蚊媒介感染症
世界で最も人を殺害する動物は蚊である。
ヤブカ属シマカ類によって媒介される感染症。
シマカ類は世界に130種生息しており、なかでもネッタイシマカとヒトスジシマカが優れた媒介能力を持つ。
ネッタイシマカはアフリカを起原とし、熱帯・亜熱帯地域に広く生息する。人吸血性が高く、昼間に活動する。
ヒトスジシマカは北海道を除く日本列島に広く生息しており、夜に活動する。
Ⅰ デング熱
【病原体】
フラビウイルス科フラビウイルス属デングウイルス
1本鎖RNAで、1〜4型まで4種類の血清型がある。
【疫学】
熱帯・亜熱帯地域、特に東南アジア、南アジア、中南米、カリブ海諸国。
毎年約4億人が発症し、2万人以上が死亡する。
日本では年間200〜300例の輸入例あり。
【臨床症状】
潜伏期4〜7日
頭痛、眼痛、関節痛をともなう高熱(38.5℃以上)で発症
発熱は3〜7日持続
解熱時に全身性の紅斑:体幹部から始まり、顔面・四肢に拡大
critical phase(解熱時の1〜2日):全身性血管透過性亢進による血症漏出、出血、ショック、臓器障害をきたしうる。
【重症デング警告兆候】
・腹痛・腹部圧痛
・持続する嘔吐
・体液貯留
・粘膜出血
・嗜眠・不穏
・2cm以上の肝脾腫
・血小板減少を伴うHt値(20%以上)の上昇
【診断】
熱帯・亜熱帯地域への渡航歴
ターニケットテスト(出血傾向のチェック)
確定診断は ①PCR法による遺伝子検出、②非構造蛋白抗原の検出、③IgM抗体検出のいずれかによる。
四類感染症:診断した医師は直ちに管轄保健所に届出が必要
【治療】
有効な抗ウイルス薬はなく、対症療法のみ。
血算(特にHt値と血小板値)のチェック(特に critical phase)
入院適応:重症デング警告兆候、小児、妊婦、高齢者、基礎疾患
代謝性ショックや低血圧性ショックの治療
NSAIDsは出血症状を悪化させるおそれがある
アセトアミノフェンは使用可。
重症デングの致死率は2〜5%
Ⅱ チングニア熱
【病原体】
トガウイルス科アルファウイルス属チングニアウイルス(RNA)
チングニアとは「かがんだ歩行」の意味。
【疫学】
熱帯・亜熱帯地域、特に東南アジア、南アジア、アフリカ、中南米。
日本では年間10数例の輸入例あり。
ネッタイシマカの100倍以上もヒトスジシマカの体内で増殖する突然変異株(A226V)がある。垂直感染(母子感染)の報告もある。
【臨床症状】
潜伏期間3〜7日
高熱、倦怠感で発症。
関節痛が特徴的:全身性かつ左右対称性で、浮腫を伴うことが多い。
頭痛、皮疹、リンパ節腫脹などもあり。
急性期症状は7〜10日程度で軽快する。
40%の患者に慢性関節炎:数ヶ月〜数年持続し朝のこわばりや滑膜炎を伴う。
【診断】
熱帯・亜熱帯地域への渡航歴
臨床症状:関節炎を伴う発熱
確定診断:RT-PCR、IgM抗体、中和抗体、ウイルス分離検査による。
四類感染症:診断した医師は直ちに管轄保健所に届出が必要
【治療】
有効な抗ウイルス薬はなく、対症療法のみ。
NSAIDs使用可だが、診断前は控える
予後良好。まれに重度合併症で死亡例あり。
Ⅲ ジカウイルス感染症
【病原体】
フラビウイルス科フラビウイルス属ジカウイルス
1947年にウガンダのアカゲザルから分離。
【疫学】
2000年代後半までは散発的に発生。
2007年より各地でアウトブレイクが起こり、流行域も急速に拡大。
熱帯・亜熱帯地域、特に東南アジア、アフリカ、中南米
日本ではこれまで約20例の輸入例あり(2020現在)。
蚊媒介感染の他、垂直感染(経胎盤および経産道)、性行為感染、輸血による感染もあり、性行為を介さないヒト−ヒト感染の報告もあり。
ウイルスRNAは感染患者の血液、尿、唾液、脳脊髄液、精液、女性生殖器分泌液、羊水、母乳、涙液などから分離される。
【WHOによる性行為感染の予防勧告】
流行地域からの帰国者は
男性3ヶ月、女性2ヶ月間の性行為時のコンドーム着用奨励
妊娠期間中のコンドーム着用奨励
【臨床症状】
潜伏期間2〜7日。80%は不顕性感染。
微熱、斑状丘疹様皮疹、眼球結膜充血
急性症状は2〜7日で軽快
まれにギランバレー症候群、脳髄膜炎、脊髄炎を合併。
【先天性ジカウイルス感染症】
妊婦が感染すると、胎児に先天性障害をきたしうる。
小頭症、網膜異常、先天性内反足、関節拘縮など。
妊娠初期〜中期でリスクが高いが、後期の感染でもおこりうる。
【診断】
熱帯・亜熱帯地域への渡航歴+臨床症状
確定診断:RT-PCR、IgM抗体、中和抗体、ウイルス分離検査による。
検体は血液と尿の両方を用いる。
四類感染症:診断した医師は直ちに管轄保健所に届出が必要
【治療】
有効な抗ウイルス薬はなく、対症療法のみ。
一般に軽症例が多く、予後は良好。