尿路感染症 UTI

尿路感染症 urinary-tract infection : UTI


【分類】
1)臨床経過による分類:急性、慢性
2)基礎疾患の有無による分類:単純性、複雑性
3)病変部位による分類:膀胱炎、腎盂腎炎、前立腺炎、精巣上体炎

*複雑性に分類される基礎疾患として次のものがある
① 尿排泄障害や尿管内異物を伴うもの:膀胱尿管逆流、尿路狭窄、尿管結石、腎盂・尿管腫瘍、前立腺肥大症、神経因性膀胱、膀胱結石、膀胱腫瘍、尿道カテーテル留置など
② 全身性感染防御機能の低下状態
③ 解剖学的に逆行性感染を起こしにくい男性

1. 急性膀胱炎
 単純性急性膀胱炎は若年女性に多い。
【症状】
 主な症状は下腹部違和感、排尿時痛、頻尿、残尿感、尿意切迫感などの膀胱刺激症状。発熱は認めない。尿混濁や肉眼的血尿がみられることもある。
 複雑性膀胱炎では自覚症状に乏しいことある。
【検査】
 尿検査にて有意な膿尿(400倍視野で、1視野に白血球5個以上 (>5/HPF)、細菌尿。

2. 急性腎盂腎炎
 一般的に若年女性に多く見られる。
【症状】
 悪寒・戦慄を伴う38℃以上の発熱、患側の腰背部痛やCVA knock pain(肋骨脊柱角の叩打痛、双手診で患側の腎臓の違和感や痛み。
 膀胱炎症状を伴うこともある。時に吐気・嘔吐などもみられる。
【検査}
 尿検査にて有意な膿尿・細菌尿を認める。
 血液検査で白血球やCRP上昇がみられる。
 腹部エコーでは患側腎の腫大や水腎症などの所見がみられることもある。
 腹部CTでは、患側腎の腫大、腎周囲脂肪組織の毛羽立ち、造影でのくさび状低吸収域などの所見がみられる。

3. 急性細菌性前立腺炎
【症状】
 発熱、頻尿、排尿時痛、尿意切迫感、下腹部・会陰部の不快感や痛みなど。
 排尿困難や尿勢低下、時に尿閉をきたす。
【検査】
 尿検査にて膿尿がみられる。
 血液検査では白血球・CRP増加、血清PSA値上昇がみられる。
 直腸診で熱感を伴う前立腺の腫大や圧痛がみられる。

4. 急性精巣上体炎
【症状】
 患側の精巣上体の腫大、自発痛、圧痛、陰嚢皮膚の発赤がみられる。
 発熱を伴うことが多い。
 若年男性の場合、性感染症に起因することも多い。
【検査】
 尿検査にて膿尿がみられる。

【起炎菌】
1. 単純性尿路感染症
 グラム陰性桿菌が全体の約8割を占め、その大半が大腸菌である。その他、Proteus mirabillisや Klebsiella属がみられる。
 閉経前の女性では、Staphylococcus saprophyticusに代表されるグラム陽性球菌が約20%にみられるが、閉経後は分離頻度が低下する。
 薬剤耐性菌の頻度は複雑性に比べて少ない。

2. 複雑性尿路感染症
 グラム陰性桿菌が多く、中でも大腸菌が最も多い。その他、Klabsiella属、Citeobacter属、Enterobacter属、緑膿菌などがみられる。
 グラム陽性球菌では、Enterococcus faecalis、Streptococcus属など、多岐にわたる。
 薬剤耐性菌の頻度も比較的高い。

【治療】
・すべての急性尿路感染症ではキノロン系抗菌薬が第一選択となる。
・急性単純性膀胱炎でグラム陰性桿菌を疑う場合はセフェム系抗菌薬も推奨される。
・一般に軽症例では経口抗菌薬による外来治療が可能である。しかし、重症例は敗血症の危険性があるため、入院の上で注射薬を使用する。
・原則として、指定された期間抗菌薬の投与を継続する。
・広域スペクトラムの抗菌薬の場合、治療開始3日後を目安にエンピリックセラピーの効果を判定し、改善不十分であれば抗菌薬の変更を検討する。
 また、培養、感受性結果が判明した時点で、よりスペクトラムが狭く感受性良好な抗菌薬に切り替える。
・抗菌薬投与終了後、数日の休薬を挟んで身体所見、尿検査、血液検査などから感染の再燃がないことを確認して治療終了とする。

・尿管結石や腫瘍による尿管閉塞が背景にある閉塞性腎盂腎炎と、腎実質の内外に細菌が産生したガスが貯留する気腫性腎盂腎炎は、時として急速に重症化して敗血性ショックを起こし、死に至る危険性があるため、抗菌薬治療のみでなく、緊急尿路ドレナージ術を必要とすることがある。
 閉塞性腎盂腎炎では尿管の閉塞原因とそれより上位の尿管・腎盂の拡張を認め、気腫性腎盂腎炎では腎盂・腎実質・腎周囲にガスの貯留を認める。


【参考】
・「尿路感染症」:亀井潤、久米春喜:MP Vol.36 臨時増刊号 2019