天文学概論 Ⅳ:系外銀河
1. 系外銀河
1)星雲
・星雲 nebulaとは、店源である星に対し、ぼんやりとした広がりを持つ天体の総称である。18世紀に作られた「メシエのカタログ」が有名。
・近くの恒星に照らされて輝いているガス星雲(散光星雲)、球状星団、超新星残骸、惑星状星雲などは銀河系の内部に存在する天体である。それに対し、銀河系外に存在する銀河は系外銀河 extragalaxy(または単に銀河 galaxy)と呼ばれる。
2)銀河の分類
・ハッブルの形態分類は、銀河を次の3種類に分類する。
① 渦巻銀河 spiral galaxiesまたはS型
バルジと呼ばれる球形構造と円盤部からなり、円盤部にはspiral armと呼ばれる渦巻状の構造がある。円盤部および渦巻きの腕の部分にはガスや星間塵が存在し、星形成が行われている。
バルジと円盤の相対的比率により、Sa、Sb、Scの3つに細分類される。SaからScにいくに従い、バルジの大きさが小さく、渦巻きの巻き方がゆるくなる。
中心部分が棒状になっているものを棒渦巻銀河 barred spiralあるいはSB型と呼ぶ。渦巻銀河と楕円銀河の中間に対応する銀河はS0型と呼ばれる。
② 楕円銀河 elliptical galaxiesまたはE型
見かけの形が楕円形で、E0からE7まで細分類される。銀河の集まりである銀河団の中心にはしばしば巨大楕円銀河が存在する。特徴は、銀河の中にガスおよび星間塵がみられないことで、すでに星形成が終了していると考えられる。
銀河回転のような系統的な運動はみられず、構成する星々は楕円銀河の重力場の中で無秩序な運動を行っている。
③ 不規則銀河 irregular galaxiesまたはIr型
渦巻きの腕や中心核などはっきりした形を持たず、渦巻銀河や楕円銀河に分類できないもの。
3)銀河までの距離
・系外銀河までの距離として、メガパーセク(Mpc)という単位を使う。1Mpcは10^6pc〜300万光年に相当する。
・系外銀河までの距離の測定には、セファイド変光星を用いる。セファイド変光星は脈動変光星の一種で、周期-光度関係があり、周期がわかると絶対光度を知ることができる。絶対光度が分かると、それを見かけの明るさと比較することにより、セファイド変光星が所属する銀河までの距離が決定できる。
・6Mpcを超える銀河の距離は、銀河の中で一番明るい天体(巨大HⅡ領域、球状星団、新星・超新星など)を標準光源に用いて測定する。
・25Mpcから400Mpcまでの銀河の距離は、渦巻銀河の回転速度とその銀河の明るさの間にある一定の関係(タリー・フィシャーの関係)から求められる。
4)銀河の赤方偏移
・ハッブルにより、銀河のスペクトル赤方偏移が発見された(1929年)。ハッブルの法則とは、遠くの銀河ほど赤方偏移が大きい(後退速度が大きい)というもので、銀河の後退速度をv、銀河までの距離をdとすると、
v = H・d により表される。
Hはハッブル定数で、観測により50〜100の間に分布している。
宇宙膨張が過去も現在と同じ割合であったとすると、宇宙の年齢は銀河までの距離を後退速度で割ったものから求められ、ハッブル定数から100億年〜200億年となる(ハッブル時間)。
5)銀河団
・銀河団 cluster of galaxiesとは、いくつかの銀河が集まって集団をつくっているもので、メンバー銀河がつくる重力で束縛された系をなしている。
・メンバー数の多い銀河団は、メンバー銀河が1000個にものぼり、中心になるほど銀河の数密度が高く、多くの場合、中心に巨大楕円銀河が存在する。
・メンバー数の少ない銀河団は、メンバー銀河が100個以下で、形も不規則となる。
6)宇宙の大規模構造
・いくつかの銀河団が集まり、超銀河団を形成する。
・宇宙の中で銀河は一様に分布するのではなく、銀河団が連なるように存在する大きな壁(グレートウォール)と呼ばれる部分と、銀河があまり存在しない超空洞(ボイド)と呼ばれる部分とがある。このような構造を宇宙の大規模構造(宇宙の泡構造)という。
7)銀河間ガス
・銀河と銀河の間に存在するガス(銀河間ガス)は、温度が1000万度から1億度にも達する高温で、銀河団の中の銀河に近い分布をしている。
・銀河間ガスの質量は銀河団の銀河の質量の総和に匹敵するか、あるいはそれ以上に大きいが、銀河間ガスが宇宙空間に拡散しないためにはその約10倍の質量が必要となり、銀河団のレベルでも暗黒物質が存在すると考えられる。
2. クエーサーと活動銀河核
1)クエーサー
・クエーサー quasarは特別に明るい銀河中心核であり、宇宙の中で最も明るい天体である。
・天体電波の放射機構には熱的放射と非熱的放射がある。
・熱的放射は、電離水素領域が放射する電波で、電離したガス中で熱運動する自由電子が、正に帯電した原子核の近くを通過する際、クローン力によってその軌道が曲げられることによって放射される。
・非熱的放射(シンクロトロン放射)は、光の速度近くまで加速された電子(宇宙線電子あるいは相対論的電子)が磁場中で、磁場によって曲げられてらせん運動をする際に放射される電波であり、一般にべき級数型の連続スペクトルを示し、放射光は強く偏光している。
・クエーサーは1960年代後半にQSS(quasi stellar source)と呼ばれた電波源で、恒星状で、幅広い輝線スペクトルをもち、赤方偏移が大きく、可視光で偏光が観測され、紫外超過であるなどが特徴とされた。現在、通常の銀河の100倍にもなる明るさを持ち、銀河よりもサイズが小さく、数日から年の単位で変光する銀河の中心核と考えられており、大きな赤方偏移を示すことより、宇宙の果てにある遠い天体とみなされている。
2)活動銀河中心核(AGN)
・セイファート銀河は、通常の渦巻銀河の一種であるが、その中心核が異常に明るく、スペクトルで水素のバルマー線などが強い輝線スペクトルを示す。
・クエーサーやセイファート銀河の中心核を、活動銀河中心核(active galactic nuclei :AGN)と呼ぶ。AGNの特徴は、
① 異常に明るい中心核を持つ。
② 電波からX線まで広い波長域にわたるスペクトルを持つ。特に紫外域からX線領域での電磁波を最も多く放射する。
③ 幅広い輝線スペクトルを示す。
④ いろいろな波長域の電磁波で変光現象を示す。波長が短いほど速いタイムスケールの変動を示す。
⑤ ジェットが放出されている場合がある。
・活動銀河核の中心には太陽質量の100万倍から1億倍の巨大ブラックホールが存在し、その周りをガスが円盤状に回転していると考えられている。スペクトルの幅広い輝線は、ブラックホールから1pc以内の領域(広輝線領域)から出ており、幅の狭い輝線は中心から数十pc〜数百pcの領域(狭輝線領域)から出ていると考えられている。
3)エディントン限界
・エディントン限界とは、ある質量を持つ天体が、自分自身で放射する光子の放射圧で吹き飛ばされてばらばらにならないための明るさ(光度)の上限である。エディントン限界光度は、天体の重力と放射圧による力がちょうど釣り合う明るさをいう。エディントン限界は中心天体の質量のみで決まり、中心天体からの距離には関係しない。
・クエーサーの光度がエディントン限界内に収まるためには、クエーサーの中心核の質量は太陽質量の1億倍以上である必要がある。
4)活動銀河核モデル
・活動銀河核のモデルとしては、巨大ブラックホールへの質量降着モデルが考えられている。
・超巨大ブラックホールの周りには回転するガスの円盤(降着円盤)が形成され、円盤中のガスは渦巻きながらゆっくりと中心のブラックホールへ落下していく。その際に重力ポテンシャルエネルギーが解放され、そのエネルギーによりブラックホール近傍の円盤部ではガスが高温に熱せられ、紫外線やX線を放射する。
・ブラックホールには重力半径(シュワルツシルド半径:事象の地平)が存在し、回転円盤の内縁は重力半径の3倍のところにできる。その内側ではガスはブラックホールに自由落下の形で吸い込まれていく。
【参考】
・尾崎洋二「宇宙科学入門」 東京大学出版会 1996