地形学概論

地形学概論


Ⅰ 地形 landform

・地形 landformとは、地表面の起伏の形態である。
・地形分類とは、「地形を形態、成り立ち、性質などから分類したもので、その土地が山地か台地か、低地かまた同じ低地の中でも高燥な土地か、低湿な土地か、あるいは自然の地形を人工的にどのように改変しているかなどを、区分したもの(国土地理院)」。
 分類された地形を地図に表現したものを地形分類図という。
・地形を形成する力(地形営力)には、内的営力(火山活動や地殻変動など、地球内部の活動に起因するもの)と外的営力(水・風・氷河のように運動する流体によるもの)の2つがある。

Ⅱ プレートテクトニクスと変動地形

1. プレートテクトニクス
・地球の表層部を構成する10数枚のプレートの運動から大陸の移動や山地の上昇、地震の発生などを説明する理論をプレートテクトニクスという。
・プレートには海洋プレート、大陸プレート、その両者からなるプレートの3タイプがある。
・大陸プレートには比重の軽い大陸地殻が載っており、相対的に重い海洋プレートが大陸プレートの下に潜り込んでいく。
・プレートの境界には、拡大境界(海嶺)、収束境界(海溝・トラフ)、横ずれ境界(トランスフォーム断層)がある。
・収束境界付近では上部地殻に外力が加わり変形を起こす。変形が元に戻ろうとする力を応力、変形や体積の変化を歪みと呼ぶ。

2. 地震と地殻変動
・収束境界付近の大陸プレートに蓄積した歪が限界に達し、元に戻ろうとするときに地震が発生する。
・プレート境界地震(海溝型地震)は、海洋プレートの沈み込みに引き込まれた大陸プレートの端が反跳するときに起こる地震で、巨大津波の原因となりうる。
・プレート内地震(内陸直下型地震)は、断層の運動が原因となって起こる地震で、震源は深さ30㎞より浅いことが多い。
・スラブ内地震は、海溝やトラフに沈み込んだ海洋プレート(スラブ)を震源とする地震で、発生のメカニズムはまだ分かっていない。

3. 変動地形
・最近の地質時代に活動し、将来も活動する可能性がある断層を活断層と呼ぶ。
・活断層によって変形し、形成された地形を変動地形(断層変位地形)と呼ぶ。
・活断層の3次元的動きは、その方向により「縦ズレ」と「横ずれ(水平ずれ)」に区別される。
・縦ずれには正断層と逆断層があり、横ずれには右ずれと左ずれがある。
・活断層は基本的にほぼ直線であり、リニアメントという線状構造をなす。

Ⅲ 火山分布と火山地形

1. 火山分布
・火山は主としてプレート境界付近に分布する。
・収束境界の火山は、大陸プレートの下に潜り込んだ海洋プレートがマントル上部に達する付近で岩石の融解が起こり、マグマが形成されることによって生じる。
・拡大境界である海嶺や地溝帯にも活発な火山活動が起こる。
・プレート境界以外にもマグマ供給が盛んな地点があり、ホットスポットと呼ばれる。

2. 火山噴出物
・溶岩は、マグマが火山地下のマグマ溜まりから火道を通って、火口から地表に噴出したものである。
・火山岩は、溶岩が地表で固結したもので、それを形成する主な化学組成により、玄武岩・安山岩・流紋岩などと呼ばれる。
・火山噴出物のうち、固体のものはテフラ(火山砕屑物、火砕物)と呼ばれる。テフラはその粒形により、直径64mm以上の火山岩塊、64〜2mmの火山礫、2mm以下の火山灰に分類される。
 多孔質で直径2mm以上のものは、白色のものをヴァミス(軽石)、暗色のものをスコリアと呼ぶ。
 急冷したマグマがガラス質の薄片(火山ガラス)となって細かく粉砕され、結晶化した好物粒子とともに噴出されるものが火山灰である。
・火山噴出物のうち、気体成分のものは火山ガスと呼ばれる。
・火砕流は、火山灰を中心とするさまざまな大きさのテフラと火山ガスの混合体が、火口や崩壊した噴煙柱などから斜面を流れ下っていく現象をいう。そのうち、火山ガスの割合が高いものを火砕サージという。

3. 火山地形
・単成火山は、1回の噴火の噴出物によって形成された地形で、スコリア丘や溶岩ドーム(溶岩円頂丘)がある。
・複成火山は、繰り返し噴火してできた火山であり、楯状火山や成層火山がある。
・火口は、マグマが噴出した火道の出口であり、直径は1㎞未満のものが多い。一方、カルデラは、マグマ溜まりの天井の崩落に伴う陥没地形で、直径は数㎞〜数十㎞、周囲を急崖に取り囲まれた地形であり、カルデラの底(火口原)にはカルデラ湖やカルデラ形成後の新しい火山体が形成されたりする。

Ⅳ マスムーブメント

・風化作用は、地表の露出する岩石が気温の変化や風雨により脆くなることで、風化を受けて砕けた岩石は、斜面を落下したり、雨水や氷河に流され移動していくうちに粒径が次第に細かくなる。
・土砂の粒径が大きいものから順に、礫 gravel、砂 sand、シルト silt、粘土 clayと呼ばれる。
・土砂が重力に従って大量に移動することをマスムーブメントといい、斜面の地形変化の主要な原因となる。
・マスムーブメントの種類には、匍行 creep、流動 flow(土石流など)、滑動 slide(地すべり)、落下 fall(落石、崖崩れ)がある。
・日本列島の主な地すべり地は、以下のものがある。
① 東北地方の日本海側:新第三紀に形成されたグリーンタフ(緑色凝灰岩)の分布による第三紀層地すべり。
② 紀伊半島中央部から四国:中央構造線沿いの破砕帯による破砕帯地すべり。
③ 九州北西部:火山地帯で岩石が熱水変性を受けることによる温泉地すべり。

Ⅴ 河川の形成する地形

1. 侵食と堆積
・河川による地形変化は、侵食・移動・堆積というプロセスで進む。
・湖や海のような清水域を侵食基準面とし、河川縦断面曲線は侵食基準面にむけて指数曲線を描く。
・流水の運動エネルギーは流速で表され、物質を移動させる力を掃流力という。
・傾斜の大きな上流域では流速が大きいために侵食が進み、傾斜が小さい下流域では掃流力が減少するために堆積が進む。河床の堆積物は、上流から下流に向かって粒径が小さくなる。

2. 河川下流域の地形
・河川は開けた土地に出て流速が低下すると、山間部で発生した土石流や、河床や河岸で侵食された土砂、斜面の地表流で流された土壌などが堆積して平野を形成する。
・平野には扇状地、氾濫原、三角州などの地形が発達する。
・扇状地は、山地から出た河川がその出口部に形成する扇状の地形で、比較的大きな砂礫が堆積する。
・氾濫原は扇状地よりもさらに勾配が緩く、自然堤防の発達が特徴的である。自然堤防の背後には、洪水の氾濫水が流れ出て沼沢地や湿地を形成する(後背湿地)。
・三角州は、河川の最下流部のデルタ型地形で、河川が運ぶ細粒な土砂が水域を埋め立てることにより形成され、地表の起伏はきわめて小さい。相対的に粒径の大きい土砂が河口近くの前縁部(前置層)に、粒径の小さい粘土が水域の底部(底置層)に堆積する。前置層の陸上部は河道からの氾濫がもたらす砂や粘土の層(頂置層)に覆われる。
 河口近くの自然堤防部分のみが水域に張り出すと、鳥嘴状三角州となる。

Ⅵ 海岸で形成される地形

1. 砂質海岸と岩石海岸
・砂質海岸(浜)は、波浪により常に動かされている漂砂が海岸に打ち上げられることによって形成される。砂よりも粒径が大きい礫によるものは礫浜と呼ばれる。
・波打ち際(汀線)より陸側には、暴風雨時などに打ち上げられた砂の高まり(浜堤)が形成され、古い浜堤は平行して数列に並ぶことがあり、浜堤列の間は堤間湿地という窪地をなす。
・干潟は、満潮時には水没し、干潮時には姿を現す海岸地形である。
・岩石海岸(磯)は、岩盤が波浪により侵食されて形成される。水平な平坦面を海食台と呼び、干潮時に海面から姿を現すような浅瀬を波食棚(ベンチ)という。波食棚の最奥部には、岩盤が深くえぐり取られたノッチという小地形が形成されることもある。深くなったノッチ上の不安定な岩盤が崩落して、海食崖が形成される。

2. 海岸生物と地形
・サンゴ礁海岸は、水深数m〜20mほどの浅瀬で、冬季海水温が20℃以上の温かい海に分布する造礁サンゴによって形成される。
・マングローブは、熱帯・亜熱帯で海岸を縁取る樹林帯で、潮間帯の上半部を中心に生育する森林帯の名称である。マングローブ湿地では、土砂とともにマングローブ泥炭が堆積する。

Ⅶ 気候変動で形成される地形

1. 氷河地形
・山岳地域の山頂付近に形成される氷河を氷帽 ice capと呼ぶ。氷帽の氷河が山岳斜面を流れ下ると、カール(圏谷)という侵食地形が形成される。山岳氷河の流れる谷はU字谷となる。氷河が融解する末端には、氷河が運ぶ堆積物からなるモレーン(端堆積堤)が形成される。

2. 氷河と氷期
・氷河は、毎年の積雪量が融雪量を上回り、年々積雪の一部が圧密・融解・再凍結する万年雪を経て氷河氷に変わることにより形成される。
・氷河は自重により、年間数mから数十mの速さで低地へ移動する。上流部は毎年の積雪で氷河が育つ領域(涵養域)、下流部は氷河が融解・蒸発する領域(消耗域)となり、一年間の氷河の消耗量と涵養量が釣り合うところを雪線 snow line(均衡域)と呼ぶ。雪線は降雪量と融雪期の気温で決まり、気温の低下により雪線が下降または南下した時代を氷期(氷河期)と呼ぶ。
・氷期と氷期の間の温暖期を間氷期といい、一番最近の氷期を最終氷期と呼ぶ。
・氷期には高緯度地域を広大な氷床 ice sheetが覆い、海水量は減少し、地球全体が乾燥傾向にあった。
・雪線と森林限界に挟まれた環境を、周氷河環境と呼び、日周期・年周期の激しい凍結・融解の繰り返しにより独特の地形が形成される。

Ⅷ 環境変化と地形

1. 気候変化と河川地形
・氷期には、上流の山岳地域で凍結・破砕作用で岩屑が生産される。岩屑は中上流域に堆積し、下流部では低下した海水準に向かって河川が下方侵食を進める。
・後氷期には温暖・多雨気候となり、上流で侵食傾向が進み、下流部では海水準が上昇して河口に土砂が堆積する。
・寒冷期と温暖期の循環により、河川の周囲に平坦な段丘面と急勾配の段丘崖という階段状の河成段丘が形成される。

2. 気候変化と低地地形
・氷期には海水準が低下し(海退)、海岸線が海側に移動する。
・温暖期には海水準が上昇し(海進)、海岸線が陸側に移動する。
・地殻変動の激しい日本では、間氷期の高海水準期に形成された低地・海岸地形が隆起し、複数の段丘地形が発達している。
・日本の低地の地層(沖積層)には、以下のような構造がみられる。
① 基底礫層:最終氷期の低海水準期に河川が侵食していたときの地層。
② 下部砂層:海水準の上昇期に氾濫原の堆積物や三角州の前置層として堆積した地層。植物片や木片が含まれる。
③ 上部泥層:急激な海水準の上昇により、内湾化した海底で三角州の底置層として形成された地層。貝殻片を含む。
④ 上部砂層:陸地から拡大してきた三角州の前置層が、底置層を覆うように堆積して陸地を形成した地層。植物片や貝殻片を含む。

Ⅸ 人と地形の関わり

・人為的に地形を変化させることを地形改変という。


【註記】


【参考】
・自然地理学:ミネルヴァ書房 2014


【作成】2017-01-14