麻疹(はしか)Measles

麻疹(はしか)
Measles


【概念】

 麻疹ウィルスによる、上気道炎、結膜炎、発熱および発疹を主徴とする伝染性疾患。感染力が強く、かつ合併症により致死的となりうる。

【病原菌】

 パラミクソウィルス科の麻疹ウィルスmeasles virus。
 感染後はリンパ節、脾臓、胸腺などの全身のリンパ組織を中心に増殖する。

【疫学】

・5類感染症(全数把握:7日以内に報告)、定点把握疾患(小児科定点)
・季節性:春先から夏にかけて
・好発年齢:乳幼児(1歳がピークで、約半数が2歳以下)。まれに成人に発症する。

【感染経路】

・空気感染、飛沫感染、接触感染
 感染力は極めて強く、不顕性感染はほとんどない。
 発病1〜2日前から発疹出現後4〜5日間伝染性が強い

【臨床症状】

・潜伏期間:10〜12日
・前駆(カタル)期(3〜5日):38℃前後の高熱、上気道炎症状(咳、鼻汁、くしゃみ)、結膜症状(充血、眼脂)で発症し、次第に増強する。乳幼児では下痢、腹痛などの消化器症状もみられる。
 数日後に口腔頬粘膜の臼歯対面にコプリック斑Koplic(やや隆起し、紅暈に囲まれた針頭大の小白斑)が出現するが、発疹出現後は急速に消失する。口腔粘膜は発赤し、口蓋部に粘膜疹や溢血斑を伴うことがある。
・発疹期(4〜5日):一過性解熱の後に再度発熱して発疹が出現する。
 発熱の多くは39.5℃以上で、二峰性発熱となる。
 赤い小さな斑状発疹は頚部・顔面から始まり、数日で全身に広がる。はじめ鮮紅色扁平から次第に融合傾して隆起した不整形斑状(班丘疹)となり、指圧によって退色し、一部には健常皮膚を残す。
 カタル症状は一層強くなり、麻疹様顔貌を呈する。
・回復期:発疹は色素沈着を残して消退 前後して解熱し、回復に向かう。
 合併症がないかぎり7〜10日後には回復するが、免疫機能低下例では重症化しやすい。感染後は終生免疫が獲得される

【合併症】

 細胞性免疫の低下に伴い、二次感染を起こしやすい。肺炎と脳炎の合併症が麻疹の二大死因となる。
・中耳炎:麻疹患者の約5〜15%にみられる最も多い合併症で、細菌の二次感染による。
・急性喉頭炎(クループ):喉頭炎および喉頭気管支炎も合併症として頻度が高い。
・肺炎:年少児や免疫機能低下時に多い。
 麻疹ウィルスによる間質性肺炎と、二次感染による細菌性のものとがあり、致命的に成りうる。成人の一部、特に細胞性免疫不全状態時には巨細胞性肺炎がみられることがあり、予後不良である。
・麻疹脳炎(1/1000〜2000例):年長児や成人に多く、罹患後2〜6日後に起こりやすい。
 脳組織の抗原にたいする過敏反応によるもので、疾患の重症度とは必ずしも一致しない。死亡率約15%で、20〜40%に中枢神経系の後遺症が残る。
・亜急性硬化性全脳炎subacute sclerosing panencephalitis (SSPE)
 麻疹罹患後数年を経て徐々に発症する行動異常、性格変化、知能低下で始まり、痙攣を伴う。脳波で徐波の出現、髄液タンパクの上昇、髄液麻疹抗体の検出がみられる。
 麻疹患者の10万例に1人、麻疹ワクチン接種者の100万人に1人が発症する。
・心筋炎、心外膜炎:ときにみられるが、重症化することはまれ。

【診断】

・咽頭拭い液、血液からのウィルス分離
・麻疹特異的IgM抗体の測定
・ペア血清でのIgG抗体価の上昇

【治療】

 対症療法が主体で、二次感染には抗生剤を使用する。
 γ-グロブリンは予防効果のみで、治療には無効。

【予防・管理】

・学校保健法第2種感染症:発疹に伴う発熱が解熱した後3日を経過するまで出席停止。
・予防にはγ-グロブリンと麻疹生ワクチンがある。
 麻疹弱毒生ワクチンは定期接種で、生後12〜15ヶ月に接種する(通常風疹ワクチンとの2種混合で、2期に分けて接種される)。
 麻疹患者との接触後の生ワクチン緊急接種は予防にはあまり有効でない。
 免疫異常のない小児は、麻疹患者と接触後3日以内にγ−グロブリンを筋注すれば症状が軽減できる。
 γ-グロブリン注射を受けたものは3〜6ヶ月の間隔を開けてワクチンを接種する。


【註記】


【参考】
・国立感染症研究所HP


【作成】2016-12-15