精神症状

精神症状


Ⅰ 知覚の異常 disturbance of perception

【概念】
・知覚の異常には、錯覚と幻覚がある。
・錯覚とは、現実に存在するものを誤って認知すること。
・幻覚とは、現実に存在しないものを存在するかのごとく知覚すること。
・錯覚は健常人でもみられるが、幻覚はみられない。
・機能性幻覚とは、現実の知覚に幻覚が起こること。

Ⅱ 意欲の異常 disturbance of volition

【概念】
・意志と欲動を合わせて意欲という。
・欲動とは、生命や生活の維持に必要な行動を起こす力(生理的欲求)である。
・欲動の異常には、食欲の異常、異食症(食欲の質的異常)、性欲の異常、睡眠の異常(不眠・過眠)、自傷(自己保存欲に抗する)などがある。
・食欲・性欲の低下はうつ病、亢進は躁病や精神遅滞、認知症などでみられる。

・意志とは、欲動を抑制したり発動させたりする精神作用である。
・意志の異常には、行為心迫・運動心迫、制止・途絶、混迷などがある。
・行為心迫とは、意志によって行動が抑制できない状態のうち、行動内容が第三者に理解可能なものをいい、躁病性興奮などでみられる。
・運動心迫とは、意志によって行動が抑制できない状態のうち、行動内容が第三者に理解不能なものをいい、統合失調における緊張病性興奮などでみられる。
・制止とは、意志の発動が障害され、活動性や思考の進行が遅くなる状態で、欲動自体は低下しない。うつ病でみられる。
・途絶とは、対立する意志傾向の共存により、突然行為が止まる状態で、統合失調症でみられる。
・混迷とは、外界の刺激に全く反応しなくなる状態(意識は清明)で、うつ病、ヒステリー、緊張病などでみられる。

Ⅲ 自我意識の異常 disturbance of self-consciousness

【概念】
・自我意識とは、外界に対立するものしての自己に対する意識である。
・自我意識の異常には、離人症や作為体験(させられ体験)、解離症状、多重人格などがある。
・離人症とは、自己・外界について生き生きとした実感が持てず、現実感が失われた状態である。情緒不安定、自己愛的、自己防衛的な人が、強い精神的葛藤、激しい興奮、出産、過労などを契機として発症することがある。また、統合失調症、うつ病、てんかんなどでもみられる。
・作為体験とは、行動しているのは確かに自分だが、他者によってさせられているような体験である。自我の能動性が失われた状態で、統合失調症に特徴的。

Ⅳ 思考の異常 disturbance of thinking

【概念】
・思考の異常は、思考過程の異常、至高体験の異常、思考内容の異常に分けられる。

1)思考過程の異常
・観念奔放は、次から次へと観念(考え)が浮かぶが、全体のまとまりに欠ける状態で、躁病でみられる。
・思考制止は、観念が浮かんでこない状態で、うつ病でみられる。
・思考途絶は、思考が途中で突然停止する状態で、統合失調症でみられる。
・滅裂思考とは、個々の観念の間に意味の結びつきが認められない状態であり、連合弛緩はその軽症で、大意をとることは可能であるが、「言葉のサラダ」はその重症で、無関係な単語が羅列され、大意をとることができない状態をさす。統合失調症でみられる。
・保続は、思考が前に進まない状態の内、同じ観念が繰り返し現れるもので、迂遠は、細かいことにとらわれて思考が散乱する状態である。認知症やてんかんなどの器質性脳障害でみられる。

2)思考体験の異常
・強迫観念とは、自分でも不合理だとわかる観念が絶えず頭に浮かんでくるが、その観念を払いのけることができず、払いのけようとする努力によりいっそう不安が増す状態。
・恐怖症とは、特定の対象に対して強い不安や恐怖を感じる状態で、広場恐怖、対人恐怖、閉所恐怖などがある。
・作為思考とは、作為体験が思考に現れたもので、思考吹入、思考奪取、思考干渉、思考伝播、思考察知などがある。
・支配観念とは、ある観念が感情的に強調されて意識の中心にある状態であり、思考内容は了解可能であり、病的ではない。

3)思考内容の異常
・妄想 delusionとは、間違った推論によって生じた、外界の現実についての誤った確信のことであり、論理的に説明されても訂正できない。

・一次妄想(真性妄想)とは、その生じ方が心理的に了解できないものであり、統合失調症の主症状のひとつである。
・妄想気分とは、周りがいつもと違い、何か不気味で大変なことが起こりそうだという不安に襲われる状態(世界没落体験など)。
・妄想知覚とは、実際に知覚されたものに対して特別な意味付けをする状態をいう。
・妄想着想とは、突然頭に浮かんだことをそのまま確信する状態。

・二次妄想(妄想様観念)とは、心理的な状況、環境、性格などから妄想の形成がそれなりに了解できるものをいう。
・微小妄想には、罪業妄想、貧困妄想、心気妄想などがあり、うつ病でみられやすい。
・誇大妄想には、血統妄想、宗教妄想、発明妄想、恋愛妄想などがあり、躁病や統合失調症などでみられる。
・被害妄想には、迫害妄想、嫉妬妄想(アルコール精神病に多い)、関係妄想、注察妄想などがあり、統合失調症などでみられる。

Ⅴ その他の精神症状

・感応精神病:妄想患者と親しい関係にある人(家族など)が、次第にその患者と同様な症状を呈するようになるもので、二人組精神病ともよばれる。
・拘禁精神病:刑務所・収容所などに拘禁された状況で精神病状態を呈するもの。
・祈祷精神病:祈祷を中心とする宗教的儀式を契機として憑依妄想や人格変換などを呈する状態。