天文学概論 Ⅲ:銀河系
1. 銀河系
・銀河系は、直径約30kpc(10万光年)の凸レンズ型をした約1000億個の星の集団である。個々の星々は円盤状に分布し、中心の周りを回転しており、星と星との間の空間には固体微粒子からなる星間物質が存在する。
・銀河系の構造は、銀河円盤と中心のバルジというふくらみ、全体を球形に覆うハローからなる。
1)星間ガスと星間塵
・星間ガスとは、星と星との間を満たす希薄なガスで、平均密度は1個/cc程度。星間ガスの密度の高い部分は星間雲と呼ばれる。星間雲には固体微粒子である星間塵が含まれ、これらをまとめて星間物質という。
・散開星雲は、星間雲が近くの明るい星に照らされ、星の光を吸収・再放射することによって輝いている。
・暗黒星雲は、密度の濃い星間雲(分子雲)が背後の星の光を隠すことにより観察される。
・星間吸収により遠くの天体の明るさが暗くなることを星間減光という。星間吸収を受ける星は実際の色より赤くなる(星間赤化)。星の光が星間雲を通過してきたとき、そのスペクトルの中に星間雲特有の吸収線を生じ、これを星間吸収線という。
2)星間ガスの形態
① 高温領域
温度が数十万度から100万度で、粒子密度が0.01個/ccという高温・希薄な領域。銀河円盤の体積の数十%を占める。
② HⅡ(電離水素)領域
星間ガスの主成分である水素は、電離状態によりHⅠ(中性水素)領域とHⅡ(電離水素)領域に分かれる。
水素の電離ポテンシャルは13.6eVで、912Åより短い波長の電磁波を吸収することにより、電子が基底状態から電離状態(電子が原子核に束縛されていない自由状態)へ遷移する。電離した陽子と自由電子は再結合し、電子がさまざまなエネルギー準位を持つ水素原子に戻る。さらに、電子が順次より低いエネルギー準位へと段階的に遷移を重ね、余分のエネルギーを光子として放射する。
高温度の星の周囲の星間ガスは、星からの紫外放射により水素が光電離されてHⅡ領域になる。星の周囲の電離領域には大きさの限界があり、HⅡ領域の外側はHⅠ領域となっている。
境界を持つ、高温度星の周りのHⅡ領域をストレムグレン球という。
③ HⅠ(中性水素)領域
ストレムグレン球より外側の星間雲では、水素は中性水素の形で存在し、この領域をHⅠ領域という。粒子密度は1〜10個/cc、温度は50〜100Kである。
HⅠ領域の水素は基底状態にあり、その基底状態に2つの超微細構造がある。エネルギーが高い状態では陽子(水素原子核)と電子のスピンが平行であり、エネルギーが惹く状態ではスピンが反平行である。高エネルギー状態から低エネルギー状態へとスピンが遷移する際、そのエネルギー差に対応する電磁波を放出する(波長21cmの中性水素の電波輝線)。逆に、スピン反平行の状態にある水素原子は、波長21cmの電波を吸収してスピン平行の状態に遷移する。
④ 分子雲
星間雲の中でもっとも密度が高く、粒子密度は10^3〜10^5個/cc、温度は10〜30Kである。主成分である水素は水素分子H2になっている。
3)星の誕生
・分子雲は不定形で、しばしばヒモ状の構造をなし、密度の濃い所がある程度収縮すると自己重力が内部の圧力より強くなり、さらに収縮を続ける。その際、自由落下に近い状態で密度の高い中心に向けて星間物質が落下していく。
やがて中心近くは放射線に対して不透明となり、コアでは放射によって熱を逃さなくなり、内部の温度・圧力が上昇する。圧力が重力より勝るようになると、収縮が止まる(コアのバウンス)。しかし、星間雲の外側では重力のほうが大きいので、外側の物質が次々とコアの表面に降り積もる(アクリーション accretion)。
・収縮の止まったコアが、降り積もる物質の解放する重力エネルギーにより明るく輝き出したものを原始星という。原始星の表面から放出される光はいったん星間雲の塵によって吸収され、波長の長い赤外線の形で再放射される。
・星間雲はわずかな速度で回転しており、収縮とともに角運動量保存の法則により星間雲の回転が速くなる。星間雲がコアに降り積もる過程で、回転の遠心力と重力とがつりあい、中心にある原子星の周りに回転円盤を形成する。
2. 銀河系の姿
1)星団
・星団とは、沢山の星々が空間的に狭い場所に集まって力学的に集団を形成するものをいう。星団は自分自身の重力で力学的に閉じた系をつくっていると考えられる。
① 散開星団
散開星団は中心への集中度が散漫で、メンバー星の数も100個程度から1万個程度と比較的少ない。銀河系の円盤部に存在し、比較的若い星団であり、メンバー星は同じ分子雲から同時に誕生したと考えられる。
② 球状星団
球状星団は数万個から100万個の星々が密集して球状に集まったもので、銀河系の中心から球状に分布しており、銀河系の初期にできたものと考えられる。
2)銀河系の構造
・銀河系の基本構造は、円盤部と球形部からなり、円盤部は中心の周りを約220km/sで回転している(銀河回転)。
・球形部は中心近くのバルジと、銀河全体を球状に包むハローとからなり、球形部の天体は回転運動ではなく、銀貨系の重力場の中で自由な方向に運動している。
・銀河系内の天体には、若い種族Ⅰ(PopulationⅠ)と銀河系形成の初期にできた古い種族Ⅱ(PopulationⅡ)がある。種族Ⅰの天体は円盤部に集中しており、星間ガス、質量の大きいOB型星、散開星団などを含む。種族Ⅱはバルジやハローに存在し、球状星団などが含まれる。
3)銀河回転
・銀河系内の回転速度の分布は、中性水素あるいは一酸化炭素の出す電波のスペクトル線によって求められる。
・銀河回転は差動回転であり、回転の角速度は外側ほど遅くなる。また、銀河中心からかる距離以上のところでは、回転速度はほとんど一定となる(平らな回転則)。
・銀河系を構成する物質の質量としては、星や星間ガスのように「光を出す質量」のほか、平らな回転則を説明するためにはその約10倍ほど、目に見えない質量の原因となる暗黒物質 dark matterが存在すると考えられる。
4)暗黒物質
・暗黒物質の候補としては、通常の物質からなる天体(バリオンの暗黒物質)と、バリオン以外の素粒子(非バリオンの暗黒物質)の可能性が考えられている。
① 褐色矮星
褐色矮星は恒星と惑星の中間の質量を持つ天体であり、太陽質量の1/10以下の質量を持つ天体は中心で水素の核融合反応が起こる温度に達する前に電子が退縮状態となり、星の内部は冷えていき光を出さない暗い星となる。
② 非バリオンの暗黒物質候補
ブラックホール、質量を持つニュートリノ、物質との相互作用は弱いが質量を持つ未知の素粒子(weakly Interacting Massive Particles : WIMPs)など。
5)銀河系の渦巻き構造
・「銀河の巻き込み困難」とは、銀河系に渦巻状の物質分布構造があるとすると、銀河の差動回転によりすぐにぐるぐる巻き状になるはずだが、実際に観測される構造は計算よりもかなり腕が開いた構造になっている。
これを説明する密度波理論とは、渦巻き構造は銀河にできた密度のゆらぎの一種の波(パターン)で、銀河を構成する物質自身はこの波を横切っていくとるすものである。その波動の起源としては、差動回転する銀河円盤の中で起こる重力不安定性が考えられている。
6)銀河系の誕生と進化
・銀河は、宇宙がビッグバンの後、膨張して冷えていく過程で宇宙の中に密道の濃淡ができ、その密度の濃い所がそれ自身で重力収縮して宇宙膨張から切り離され、原始銀河となったと考えられている。
・宇宙誕生の初期にできた天体は、銀河に球状に分布し、重元素が少ない(種族Ⅱ)。
・初期の星を形成しなかった星間ガスは、原始銀河のもつ角運動量のために遠心力と重力が釣り合った円盤状の構造を作り、銀河円盤となる。ガスは次第に銀河円盤の赤道面に沈殿し、その中から第2世代、第3世代の星が誕生するが、これらの星には超新星爆発で放出された重元素がより多く含まれる(種族Ⅰ)。
【参考】
・尾崎洋二「宇宙科学入門」 東京大学出版会 1996