緑膿菌感染症

緑膿菌感染症


【概念】
 緑膿菌感染の多くは日和見感染であり、感染防御力が低下したコンプロマイズド・ホストにみられることが多く、通常健常者には病原性を示さない。
 本菌は多くの抗菌薬に耐性を示すため、難治性感染を起こしやすい。

【病原菌】
 緑膿菌 Pseudomonas aeruginosaは好気性のブドウ糖非発酵G陰性桿菌である。
 自然環境に広く存在し、ヒトの腸管内などにも常在していることがある。
 緑膿菌感染の多くは院内感染であり、さまざまなメカニズムにより各種の抗菌薬に耐性を示す。なかでもカルバペネム系、ニューキノロン系、アミノグリコシド系の3系統すべてに耐性を示す菌は多剤耐性緑膿菌 multiple-drug-resistant Pseudomonas aeruginosa (MDPR)と呼ばれる。
 多剤耐性緑膿菌は感染症法の五類感染症に指定されている。

【病態生理】
 緑膿菌は通常弱毒性であっても、エキソトキシンAなどの外毒素を産生し、さらにⅢ型分泌装置 type III secretion systemと呼ばれる分泌装置でエキソトキシンSなどの病原因子を細胞内に直接注入する仕組みを持っている。
 体内に人工異物が存在するとバイオフィルムを形成し、菌の排除が困難になる。
 また、好中球減少状態においては血中に菌が侵入しやすく、菌血症、敗血症、敗血症性ショックなど起こす。

【臨床症状】
1)呼吸器感染症
 COPDなど呼吸器系に基礎疾患のある患者においては持続感染を起こしやすい。
 急性増悪で喀痰量の増加や微熱、倦怠感を認める。
2)尿路感染症
 尿路系の基礎疾患を有する患者や尿路カテーテル挿入、術後などに慢性複雑性尿路感染を発症することがあり、膀胱炎や腎盂腎炎を起こし、再発しやすい。
3)菌血症、敗血症
 免疫不全患者、特に好中球減少例で高頻度に発生する。
 明らかな原発巣がみられない場合、腸管内に定着していた緑膿菌が bacterial translocationを起こして血管やリンパ組織内へと侵入し、さらに肝臓や胸管を経て全身循環系へ到達した可能性が高い。
 本菌のエンドトキシンが炎症性サイトカインの産生を促し、ショックやDICを高率に合併し予後不良になりやすい。
4)その他の部位の感染症
 中枢神経系では髄膜炎や脳膿瘍を発症することがある。
 心内膜炎は麻薬常用者に多く、右心系の感染は敗血症性肺塞栓を合併しやすく、左心系の感染は難治性の心不全または全身性の塞栓症を合併することがある。
 皮膚・軟部組織の感染は皮膚の防御バリアが傷害されている部位に起こりやすく、壊疽性膿瘍 ecthyma gangrenosumが知られている。
 頭頸部では外耳道炎の原因になりやすく、糖尿病患者では悪性外耳道炎と呼ばれる破壊性の感染を起こすことがある。
 眼では角膜炎を発症しやすく、角膜潰瘍を伴うことがある。
 外傷や術後に骨髄炎や関節炎を起こすことがある。
5)合併症
 患者の免疫不全が高度になればなるほど敗血症、DIC、ショック、多臓器不全になりやすい。

【検査・診断】
 血液検査で末梢血の白血球増多がみられることが多い。
 診断は各種臨床検体からの菌の分離・同定による。

【治療】
 一般にカルバペネム系、第3ないし第4世代セフェム系、抗緑膿菌ペニシリン系、キノロン系、アミノグリコシド系などが有効。
 MDRPに対してはコリスチンや抗菌薬併用など。
 呼吸器系の感染ではマクロライド少量長期療法が用いられることもある。


【註記】


【参考】


【作成】2017-07-03