多いと考えられる。
・ヒトが自然宿主で、蚊-ヒト-蚊の感染環で維持される。
ネッタイシマカおよびヒトスジシマカが媒介する。
・ヒトからヒトへの感染はない。
1)デング熱 dengue fever
潜伏期間:3〜14日(通常2〜7日)
発熱で発症(単なる発熱のみで終わる例もある)。
頭痛、眼窩痛、腰痛、筋肉痛、関節痛が主症状で、腹痛、悪心・嘔吐、脱力・倦怠感を伴う。3〜5病日に麻疹様発疹が体幹、顔面に出現し、四肢に拡がる。
二峰性発熱が特徴的で、全身のリンパ節腫脹、知覚過敏、味覚異常、呼吸器症状(上・下気道炎)、結膜充血もみられる。
末梢白血球の減少、血小板減少や出血傾向がみられることもある。
約1週間で症状は消失し、通常後遺症もなく回復する。
2)デング出血熱 dengue hemorrhagic fever
デング熱とほぼ同様の発症・経過をとるが、特に解熱時に血漿漏出および出血傾向を主体とする重篤な病態が出現する。
血管の脆弱化、透過性亢進、循環血漿量の減少と血液凝固系の異常が病態である。
不穏・興奮状態となり、発汗と四肢の冷感がみられ、ときに中枢神経症状を伴う。
・血漿漏出によるヘマトクリット上昇、胸水・腹水の貯留が高率に出現する。
・肝腫大が高頻度にみられる。
・補体活性化がおこり、C3は減少、C3a、C5aは上昇する。
・血小板減少(10万以下)、血液凝固時間延長。
・出血傾向は点状出血、出血斑、鼻出血、消化管出血、血便など
重篤例ではDICをきたし、ショック状態(デングショック症候群dengue shock syndrome)となると、頻脈、脈圧低下、低血圧、四肢冷感、興奮状態におちいる。
【診断】
Ⅰ デング熱
1)急性の熱性疾患で、次の症状のうち2つ以上が存在する
頭痛、眼窩痛、筋肉痛、関節痛、発疹、出血傾向、白血球減少
2)病原体検査結果
・ウィルスの分離
・RT-PCR法によるウィルス遺伝子の検出
・特異的IgM抗体の検出
・ペア血清で特異的IgG抗体の上昇
Ⅱ デング出血熱
1)以下の4症状
① 2〜7日持続する発熱、ときに2峰性パターンをとる
② 出血傾向:
・tourniquetテスト陽性
・点状出血、斑状出血、紫斑
・粘膜、消化管、注射部位や他の部位からの出血
・血便
③ 血小板減少:10万以下
④ 血管透過性亢進による血漿漏出:
・ヘマトクリット上昇(同性・同年代のヒトに比べ20%以上上昇)
・胸水、腹水の存在や血清蛋白の低下
・補液してもヘマトクリットが標準値より20%以上低下
2)病原体検査結果(同上)
Ⅲ デングショック症候群
1)デング出血熱の症状の存在に加えて以下の症状が存在
① 速く弱い脈拍
② 脈圧の低下(20mmHg未満)
③ 低血圧
④ 冷たく湿った皮膚、興奮状態
【治療・予防】
・対症療法のみ。
・アスピリンの投与は出血傾向の増悪やライ症候群発症の可能性があるので禁忌。
・ワクチンはない。
【註記】
【参考】
【改訂】2016-12-23