糖尿病の定義と分類

糖尿病の定義と分類


【概念】

 糖尿病は、インスリン作用の不足による慢性高血糖を主徴とし、種々の特徴的な代謝異常を伴う疾患群である。その発症には遺伝因子と環境因子がともに関与する。代謝異常の長期間にわたる持続は特有の合併症を来たしやすく、動脈硬化症をも促進する。代謝異常の程度によって、無症状からケトアシドーシスや昏睡に至る幅広い病態を示す。
(糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告 2010)

【病型分類】

 Ⅰ 1型糖尿病
  発症機構として膵β細胞破壊を特徴とするもの
  A 自己免疫性:緩徐進行1型糖尿病を含む
  B 特発性:劇症1型糖尿病を含む

 Ⅱ 2型糖尿病
  インスリン分泌低下とインスリン感受性の低下(インスリン抵抗性)の両者が発症に関わるもの

 Ⅲ その他特定の機序、疾患によるもの
  A 遺伝因子として遺伝子異常が同定されたもの
  B 他の疾患、条件に伴うもの

 Ⅳ 妊娠糖尿病

【病期分類】

・正常領域
・境界領域
・糖尿病領域
  A インスリン非依存状態
    ・インスリン不要のもの
    ・高血糖是正にインスリンが必要なもの
  B インスリン依存状態
    ・生存のためにインスリンが必要なもの

1)1型糖尿病
 インスリンを生産・分泌する膵β細胞の破壊によりインスリン欠乏が生じる病態で、多くの症例では発病初期に膵島抗原に対する自己抗体が認められる(抗GAD抗体、抗IA-2抗体、抗インスリン抗体など)。
 典型的には若年者に、ケトーシスあるいはケトアシドーシスを伴い比較的急激に発症する。インスリン治療が始まると、内因性インスリン分泌が回復し、一時的にインスリンが不要になることもある(ハネムーン期)。
 環境因としては人工栄養やウイルス感染、遺伝因としてはHLAの影響が強い。
 一般にインスリン依存状態になりやすい。

2)2型糖尿病
 環境因子と遺伝因子のそれぞれがインスリン分泌低下とインスリン感受性の低下(インスリン抵抗性)に関与し相まってインスリン作用不全をきたす病態。
 環境因子としては肥満、過食、運動不足、ストレス、加齢などが重要。
 遺伝因子としては、エネルギーを効率的に利用し、余剰エネルギーをできるだけ蓄積する遺伝的素因に関わる倹約遺伝子(PPAPγ、アディポネクチン、β3アドレナリン受容体など)が重要である。
 一般にインスリン非依存状態のものが多いが、重症化するとインスリン依存状態となる。

3)劇症1型糖尿病
 発症後きわめて早期にケトーシスまたはケトアシドーシスに陥るもので、血糖値の上昇が急激であるため、早期には血糖値とHbA1c値の乖離がみられる。
 膵外分泌酵素の上昇が高率にみられるが、明らかな膵炎は認めない。

 *診断基準(2012)

4)緩徐進行1型糖尿病
 インスリン非依存状態で発症するがGAD抗体などの膵島自己抗体が持続陽性であり、徐々に内因性インスリン分泌能が低下し、最終的にはインスリン依存状態となるもの。
 発症年齢は30〜50歳と通常の1型よりも高く、他の自己免疫疾患の合併が多い。

5)清涼飲料水ケトーシス(ペットボトル症候群)
 ソフトドリンクの習慣的な多飲により発症するもので、ケトーシスやケトアシドーシスを伴い、急性に発症する。膵島自己抗体は陰性で、内因性インスリン分泌も保たれており、回復後は食事療法のみでコントロール可能なことが多い。若年肥満男性に多い。
 10%程度糖分を含む清涼飲料水(目安として、栄養成分表示で製品100g当たり炭水化物が約10g程度の飲料)を1日1.5リットル以上、1ヶ月以上継続して飲用すると起こりやすい。


【遺伝子異常】

 糖尿病の遺伝因子として遺伝子異常が同定されたものには次のものがある。
 A 膵β細胞機能にかかわる遺伝子異常
  ・インスリン遺伝子(異常インスリン症、異常プロインスリン症、新生児糖尿病)
  ・HNF4α遺伝子(MODY1)
  ・グルコキナーゼ遺伝子(MODY2)
  ・HNF1α遺伝子(MODY3)
  ・IPF-1遺伝子(MODY4)
  ・HNF1β遺伝子(MODY5)
  ・ミトコンドリアDNA(MIDD)
  ・NeuroD1遺伝子(MODY6)
  ・Kir6.2遺伝子(新生児糖尿病)
  ・SUR1遺伝子(新生児糖尿病)
  ・アミリン
  ・その他
 B インスリン作用の伝達機構にかかわる遺伝子異常
  ・インスリン受容体遺伝子 (インスリン受容体異常症A型、妖精症、Rabson-Mendenhall 症候群ほか)
  ・その他


【他の疾患、条件】

 糖尿病を引き起こす他の疾患、条件には次のものがある。
1)膵外分泌疾患
  膵炎、外傷/膵摘手術、腫瘍、ヘモクロマトーシス、その他
2)内分泌疾患
  クッシング症候群、先端巨大症、褐色細胞種、グルカゴノーマ、アルドステロン症、甲状腺機能亢進症、ソマトスタチノーマ、その他
3)肝疾患
  慢性肝炎、肝硬変、その他
4)薬剤や化学物質によるもの
  グルココルチコイド、インターフェロン、その他
5)感染症
  先天性風疹、サイトメガロウィルス、その他
6)免疫機序によるまれな病態
  インスリン受容体抗体、Stiffman症候群、インスリン自己免疫症候群、その他
7)その他の遺伝的症候群で糖尿病を伴うことの多いもの
  Down症候群、Prader-Willi症候群、Turner症候群、Klinefelter症候群、Werner症候群、Wolfram症候群、セルロプラスミン低下症、脂肪萎縮性糖尿病、筋強直性ディストロフィー、フリードライヒ失調症、Laurence-Moon-Biedl症候群、その他


【註記】


【参考】
・糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告(国際標準化対応版):糖尿病 55巻7号 2012


【作成】2017-01-03