インフルエンザ肺炎

インフルエンザウイルス肺炎


【発症機序】
 インフルエンザウイルスは細胞表面の糖鎖をレセプターとして認識し細胞に吸着する。

 ヒトインフルエンザウイルスはこの糖鎖末端のシアル酸とガラクトースがα2-6結合したものをレセプター(ヒト型レセプター)として認識する。ヒト型レセプターは主に鼻腔から気管支までの上皮細胞での発現が多く、細気管支から肺胞にかけて発現が少ない。
 鳥インフルエンザウイルスは糖鎖末端のシアル酸がガラクトースとα2-3結合したものをレセプター(トリ型レセプター)として認識する。トリ型レセプターは鼻腔から気管支にかけての発現は少なく、細気管支から肺胞にかけて多く発現している。

 そのため、ヒトインフルエンザに感染した場合、上気道から気管支での炎症が主体となり、肺胞レベルでのウイルス性肺炎は少ない。
 鳥インフルエンザ(H5N1など)は上気道でレセプターの発現が少ないために感染が成立しづらいが、いったん下気道に達すると細気管支から肺胞で増殖するためウイルス性肺炎をきたしやすく、急性呼吸促迫症候群(ARDS)など重篤な状態に至ることが多い。
 2009年に出現した新型インフルエンザウイルス H1N1 pdm09はヒト型と鳥型の両方のレセプターを認識する性質を有していたため、ウイルス性肺炎からARDSに至り、多くの患者が死亡した。

【症状】
 インフルエンザウイルスはまずヒト型レセプターが多く分布する鼻腔内の上皮細胞に感染し増殖する。
 典型例では突然の38℃以上の発熱と鼻汁、咳嗽などの上気道症状で発症する。倦怠感、筋肉痛、嘔吐・下痢などを伴うこともある。
 ウイルスが下気道に達すると湿性咳嗽となる(発症2〜3日後より目立つ)。その後症状は次第に軽快していく。
 H3N2ウイルスやB型ウイルスはヒト型レセプターに親和性が高いため、ウイルス性肺炎に進展することはまれである。

 H1N1 pdm09ウイルスは細気管支や肺胞に分布するトリ型レセプターに親和性が高いため、容易にウイルス性肺炎を引き起こす。
 発症当日から翌日にかけて急激に呼吸困難症状が進行し、ARDSに至る。

<鋳型気管支炎>
 直接的なインフルエンザの炎症が原因となり、脱落した細胞や粘液が気管支腔内に広く充満し、鋳型気管支炎の像を呈することがある。
 インフルエンザの経過中に呼吸困難、酸素飽和度低下、胸部X線写真での広範な無気肺像を認める場合は鋳型気管支炎を考える。
 アレルギー素因がある場合には、分泌物の増加と喘息性の気管支攣縮によって鋳型気管支炎を合併することがある。
 鋳型気管支炎は急速に呼吸不全になり死に至る場合もあるので、重篤な場合には気管支鏡検査を施行し、粘液栓を除去する必要がある。


【参考】
・インフルエンザウイルス肺炎(鋳型気管支炎):佐藤晶論 小児内科 Vol. 51 No. 2 2019