説得的論証

論証的説得 persuasion


【分類】
1.類似性を原理とする議論
 1.1 「定義」による議論(定義議論)
 1.2 「公平原理」による議論(公平議論)
 1.3 「相互性」による議論(相互性議論)
 1.4 「全体と部分」による議論(全体ー部分議論)
 1.5 「より強い理由」による議論(なおさら議論)
 1.6 「例証」による議論(例証議論)

2.結合性を原理とする議論
 2.1 因果論議論
 2.2 目的論議論
 2.3 実用主義的議論
 2.4 方向性議論
 2.6 人物議論
 2.7 人物描写
 2.8 権威議論

3.対立性を原理とする議論
 3.1 対当議論
 3.2 非両立性議論
 3.3 排中律議論
 3.4 オートファジー議論
 3.5 逆ねじ議論
 3.6 両刀論法
 3.7 アナロジー(喩え議論)
 3.8 分離議論

1.類似性を原理とする議論
1.1 定義議論
 相手の考え方の甘さ、曖昧さ、間違いを、自分の「定義」を突きつけることによって暴き出す。
 定義を求めることは、議論において相手に反論をくわえる場合の有効な手段である。
 議論で問題になる定義は、多かれ少なかれ「方向性を与えられた定義」だ。「為にする」定義であり、「説得的定義」と呼ぶこともできるだろう。
 人を攻撃するときに使う「レッテル」貼りは、「凝縮された定義」(ロブリュ)と言えるだろう。

1.2 公平議論(同一理由による議論 argumentum a pari)
 同じカテゴリーに属するもの(似たもの)は同じように扱わなければならないという主張。
 公平議論は保守主義・伝統主義の論拠である。歴史を「似たもの」の連続と見るからであり、「似たもの」である過去を否定するのではなく、同じものとして扱おうとするのだ。

1.3 相互性議論
 相互的な関係にある二つの事物や状況は、同じように扱うべきであるとする主張。
 相互性議論の要諦は「対称性の発見」にかかっている。
 相互性議論に反論するには、前提になっている「対称性」を否定すればよい。

1.4 全体ー部分議論
 複雑な「全体」を「部分」に分割することによって、当面の問題をよりよく把握する議論。
 前提は「全体は部分の総和だ」という考え方である。
 これに反論するためには、その前提そのものを問題にすればよい。

1.5 なおさら議論(より強い理由による議論 argumentum a fortiori)
 1)小なるものから大なるものへ a minori ad majus
 2)大なるものから小なるものへ a majori ad minus
 この議論の根底には「比較」という観念がある。
 「比較」は同じカテゴリーどうしのもののあいだでしか成立しない。
 これに反論するには、正攻法で「より」の根拠を問題にするか、搦め手から攻めて「同じ」(似たもの)かどうかを疑問視するかである。

1.6 例証議論
 「現実世界を根拠づける」議論である(ペレルマン)。具体例は主張を補強し、説得力を増す。
 例証議論は反論するときにも使われる。相手の主張の矛盾を衝くために、分かりやすい「似たような」事例を挙げて問題点を暴き出し、「間接的に」論証する論法で、「背理法」の一種である。
 この議論は常に「不当一般化の誤り」の危険をはらんでいる。
 「不当一般化の誤り」の原因は、主に次の二つに求められる。
 1)少ないサンプル small sample
 2)偏ったサンプル atypical sample
 例証議論に対しては、「不当一般化」の反論が常に可能である。
 もう一つ注意すべきなのは、挙げられている例が本当に「似ているもの」なのかどうかである。
 「特殊(個別)から特殊(個別)へのすりかえ」議論は、「似たもの」という名のもとに、明らかに異質な概念の「すりかえ」をおこなうことであり、相手を窮地に追いつめるときに威力を発揮する。

2.結合性を原理とする議論
2.1 因果論議論
 物であれ人であれ、この議論では原則として二つもの(二項)のあいだに或る関係性が設定される。
 時間的・空間的に近くにある二つのもの(隣接性)は「有意味的な関係」を構成しうる。
 「ポスト・ホックの誤り」とは、二つの出来事が続いて起こるとき、その「継起性」のなかに「因果性」を読み込んでしまうこと。いわゆる「そのあとで、したがってそのゆえに post hoc, ergo propter hoc」の誤謬推理である。
 因果論議論では「結果」が主役である。「原因」はなにか問題があったときに駆り出される。

2.2 目的論議論
 原因ー結果の関係は、人間的行為の実現という観点から捉え返せば手段ー目的の関係になる。
 目的論議論は、「目的は手段を正当化する」という議論である。
 目的論議論では常に目的が上位にあり、手段は後塵を拝する。目的とは「先取りされた結果」にほかならないからだ。

2.3 実用主義的議論(結果からの議論 argumentum ab effectis)
 この議論では、もっぱら物事を結果の良し悪しによって判断する(終わりよければすべてよし)。
 実用主義的議論に対する反論は、必ず原因=動機(心理的原因)を引き合いに出す。

2.4 浪費議論
 浪費議論は目的の達成を至上命令とする。つまり、これまでに費やされた努力や犠牲を無駄にしないために、所期の目的に向かってさらに邁進することを説く。

2.5 方向性議論
 既知のデータの拡大適用によって将来の展開を予想し、その第一歩を断固として阻止すること。
 「滑りやすい坂道」議論。

2.6 人物議論 argumentum ad hominem / ad personam
 問題の人物の「人格」や「地位」や「言動」などに基づく議論。
 この議論は人(本質=主体)と行為(存在=属性)の通底性に基づいている。
 相手を攻撃する場合、「ひたすら、全く傍系の、当面の問題とは何の関係もない事柄について証人の人格を攻撃する」方法(F・L・ウェルマン)。

2.7 人物描写 portrait
 人物描写は、肉体的特徴(外観)によって精神のあり方を解釈する一種の「性格学」である。

2.8 権威議論 argumentum ad verecundiam
 斯界の権威を引き合いに出すことによって説得力を増す方法。
 権威の議論が意味ありうるのは明確な証明がない時に限られる(ペレルマン)。

3.対立性を原理とする議論
3.1 対当議論 argumentum a contrario
 「対当」とは「いずれか一方の命題が真であれば他方は必ず偽の関係にあること」である。
 差異は、似ていない、あるいは違う(unlike or dissimilar)もの、つまり種類において異なるものを意味する。いっぽう対当は、同じ種類に属する、正反対の、ないしは相容れない(opposite or incompatible)ものを意味する(コーベット)。

3.2 非両立性議論
 非両立性とは、「ある規則の主張、ある命題の支持、ある態度の決定が、情勢のいかんによって、それと欲することなしに、他の命題や先に主張した規則、あるいは一般に認められ、集団の成因であれば誰でも同意すると思われる命題と、対立葛藤の状態に陥る場合である(ペレルマン)」。
 一方、矛盾とは一般的には、ある命題と否定命題を同時に主張することである。
 非両立を解決するためには、例外の存在(第三の道=妥協策)をさぐることである。

3.3 排中律議論
 排中律による議論は実際の場面では二者択一の論法という形をとる。
 この種の議論では、与えられた状況のなかで選択の幅を極端に制限しているケースが多い。

3.4 オートファジー議論 autophagie
 非両立性議論の特殊なケースで、二つの命題間の齟齬ではなくて、一つの命題の内部で生じる非両立が問題になる。パラドクスの一種。

3.5 逆ねじ議論
 相手の論法をそのまま相手に突き返して論破する技法。

 地方の劇場で観衆が革命歌マルセイエーズを歌おうとして立ち上がったとき、一人の警官が舞台に上がり、プログラムに載っていないことはすべて禁止されていると告げた。すると観客のなかの一人がさえぎって、「それで、あんたはプログラムに載っているのかね」と言った。

3.6 両刀論法 dilemma
 「結婚しようとする相手の女性が美人なら、きみは嫉妬に苦しむ。醜いならば、きみはそれに我慢できない。だからきみは結婚すべきではない。」
 この論法の問題点は、大前提の仮言的命題の設定において、選言が選択肢の全体をカバーしているか、二つの選択肢が矛盾や相補性の関係になっているかどうかにある。
 この論法を突き崩すには二つの方法がある。
1)別の選択肢の可能性を探ること。「角の間に逃げる方法」
2)選択肢の一つを捕まえて、その論理の破綻を衝くこと。「角を捕まえる方法」

3.7 アナロジー
 「アナロジーは類似性の関係 rapport de ressemblanceではなく、関係の類似性 ressemblance de rapportである。(M.カザルス)」
 つまり、アナロジーが関わるのは「直接的」類似性ではなく、「体系的=構造的」類似性である。
 アナロジーの効用には次のものがある。
1)未知なるものを既知なるものによって推理する。
2)抽象的なものを具体的なものによって推理する。
3)複雑なものを単純なものによって推理する。

3.8 分離議論
 分離議論は一つのように現象しているものに二元性を導入して、階層化された二項対立図式を設定することである。階層的二項対立図式は人々の常識を支える強固な論拠となっている。


【参考】
・「レトリック入門 修辞と論証」:野内良三 世界思想社 2002