パーキンソン症候群

パーキンソン症候群 
Parkinson syndrome 


1. 脳血管障害性(脳血管性パーキンソニズム)

【概念】
 脳梗塞や脳出血が原因でパーキンソン病に類似した症状を呈するもの。病理学的には基底核を中心とした多発性小出血、小梗塞、ラクナによるものが多い。

【疫学】
 本態性PKに比べ、発症年齢が高く、高血圧、脳卒中発作の既往があるものが多い。70歳以上の高齢者に好発し、男性に多い。動脈硬化の危険因子を有するものが多い。

【臨床】
 症状は亜急性、段階的に進行する。症状は一般に両側性に出現し、左右差はあっても顕著ではない。

1)小刻み歩行 demarche a petits pes :前傾前屈姿勢はみられず、膝は伸びている。
 軽度開脚で歩幅は極端に小さく、引きずり歩行を呈する。突進現象や加速現象はみられない。方向転換は小股で遅く、何かに掴まろうとするように両腕を大きく外転させる。停止しているときは安定しており、後方突進はみられない。

2)筋固縮:体幹より四肢に、上肢より下肢に、遠位部よりも近位部に強い。これは抵抗症 Gegenhalten(受動運動に際して無意識に力のはいる現象)に相当し、カタトニーがみられることもある。

3)振戦は起こらない。

4)脳の局在徴候-錐体路症状、小脳症状、仮性球麻痺を合併することもある。 特に仮性球麻痺型の発声障害はほぼ全例にみられ、抑揚の乏しい不明瞭な構音障害を呈する。

5)精神症状としては感情障害(感情失禁、強制泣き笑い)がみられ、痴呆の合併も稀ではない。

【病理】
 全例に多発性の血管性病変が認められる。好発部位は穿通枝領域(基底核、視床、橋)で、大部分は小梗塞やラクナであるが、陳旧性出血を認めることもある。ときには大脳白質の多発性小梗塞やビンスワンガー病様の白質病変を認めることもある。多くの例で脳室拡大もみられる。

【治療】
 l-DOPAの効果は少ない。
 ドプスが有効なこともあり、アマンタジンが意欲低下に有効なこともある。
 脳血管障害の進展を予防するために抗血小板療法も実施されている。

2. 薬剤性

・フェンチアジン、ブチロフェノン系:ドーパミンの受容体への伝達を阻害する。
・レセルピン:神経終末よりドーパミンを放出して枯渇させる。
・スルピリド(ドグマチール):は強力な抗ドーパ作用を有する。
・その他: prochlorperazine, perphenazine, α-methyl dopa, diphenhydramine, diphenylhydantoin, ethosuximide, metoclopramide etc.
 臨床的には比較的急激に発症し、左右差の少ないのが特徴。
 l-DOPAの効果は少ないが、原因薬の中止で速やかに改善する。

3. 中毒性

・Mg中毒:長期暴露により緩徐進行性に発症する。症状は左右対称性であり、通常、精神症状が先立って現れる。また、頻度的には錐体路徴候、感覚障害、知能低下の方が多い。
 病理的には黒質の変性より線状体の障害の方が強いため、l-DOPA は効きにくい。
・一酸化炭素中毒:亜急性に発症し、急速に進行することがある。
・線状体の壊死:l-DOPA の効果は少ない。

4. 脳炎後

 Economo脳炎後に好発した。
 振戦は少なく、眼症状が多い。注視発作がよくみられる。
 病理学的変化は黒質に主体がある。

【パーキンソニズムを呈する主な疾患】

1)変性疾患
 線状体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症、シャイ・ドレーガー症候群、 多系統変性症、Corticobasal degeneration、進行性淡蒼球萎縮症、 進行性核上性麻痺、アルツハイマー病、Hallervorden-Spatz 病、固縮型ハンチントン舞踏病、びまん性レビー小体病
2)代謝性疾患 ウィルソン病 
 GM1 ガングリオシドーシス
3)脳外科的疾患
 慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、脳腫瘍
4)脳血管障害
 多発性脳梗塞
5)中毒性疾患
 一酸化炭素中毒、マンガン中毒、二硫化炭素中毒
6)感染性疾患
 神経梅毒、クロイツフェルト・ヤコブ病
7) 薬剤性
 phenothiazines、butyrophenones、substitude benzamide、flunarizine、rauwolfia alkaloids


【註記】


【参考】
・葛原茂樹:Medical Practice vol.12 no.3 1995


【改訂】2017-02-01