感染性腸炎
1. 細菌性腸炎
起炎菌として最も多いのはカンピロバクターで、次いでサルモネラ。他に腸管出血性大腸菌腸炎、腸炎ビブリオ、エルシニア腸炎などがある。
下痢原性大腸菌は5つに分類されるが、腸管出血性大腸菌腸炎を除き、対症療法で軽快することが多い。血清型O157に代表される腸管出血性大腸菌腸炎は重症化する例も多く、少数の菌量で感染が成立する。
超音波検査やCT検査で、細菌性腸炎の多くは上行結腸から横行結腸の壁肥厚を認め、エルシニア腸炎や腸炎ビブリオでは終末回腸の壁肥厚を認める。
治療は、補液などの対症療法で改善が期待できない場合にのみエンピリックセラピーとしてニューキノロン系抗菌薬やホスホマイシンの投与を行う。
病原性微生物 | 病変部位 | 内視鏡像の特徴 |
カンピロバクター | 空回腸から全大腸 | 発赤班が正常な血管透見を有する粘膜と混在 |
サルモネラ | 終末回腸(82%) 上行結腸またはS状結腸(60%) |
特徴的所見なし |
腸管出血性大腸菌 | 全大腸、右側が多い | 発赤やびらん、出血や浮腫、縦走潰瘍や偽膜形成 |
腸炎ビブリオ | 終末回腸 | 回盲弁の腫大、発赤、びらん |
エルシニア | 終末回腸 | 小半球状隆起にびらんや小潰瘍を形成 |
Clostridioides difficle | S状結腸や直腸 重症例では深部大腸 |
半球状の黄白色隆起 |
2. ウイルス性腸炎
原因としてノロウイルスとロタウイルスが多い。
成人のウイルス性腸炎は軽症例が多いが、小児や高齢者、免疫不全患者では重症化することもある。
治療は対症療法が中心だが、小児のロタウイルス腸炎では腸重積や心筋炎などの合併に注意する。
3. Clostridioides (Clostridium) difficile 感染症
C. difficle は成人の約10%が保菌しており、トキシンA, Bという2つの毒素を産生する芽胞菌。
院内感染性の腸炎の75%を占める。入院して48時間以降に抗菌薬投与中または投与後の感染性腸炎であれば疑う。
主症状は下痢で、発熱や腹痛も認める。ときにイレウスを併発し、重症例では中毒性巨大結腸症となる。
診断はGDH抗原と便中トキシンA, Bの有無による。GDH抗原陽性でトキシンが陰性の場合は保菌しているC. difficle を検出している可能性がある。
診断が確定したら、軽症から中等症にはメトロニダゾール(MNZ)、重症にはバンコマイシン(VCM)の内服が推奨される。
【参考】
・Medical Practice 2019 臨時増刊号 vol. 36 「実践的感染症診療」