国家と政治体制

国家と政治体制


【国家の概念】
 近代国家:今日のような国家は、西欧でも中世から近代への過渡期の、絶対主義の時期に成立した。
<国家の三要素>
1)国境で他と区別された領土
2)その国家に属する国民
3)国家内で唯一・最高の権威を有する主権
 国家の定義とは、「一定の領土を基盤にし、そこに住むすべての人々に対して、他からの干渉を許さない排他的な支配権力を有する統治機構」である。
<国民国家>
 国家はひとつのネーション(民族・国民)を基盤として成立すべきだとする意識がナショナリズムであり、ネーションをもとに成立する近代国家を国民国家(民族国家、ネーション・ステイト)という。
 ネーションには必ずしも人種・言語・文化などの統一性は求められず、異質性を抱えながらも、同じ国家を形成しようという一体意識で結ばれていればいい。

【国家の起源についての学説】
1)実力説:種族であれ、階級であれ、優勢な集団が統治機構を創出したとする説。
 グンプロヴィッツの征服説は武力的な征服に国家の起源を求める。
 マルクス・エンゲルスの(階級)搾取説は階級的な搾取機構に国家の起源を求める。
2)契約説:社会の構成員が合意によって少数の支配者を選ぶ契約を結び、社会秩序の創出を図ったとする説。

【国家の主権】
 ボーダンは「国家論(1576)」において、国家が主権を持つべきであると説いた。
 国家が、領土内のあらゆる個人や集団に対して最高・絶対の支配権を持つべきであるとする。
<王権神授説>
 国家の主権を「神」から授けられたのが君主であるとする説。
 国家主権は、具体的には領主と教会に対して唱えられた。

【社会契約説】
・ホッブスは「レヴァイアサン(1651)」において、主権の絶対性を自然権に求めた。
 自然権とは、人間が生まれながらにして持っているとされる権利である。
 自然権として、「自己保存の権利」がある。
 自然状態では、「万人の万人に対する闘争」のために自己保存の権利が保障されない。
 そこで社会契約を結んで、国家や社会を形成し、平和な市民社会を樹立する。そのために、契約を遵守すべく主権者を選び、その人に絶対的な服従を誓う、とする。
・ロックは「市民統治論(1690)」において、社会契約説を立憲主義につなげた。
 すべての個人は生命・健康・自由・財産の権利を与えられており、これを「所有」の権利という。
 所有の権利が侵害されないために、人々は相互に社会契約を結び、国家をつくる。
 自然権は「委譲」できないため、人々は政府に権限を「信託」するにすぎない。そのため、人々は政府が契約を守らない場合、「抵抗の権利」を行使できる、とする。
・ルソーは「社会契約論(1762)」において、人民主権を主張した。
 主権に担い手は主体的個々人の集合体である「人民」であり、その主権は不可分・不可譲なので、政府に「委譲」できない。また、主権は代表することはできず、人民が直接行使しなければならない(直接民主制)。市民相互の討議によって一般意志を形成し、それに絶対的に服従しなければならない、とした。

【多元的国家論】
1)多元的国家論(政治的多元主義)
 国家は社会の多くの集団と並ぶひとつの集団にすぎず、国家の権力も国家の目的によって制限されており、無制約なものではないとする。これにより、国家の絶対化を防ぎ、自由主義的原則を維持しようとした。
2)一元的国家論
 個人や社会集団に対する国家の独自性を強調し、国家は絶対的な主権を有するとする。
 一元的国家論では、加入・脱退の自由、関与する領域や目的、成員への強制力が国家と他の社会集団では決定的に相違すると考える。

【ポリアーキー(ダール)】
 デモクラシーの条件を、不完全だが近似的に満たした、比較的民主化された体制をポリアーキーと呼ぶ。
1)自由化(公的異議申し立て):言論・集会・結社の自由などを許容し、自由な政府批判を認める程度。
2)包括性(参加):選挙権など、政治に関与できる人の割合。
 この2つを軸として、体制のデモクラシー度を測る。
 いずれも高いのがポリアーキーであり、いずれも低いのが閉鎖的抑圧体制である。
 自由化が高く、包括性が低いのが競争的寡頭体制であり、制限選挙時代の近代国家など。
 自由化が低く、包括性が高いのが包括的抑圧体制であり、旧ソ連のような共産主義国家など。

【全体主義体制と権威主義体制】 
・全体主義体制(ファシズム体制や共産主義体制)
  個人主義を否定して、全体社会の存立が何にもまして重要であるとする体制。
  国家が個人よりも高次の存在とされ、国家が強権を持って国民を指導することが理想とされる。
・権威主義体制(スペインの旧フランコ体制や発展途上国など)
  全体主義と民主主義の中間的な体制。
<両者の相違点>
1)カリスマ的指導者
 全体主義では、カリスマ的指導者が無制限に近い強力な支配を行う。
 権威主義では、指導者はカリスマ性が薄く、伝統を重視し、それに依拠して支配する。
2)一元的な政治構造
 民主主義では社会が多元的だが、全体主義ではそれが否定され、強引に一元化される。
 権威主義では、限定的ながらも多元的社会が見られる。
3)動員的体制
 全体主義ではダイナミックな支配が特徴となる。
 権威主義では、支配は静態的で、一般国民は政治的無関心になることが多い。
4)体系的イデオロギー
 全体主義では強力なイデオロギーによって自己武装がなされる。
 権威主義では、そのような体系的イデオロギーを欠いている。

【現代国家と独裁】
<専制と独裁>
 専制政治はデモクラシー思想以前の支配様式であり、身分に基づいて、支配者が拘束なしに国家権力を行使した。被支配者である民衆は、政治と無関係な存在だった。
 独裁政治はデモクラシー思想以後、それを装ってなされる支配様式であり、支配者の権力掌握には大衆運動が大きな力を持ち、権力の行使は被支配者である大衆の支持を基盤にして行われる。
<独裁の二類型(シュミット)>
1)委任独裁:憲法に基づき、非常事態に限って一時的に許容されるもの。
2)主権独裁:既存の憲法秩序の崩壊後、新しい秩序の形成のために行われる超憲法的な独裁。


【参考】
・「はじめて学ぶ政治学」:加藤秀治郎著 実務教育出版 1994 東京