権力とリーダーシップ

権力とリーダーシップ


【権力と強制力】
 権力とは、「AがBに命令をし、ある行為をさせる能力」である。権力の背後には強制力がある。
 強制力とは、服従の可能性を裏付けるものである。
 強制力には、価値剥奪によるものと、価値賦与によるものとがある。

【権力の実体概念・関係概念】
 実体概念:権力の本質は強制力にあり、強制力を持つ少数者が、他者を服従させる(ホッブス、マルクス)。
  権力が一方的に行使される側面を重視する。
 関係概念:権力者と服従者の間には何らかの相互作用がある(ロック、ダール)。
  合意の要素を重視する。
 ラスウェルの権力観:権力行使の基盤となるものを権力基底power baseと呼び、権力基底の多元性を想定する。

【政治権力と社会権力】
 他の社会権力と比べて政治権力に特徴的なことは、政治権力だけが合法的な暴力装置を独占しており、強力な物理的強制力をもっていること、また強制力の強さが極めて強力であることである。

【権力の零和概念・非零和概念】
 政治権力の社会的機能は「目標達成のために社会的資源を動員する能力」である(パーソンズ)。
 だから、政治権力は、短期的には個人の自由を制限するが、より長期的には、個人もまた社会組織の権力行使に依存していることになる。
 権力の零和(ゼロサム)概念とは、政治権力が服従者の利益の収奪によって成立しているとする観点である。
 非零和(ノン・ゼロサム)概念とは、政治権力が社会全体としてはプラスの利益を生んでいるとする観点である。
 パーソンズは、権力の社会的効用を重視して、非零和概念を呈示した。

【支配の正当性】
 服従者の自発的承認を得ると、権力は権威として受け入れられたことになる。これをウェーバーは「支配」と呼ぶ。
1)合法的支配:制定された規則に服従する(近代国家の多く)
2)伝統的支配:支配者の持つ伝統的権威に服従する(王朝)
3)カリスマ的支配:支配者のカリスマ性に対する人々の帰依に依拠する

【政治的リーダーシップ】
 一定範囲の人々を一定の目標に向けて統合し、方向付けていく作用をリーダーシップという。
 自発的支持によるのをリーダーシップ、地位によるのをヘッドシップという。
 影響力を発揮する側(リーダー)と受ける側(フォロワー)との間には相互作用があり、しばしば両者は協力的関係にある。

【リーダーシップの特性理論・状況理論】
1)特性理論:リーダーシップをリーダー個人に焦点を当てて議論し、リーダーとしての役割の遂行に必要なパーソナリティを扱う。
2)状況理論:リーダーシップを、その社会や、その集団の状況と関連づけて分析する。
 リーダーシップの効果は、集団の目標を達成する程度(生産性)と、集団の成員を満足させ、集団の結束を維持・強化する程度(凝集性)とで測られる。また、リーダーシップは、特性と状況の関数でもある。

【政治的リーダーシップの類型】
1)伝統的リーダーシップ:慣習や伝統的様式に則って集団をまとめていく型。
2)代表的リーダーシップ:大衆の利益を代表して行動する型。
3)投機的リーダーシップ:大衆の生の欲望を、その場その場で満たしていく型。
4)創造的リーダーシップ:これまでの価値観とは別のヴィジョンを提示して、支持を集める型。
 1)2)は安定した社会状況に、3)4)は不安定な社会状況にみられる。

【リーダーシップの類型(ホワイト、リピット)】
1)専制的リーダーシップ:活動方針など一切をリーダーが決定し、手順も一方的に命令し、理由など説明しない。
2)民主的リーダーシップ:方針を集団の討議で決定し、何ごとも納得づくで進め、リーダーは激励と技術的アドバイスを与える。
3)自由放任的リーダーシップ:成員まかせで、リーダーはほとんど関与しない。

【現代社会の権力構造】
 政治権力の分布状態を権力構造という。
1)マルクス主義(階級社会論)
 社会は2階級から構成され、二つの階級の対立がその社会を特徴づける。
 資本主義社会では、資本家階級(ブルジョワジー)と労働者階級(プロレタリアート)が対立する。
 経済的支配階級がそのまま政治的支配階級になり、国家は被支配階級を支配し、抑圧するための暴力機構である。
2)多元主義(プルーラリズム)
 現代社会では、多数の集団が独立的に存在し、集団同士が互いに相手の力を制約するので、社会全体では抑制と均衡が達成されている。リースマンの拒否権行使集団(圧力団体)論、ダールの地域権力構造分析など。
3)権力エリート論
 一部の集団に権力が集中化し、それらの集団が相互に結びついて「パワー・エリート」を形成する。ミルズ、ハンターなど。


【参考】
・「はじめて学ぶ政治学」:加藤秀治郎著 実務教育出版 1994 東京