和歌の技法

和歌の技法


1 枕詞(まくらことば)
 ある特定の言葉を導くために、その前置きに用いる修飾語。
(定義)主として五音で、実質的な意味はなく、常に特定の語を修飾する。修飾される語を「被枕」という。

【特徴】
・原則、五音節からなる。まれに四音節または六音節。
・それ自体に「ことば」としての意味はない。
 なくても意味が通じる。
・導かれる語(固定)は直後に置かれる。
・第一句・第三句に配置されることが多い。
・リズムを整え(整調)、イメージ(景気)を広げる効果。
・枕詞と被枕の関係は、両者が同質のイメージでつながり合う、繰り返される。

【例文】
ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川
 から紅に 水くくるとは

【主な枕詞】
・あかねさす  日・昼・月・紫・君 (輝くものに関連)

・あさじふの  小野 (野原に関連)
・あしひきの  山・峰 (山に関連)
・あづさゆみ  春・張る・引く・射る (弓矢に関連)
・あまざかる  鄙・日・向かふ (太陽・田舎に関連)
・あらたまの  年・月・日・春 (暦の変わり目に関連)
・あをによし  奈良
・あをやぎの  糸 (糸に関連)
・いさなとり  海・浜・灘 (海に関連)
・いそのかみ  降る・古る (「ふる」の音に関連)
・いはばしる  垂水・滝・近江 (滝に関連)
・うつせみの  命・世・身・空し (儚いものに関連)
・おきつもの  靡く・名張 (揺れ動く・隠れることに関連)
・かぎろひの  燃え・春 (陽炎に関連)
・からころも  着る・裁つ・反す (着物に関連)
・くさまくら  旅・結ぶ・ゆふ (旅寝に関連)
・くずのはの  裏・恨み (「うら」の音に関連)
・くれたけの  節(よ)・世・代 (「よ」の音に関連)
・さざなみの  滋賀・大津・近江・寄る (琵琶湖に関連)
・しきしまの  大和
・しののめの  明く・ほがら (夜明けに関連)
・しろたへの  衣・袖・袂・雪 (衣服・白に関連)
・たたなづく  青垣 (青垣に関連)
・たまかぎる  夕・ほのか (淡い光に関連)
・たまきはる  命・世 (生きることに関連)
・たまづさの  使 (使者に関連)
・たまのをの  絶ゆ・継ぐ・乱る・長し・短し (紐に関連)
・たまほこの  道・里 (道・集落に関連)
・たまもかる  沖・舟 (海に関連)
・たらちねの  母・親 (母親に関連)
・ちはやぶる  神・神社名 (神に関連)
・とぶとりの  速し・飛鳥
・なつくさの  深し・繁し・野・刈る (生い茂る草に関連)
・ぬばたまの  黒・髪・夜・夢・闇 (暗黒に関連)
・ひさかたの  天・雨・月・空・光 (天空・天体に関連)
・ふゆごもり  春 (春に関連)
・もののふの  八十・五十・矢・氏 (多数・氏族に関連)
・むらきもの  心(心に関連)
・ももしきの  大宮 (宮中に関連)
・やくもたつ  出雲
・やすみしし  わが大君
・わかくさの  妻・夫・新・若 (新婚夫婦に関連)


2 掛詞(懸詞:かけことば)
 同じ音である一つの言葉に二つ以上の意味を持たせる技法。

【特徴】
・二つの意味は別の語源・別の漢字で表記できる。
 ただし、一方が固有名詞の場合は同じ漢字でも可。
・〈事物・景色描写〉と〈人物・心情描写〉が掛かることが多い。
 その場合、中心となるのは〈人物・心情描写〉の方が多い。
・一方の語の部分だけが用いられる場合もある。
・清音・濁音の区別はない。
・単独でも用いられるが、多くは序詞や縁語と併用される。

【類型】
・並列分配型
・連接結合型

【例文】
花の色は うつりにけりな いたづらに
 わが身世にふる ながめせしまに
・ふる:降る・経る
・ながめ:長雨・眺め

【主な掛詞】
・秋:飽き  ・明く:飽く  ・葦:悪し

・葵(あふひ):逢ふ日  ・嵐:あらじ
・如何に:五十日に  ・幾:行く:生く
・因幡:往なば  ・磐手:言はで  ・射る:入る
・浮き:泥:憂き  ・浦:裏:心(うら)
・隠岐:沖:置き:起き  ・奥:置く:起く
・陰:鹿毛  ・潟:難し  ・狩:刈り:仮・借り
・枯る:離る:借る  ・霧る:着る
・木(こ):蚕:籠:子  ・射す:鎖す
・澄み:住み  ・妻:褄  ・長雨:眺め
・波:無み:涙  ・鳴る:成る:慣る:萎る
・根:音:子:寝  ・初:果つ  ・春:張る:晴る
・火:日:思ひ:恋ひ  ・文:踏み
・降る:振る:経る:古る  ・海松:見る
・澪標:身を尽くし  ・漏る:盛る:守る
・夜:節(よ):世:代


3 序詞(じょことば)
 ある言葉を導くために、その前置きに用いる修飾語。
 〈景物の文脈〉から〈思いの文脈〉へ転換する。

【特徴】
・七音節以上で、二句以上にまたがり、受ける言葉も多様。
・序詞自体も意味を持っている。
・作者の独創により表現は自由。
・序詞(自然・景物)+被序詞(人間・心情)という構成。
・第一句から始まるとは限らない。
・区の切れ目で切れるとは限らない。
・倒置法が使われている場合は序詞はない。

【分類】
・比喩的でつながるもの。
・同音反復でつながるもの。
・直後が掛詞でつながるもの。

【例文】
あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の
 長々し夜を ひとりかも寝む


4 縁語(えんご)
 ある語を中心とし、放射状に広がるそれと関連のある語を随所に散りばめる技法。
 縁語は原則として歌の表向きの意味とは無関係である。
(定義)一首全体の趣旨とは無関係に、歌の中の一語に密接に関係する語群を配置することによって、歌の心情や内容に統一感をもたらす効果を持つ技法。

【特徴】
・語群のなかに、最低でも一語の「本論から外れる語」を含む。
 もともとひと続きの〈事物・景色描写〉や〈人物・心情描写〉の
 語群だけでは縁語にならない。
・序詞・懸詞と併用されることが多い。
・連想による面白さを狙う。

【例文】
来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに
 焼くや藻塩の 身もこがれつつ

【主な縁語】
・芦:よ(世)、ね(根)
・糸:ほころぶ(綻ぶ)、みだる(乱る)、よる(縒る)
・浦:あま(海女)、みる(海松)
・鏡:くもる(曇る)、あらはる(現はる)、かげ(影)
・笠:あま(天)、あめ(雨)、さす(差す)
・川:ながれ(流れ)、せ(瀬)、ふち(淵)、そこ(底)
   はやし(速し)、すむ(澄む)
・霧:はる(晴る)、たつ(立つ)、そら(空)
・草:もゆ(萌ゆ)
・煙:ひ(火)、くゆる(燻ゆる)、なびく(靡く)
・駒:あしげ(葦毛)、かげ(鹿毛)
・衣:きる(着る)、なる(萎る)、つま(褄)
   はる(張る)、たつ(裁つ)、うら(裏)
・鈴:ふる(振る)、なる(鳴る)
・袖:むすぶ(結ぶ)、とく(解く)、たつ(断つ)、なみだ(涙)
・薫物:ひ(火)、ひとり(火取り)、こがる(焦がる)
・竹:よ(節)、ね(根)
・露:きゆ(消ゆ)、おく(置く)、むすぶ(結ぶ)、は(葉)
・波:おと(音)、たつ(立つ)、かく(掛く)、くだく(砕く)
・藻塩:やく(焼く)、こがる(焦がる)
・弓:はる(張る)、いる(射る)、ひく(引く)


5 本歌取り(ほんかどり)
 すでにある昔の歌を基にして新しい別の歌を作る技法。

【特徴】
・本歌に対して、同一・類似表現がある。
 同一・類似表現は必ずしも同じ句の位置で用いなくてもよい。
・本歌に対して、対比表現がある。
・本歌は有名な古歌に限られる。
・本歌よりも複雑なイメージの世界が歌われる。

【例文】
きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに
 衣かたしき 一人かも寝む

〈本歌〉
さむしろに 衣かたしき 今宵もや
 我を待つらむ 宇治の橋姫


6 体言止め(たいげんどめ)
 歌の末尾を体言でしめくくる技法。
 余韻・余情を重視する技法

【例文】
村雨の 露もまだひぬ 真木の葉に
 霧立のぼる 秋の夕暮れ


7 見立て(みたて)
 あるものを全く別のなにかにたとえる技法。
 たとえるものとたとえられるものは共に具体的な物である。
(定義)視覚的な印象を中心とする知覚上の類似に基づいて、実在する事物Aを非実在の事物Bとみなすレトリック。
 擬人法:人間でないものを人間にたとえる技法。

【例文】
山川に 風のかけたる しがらみは
 流れもあへぬ 紅葉なりけり


8 隠し題(かくしだい)
 和歌の内容と関わりなく、特定の言葉を読み込む技法。
 清音と濁音の区別はない。

〈折句〉
 各句の始め、または終わりの一字を五つつなげると一つの言葉になる技法。
 沓冠とは、各句の頭と足の両方に十字の隠し題を入れる技法。

【例文】
らころも つつなれにし ましあれば
 るばる来ぬる びをしぞ思ふ (かきつばた)

〈物名〉
 歌の途中に特定の言葉を読み込む技法。
 句をまたぐこともある。

【例文】
朝露を 分けそほちつつ 花見むと
 今ぞ山野を みな経知りぬる (をみなへし)


9 倒置(とうち)
 意味を強調するために、文意の順序を転倒させる技法。
 第五句が途中で終わる場合は倒置と判断する。
 本来の文末は、終止形・命令形・結びの形・終助詞などがある。
 第五句以外の句で意味上の文末を迎えることを、句切れという。

【例文】
誰をかも 知る人にせむ 高砂の
 松も昔の 友ならなくに


10 対句(ついく)
 表現の上で類似する語句を並べ、印象を強くさせる技法。

【例文】
これやこの 行くも帰るも 別れては
 知るも知らぬも あふ坂の関


11 句切れ(くぎれ)
 一首の和歌が、意味上のまとまりで切れ目を持つこと。
 和歌のリズムを形成する。
 句切れなしの歌や二回以上切れる歌もある。

〈五七調〉重厚
・二句切れ
世の中は 常にもがもな / 渚こぐ
 あまの小舟の 綱手かなしも

・四区切れ
わたの原 八十島かけて 漕ぎ出でぬと
 人にはつげよ / あまの釣船

〈七五調〉軽快
・初句切れ
契きな / かたみに袖を しぼりつつ
 末の松山 波越さじとは

・三句切れ
天つ風 雲の通ひ路 吹き閉じよ /
 乙女の姿 しばしとどめむ


12 長歌・反歌(ちょうか・はんか)
 五・七を三回以上繰り返し、最後を七音で締めくくる形の歌。
 七句以上の歌。
 後に短歌形式の反歌が一首か二首つく。反歌は長歌の内容の補足や反復の場合が多い。
 あらかじめ披露される時と場が決まっていることが多い。

【例文】
やすみしし わご大君の 常宮と 仕へ奉れる
雑賀野ゆ そがひに見ゆる 沖つ島 清き渚に
風吹けば 白波騒き 潮干れば 玉藻刈りつつ
神代より 然そ貴き 玉津島山

  反歌二首
沖つ島 荒磯の玉藻 潮干満ち
 い隠りゆかば 思ほえむかも

和歌の浦に 潮満ち来れば 潟をなみ
 葦辺をさして 鶴鳴きわたる


13 題詠(だいえい)
 与えられた題によって歌を詠むもの。

【例文】
 鷹狩をよめる
霰降る 交野の御野の 狩衣
 濡れぬ宿かす 人しなければ


14 歌枕(うたまくら)
 伝統的に和歌の中で繰り返し詠まれてきた地名。
 特定の題材・発想と結びつくことが多い。

【例文】
嵐吹く 三室の山の もみじ葉は
 竜田の川の 錦なりけり


【用語集】
・歌題(かだい):歌の題。
・題詠(だいえい):題に即して歌を詠むこと。
・題者(だいしゃ):題を出す人(文学的、社会的権威がある)。
・本意(ほんい・ほい):和歌で扱われる題材について、もっともそれらしい様子。物事や心のありようの真実の姿。
・結題(むすびだい):二つの素材(概念)が組み合わされた題。
・寄物題(きぶつだい):結題の一種。「寄XY」の形式で、XとYの題を組み合わせる。
・句題(くだい):漢詩句の題。四字のものは「四字題」という。
・組題(くみだい):複数の題を組み合わせてひとまとまりにしたもの。
・百首歌(ひゃくしゅうた):百首をまとめて一度に詠んだもの。
・題知らず(だいしらず):歌題が分からない歌。
・落題(らくだい):歌題がしっかり詠み込まれていないこと。
・傍題(ぼうだい):歌題からずれていること。

【歌会】
・歌合(うたあわせ):歌人を左右のグループに分け、それぞれから和歌を出し合って、優劣を競う歌会。
・判詞(はんし):歌合で、優劣を判定する判者が、その優劣の理由を記した文章。
・兼題(けんだい):題があらかじめ示されているもの。
・即題・当座題(そくだい・とうざだい):題がその場で示されるもの。
・探題(たんだい):複数の題からくじで選ぶもの。
・屏風歌(びょうぶうた):屏風に書かれた歌。絵に適合するように詠まれた

【和歌の用語】
・上句・下句(かみのく・しものく):上句は和歌の前半部分(五・七・五)。下句は後半部分(七・七)。

・初句(しょく):和歌の五句のうち最初の句。
・結句(けっく):和歌の第五句。
・詞書(ことばがき):和歌の前に記され、その歌が詠まれた事情を説明する文章。
・雑体(ざってい):正統的でないスタイル。「古今集」では長歌・旋頭歌・俳諧歌を指す。

・俳諧歌(はいかいか):滑稽・卑俗を主眼とした和歌。
・自讃歌(じさんか):作者自らが優れていると認めた自作の歌。
・古歌(ふるうた):その時代から見て、古い時代の歌。手本にされたり、本歌取りされたりする。