アレルギーの概念
1. 免疫応答とアレルギー
免疫 immunityまたは免疫応答 immune responseとは、身体が外界からの異物の侵入に対して抵抗性を示し、感染等を防ぐための生体防御機構である。
自然免疫は異物の侵入から数時間以内に迅速に誘導される、生まれつき生体に備わった免疫応答であり、上皮細胞などの物理的バリアや、上皮細胞から分泌される抗菌ペプチドなどの液性因子、マクロファージやナチュラルキラー(NK)細胞などの働きによる。
獲得免疫は生体反応により時間をかけて誘導される免疫応答である。異物の情報(抗原)が樹状細胞やマクロファージの主要組織適合遺伝子複合体(MHC)を介してT細胞に伝達され、T細胞はさまざまなヘルパーT(Th)細胞サブセット(Th1細胞、Th2細胞、Th17細胞など)に分化・活性化する(T細胞免疫:細胞性免疫)。活性化したT細胞が産生する液性因子(サイトカイン)により、B細胞が異物に対して特異的な抗体を産生すると、抗体は異物に結合してこれを破壊することにより生体防御機能を発揮する(B細胞免疫:液性免疫)。
アレルギーとは、広義には抗原が抗体あるいは感作T細胞と必要以上に反応した結果生じる、生体にとって有害な過敏反応である。この場合、自己の抗原に対する過敏反応が起こる場合が自己免疫疾患である(Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ型アレルギー)。
狭義には、IgEが関与した全身性または局所性の急激に起こる過敏反応(Ⅰ型アレルギーまたはアナフィラキシー反応)をいい、この反応を引き起こす抗原をアレルゲンという。
2. アレルギー概念の確立と変遷
1) Koch現象
1891年、コッホ Kochは結核菌に感染したモルモットの皮下に結核菌を再感染させると、生体は抵抗性を示すどころか、逆に数日以内に局所的な発赤と腫脹を伴った炎症が起こり、やがて壊死を伴った瘢痕となって治癒する現象を発見した(Koch現象)。このことにより、生体防御としての免疫が生体にとって有害な過敏反応となる場合があることが実験的に示された。
2) アナフィラキシー
1902年、フランスのRichetとPortierはイソギンチャクの毒素に対する抗毒素を作る目的で、イヌに少量ずつ毒素を注入すると、最初は無症状だったイヌが数週後同量の毒素注入により呼吸困難、下痢、吐血により数時間以内に死亡することを発見した。Richetこの現象をアナフィラキシー anaphylaxisと名付けた。
3) アルサス反応
1903年、フランスのArthusはウサギの皮膚にウマの血清を繰り返し注射すると、注射局所に浮腫を生じ、出血・壊死から潰瘍形成に至る現象を発見した(Arthus現象)。これはⅢ型アレルギーに属し、ウサギ体内に誘導された抗ウマ抗体とウマ血清タンパクとの免疫複合体 immune complexによる局所的組織障害である。
4) アレルギー
1906年、オーストラリアのvon Pirquetはこれら(Koch現象、アナフィラキシー、Arthus現象)がいずれも、異物が侵入した生体に生じる反応性の変化であると考え、免疫応答と過敏反応を総称するアレルギー allergyという概念を提唱した。しかし、その後アレルギーという言葉は、生体に有害な過敏反応のみに用いられることになる。
5) P-K反応
1921年、ドイツのPrausnitzは、タラに強い過敏症を示す同僚Kustnerの血清を健常者の皮内に注射し、翌日同じ箇所にタラの抽出液を皮内注射すると、数分以内に紅斑を伴った膨疹が健常者の皮膚に出現する現象を発見した(P-K反応)。この、患者血清に存在する、過敏症を健常者に移入すること(受身感作)が可能な抗体はレアギンと名付けられた。
6) アトピー
1923年、アメリカのCocaとCookeは、多くの人に無害な抗原が特定の遺伝的素因を持つ人にのみ過敏反応を起こす現象をアトピー atopyと名付けた。現在、アトピーは花粉症や気管支喘息など、特定のアレルゲンに対して抗体を作りやすい体質(遺伝的素因)を指す言葉となっている。
7) IgEの発見
1966年、石坂公成・照子夫妻は花粉症患者の血清からレアギンを精製し、これをウサギに注射してレアギンに対する抗体を作成し、この抗体から既知の免疫グロブリンと反応するものを除去した後も、花粉特異的なレアギンと反応する免疫グロブリンが存在することを発見し、これをγEと名付けた。その後、γEはIgEと名称が変更された。
8) インターロイキン-4
1982年、アメリカのPaulは、B細胞からのIgE産生誘導に必須のサイトカイン、インターロイキン-4(IL-4)を発見した。IL-4が活性化したB細胞に作用すると、IgMからIgEへのクラススイッチが起こることが分かった。
3. 新しいアレルギーの概念
IgEが必須のアレルギーを獲得型アレルギーと呼ぶ。獲得型アレルギーでは、アレルゲンを取り込んだ樹状細胞は、アレルゲン特異的Th2細胞を誘導し、B細胞を刺激してアレルゲン特異的IgEを誘導する。IgEは好塩基球とマスト細胞の上に結合し、さらにアレルゲンがIgEに架橋することで、活性化したこれらの細胞から遊離されるサイトカインや化学伝達物質(ヒスタミンなど)によってさまざまなアレルギー反応が起こる。
一方、IgEを必要としないアレルギーは自然型アレルギーと呼ばれ、上皮細胞に存在するさまざまなサイトカイン(IL-18、IL-25、IL-33、TSLPなど)は異物侵入によって刺激されて放出され、好塩基球やマスト細胞、グループ2自然リンパ球に作用してTh2サイトカイン(IL-4、IL-5、IL-13など)を産生する結果、アレルギー反応を誘発する。
【註記】
【参考】
・善本知広「アレルギー、アナフィラキシー、アトピーの概念」:日本医師会雑誌 第145巻・特別号(1) 2016
【作成】2017-02-25