天文学概論 Ⅱ

天文学概論 Ⅱ:恒星


1. 恒星の基本的諸量

1)星の明るさ

・星の明るさは等級で表す。等級は対数目盛で、1等級の差は明るさで10^2/5 = 2.512倍に相当する。太陽の明るさは-27等級、最も暗い天体は約+25等級である。
・地球上で観察される明るさを「見かけの明るさ」といい、天体自身が宇宙空間に放射するエネルギー流量を「真の明るさ」という。
 真の明るさは、天体を10パーセク(32.6光年)の距離においたときの明るさで表し、それを絶対等級と呼ぶ。
・天体の見かけの明るさをl、真の明るさをL、その天体までの距離をdとすると、
 l = const L/d^2 となる。
 天体の見かけの明るさをm、絶対等級をMとすると、
 m = M – 2.5 log10 (l/L) = M + 5 log10 (d/10 pc) となり、
見かけの等級と真の等級の差(m – M)はその天体までの距離を代表する量となり、距離指数 distance modulusと呼ばれる。

2)星までの距離

・地球の公転軌道の両端から星が見える角度の1/2(星が太陽と地球を見込む角度)を年周視差といい、πで表す(単位は秒)。
・星までの距離は、年周視差の逆数で表し、パーセク(pc)という。
 天体の年周視差π、その天体までの距離dとすると、d = 1/πパーセクとなる。
 1パーセクは3.26光年にあたり、年周視差1″に相当する。
・年周視差を使って測定した星の距離を三角視差というが、年周視差の精度は±0.01″であるから、100pcを超える距離の天体は三角視差で測定することはできない。
・三角視差で測れない天体の距離の測定は、距離のはしご distance ladderという原理が用いられる。既知の距離の天体から明るさの指標となる物理量を選択し、未知の距離の天体についてその物理量を使って真の明るさ(絶対等級)を推定し、それと見かけの明るさとの比較からその天体までの距離を求める。

3)星の運動

・固有運動とは、星の空間運動のうち、われわれの視線に対して直角方向の動きをいう。
・固有運動は、背後にある遠くの天体に対する恒星の天球上でのわずかな位置の移動として観測され、1年あたりに天球上を移動する角度(秒)で表される。固有運動の大きな星は通常近くにある星であり、1万光年を超える天体の固有運動を測定するのは困難である。
・視線速度は星の空間運動のうち、視線方向への速度であり、星のスペクトル線のドップラー効果から測定する。
 実測した星のスペクトル線の波長λ、実験室での波長λ0、その差⊿λ = λ-λ0とし、光速度をcとすると、視線速度Vrは次の式で表される。
 Vr/c = ⊿λ/λ
 視線速度は、赤方偏移(遠ざかる)を正、青方偏移(近づく)を負とする。

4)星のスペクトル観測

・分光器を用い、星の光を異なる波長の電磁波に分けて観測することをスペクトル観測という。
・光を分光すると7色の連続スペクトルが得られ、連続スペクトルを背景とした暗線をスペクトル線(吸収線)という。背景よりも明るい線は輝線スペクトルという。
・星の連続スペクトルは高温のガスが出す熱放射(黒体放射)であり、ある温度の物体はプランクの黒体放射の法則にしたがって電磁波を放射する。
・星の光度 luminosityとは、恒星の表面から単位時間に放射される全放射エネルギー流量である(=星の明るさ)。
 恒星の半径R、表面温度T、全放射エネルギー流量Lとすると、
 L = 4πR^2σT^4 となる(σはシュテファン-ボルツマン定数)。
・星の色からその星の表面温度を推定できる。星からの放射が黒体放射であるプランク分布で近似できる場合、プランク分布は波長の関数で与えられるからである。
・星の色を決定するには、異なる色のフィルターを通した星の等級を測定する方法が用いられる。紫外U・青B・黄色Vの3つのフィルターを用いて測定した星の等級を、それぞれ紫外(U)等級、青色(B)等級、実視(V)等級と呼び、青色等級から実視等級を引いた(B-V)の値を色指数と呼ぶ。
・色指数と星の表面温度の関係は、
 B – V ≃ 9000/T -0.85
で与えられ、色指数が大きい星ほど星の色が赤く、表面温度が低いことになる。

5)星のスペクトル型

・スペクトルの吸収線は星の大気中の元素の化学組成や星の温度などにより、そのパターンが決まるため、スペクトル線のパターンによって星を分類することができる。
・星のスペクトル型分類は、現在ハーバード分類が用いられており、そのスペクトル型は星の表面温度と対応している。スペクトル型は、表面温度が高い順にO-B-A-F-G-K-Mとなり、低温度星(KおよびM)にはR-N型およびS型の分岐がある。

6)星の化学組成

・スペクトル解析から得られた星の化学組成は、構成元素の大部分が水素で、次に多いヘリウムは水素の1/10、それに次ぐ酸素、炭素はヘリウムの約1/100となる。
・宇宙化学組成 cosmic abundanceとは、星や星間ガスなどから求められた平均の化学組成比である。天体の化学組成を表すには元素の相対的重量比を用い、水素(X)、ヘリウム(Y)、その他の元素(Z)とする(X+Y+Z=1)。

7)ヘルツシュプルング・ラッセル図(HR図)

・HR図は、横軸に星の表面温度Teff(それに対応する星の色またはスペクトル型)、縦軸に星の明るさL(光度すなわち絶対等級)をとる。
・星のスペクトル型の2次元分類は、表面温度の系列であるO-B-A-F-G-K-Mと、星の密度の系列に対応する光度階級(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ)の2次元で分類する。光度階級のⅠ、Ⅲ、Ⅴはそれぞれ超巨星、巨星、矮星(主系列星)を表す。光度階級は、同じ表面温度系列の星のわずかなスペクトル差を使って決定する。

2. さまざまな恒星

1)恒星の活動

【主系列星領域】
・主系列星はHR図上で左上から右下にかけて系列をなす星々である。
・超巨星(O、B)はHR図の左上に位置し、高温で光度が大きい早期型星である。これらの星々は外層大気が高速で星から吹き出しており、質量放出が起こっている。また、X線も放射している。
 B型にはケフェウスβ型という脈動変光星が含まれ、Be型は星自身が高速で自転しており、赤道からガスが吹き出していると考えられる。
・A型にはAp、Amという金属元素のスペクトルが異常に強い星が存在し、Ap型の中には強い磁場を持つ磁変星が含まれる。
・G型は晩期型星で、太陽がこのタイプに含まれる。M型には星全体に爆発現象が起こり、明るさが突然増大するフレア星が含まれる。

【赤色巨星領域】
・赤色巨星領域はHR図の右上に分布する。
・セファイド型変光星はG・K型超巨星からA型主系列にかけて細長く帯状に分布する脈動変光星であり、周期-光度関係に一定の法則がある。
・赤色巨星・超巨星領域にはミラ型脈動変光星(長周期型変光星)が存在する。

【白色矮星領域】
・白色矮星領域はHR図の左下に分布する。
・白色矮星に含まれる脈動変光星は、くじら座ZZ型変光星と呼ばれる。
・白色矮星列を高温側に延長したところに、惑星状星雲の中心星が存在する。

2)連星

・連星とは、2つの星が引力により互いに引き合い、その共通重心の周りを公転運動している系である。恒星の約半数は連星 binary starsないし多重星であると考えられている。
・近接連星 close binaryとは、2つの星の距離が1つの星の直径と同じ程度に接近している連星をいい、しばしば両星の間で物質の交換が行われている。
・実視連星 visual binaryとは、望遠鏡で空間的に2つの星に分離して見える連星をいう。
・分光連星 spectroscopic binaryとは、スペクトル観測によりはじめて連星であることがわかるものをいう。
・食連星 eclipsing binaryとは、連星系の軌道面が観測者の視線方向にあるため、2つの星の公転運動により一方の星が他方の星の手前に来て、相手の星を隠す食現象により明るさが変動するものをいう。

3)脈動変光星

・脈動変光星とは、星自身が膨張と収縮を繰り返すことによって変光する星である。
・ケフェウス座δ星に代表されるセファイド変光星は規則正しい周期で明るさの増減を繰り返す。恒星の大きさは自身の重力と内部の圧力の釣り合いによって決まり、重力による収縮と圧力による膨張が繰り返されることによって元の半径(平衡状態)の周りを振動することによって変光が起こる。
・セファイド型変光星には周期-光度関係があり、周期の長い星ほどその絶対光度が大きくなるため、これを用いて三角視差で測定できない遠方の銀河までの距離を測定することができる。

4)星からの質量放出

・恒星風とは、星からの定常的な質量放出である。O型星、B型超巨星などの早期型星や、M型超巨星などの晩期型星で大きな質量放出がみられる。
・早期型星からの質量放出は星から球対称的に起こり、スペクトル線の短波長側は吸収線に、長波長側は輝線になる「白鳥座P星型プロフィル」がみられる。
 質量放出の原因は放射圧によると考えられており、実際に質量放出率は星の全放射光度ともっともよく相関し、全放射光度が大きいほど質量放出率も大きくなる。
・赤色巨星からの質量放出は、一般に温度の低い(10^4K以下)恒星風となり、スペクトル上、強い金属吸収線プロフィルの中心部分に短波長側に少しずれた深い吸収構造がみられる。M型巨星・超巨星は最終的に水素からなる外層が全て失われ、惑星状星雲を経て星の中心部が白色矮星になる。

3. 星の内部構造と進化

1)星のエネルギー源

・恒星のエネルギー源は、水素などの軽い元素をより重い元素に融合する熱核融合反応である。
・1000万度を超す恒星内部では、元素はプラスに帯電した原子核と、マイナスの電荷を持つ電子とに分かれたプラズマ状態にある。この温度で原子核どうしが衝突して核反応を起こすには、原子核の電気的クローン力による反発力が障害になるが、量子力学的なトンネル効果により、わずかな確率で原子核どうしが衝突して核反応が起こる。温度の上昇により、核反応率は急激に増大する。
・星が表面から放射によってエネルギーを失うと、星全体が収縮する。収縮により、星の重力ポテンシャルエネルギーが開放され、このエネルギーの約半分は放射として表面から失われ、残りの半分は星自身の内部の温度を高めるのに使われる。エネルギーを失うことにより、内部温度が上昇するような星の性質を「有効比熱が負の系」と呼ぶ。

2)星の内部構造と進化の理論

・恒星の平衡状態を記述するのは、静水圧平衡と熱平衡の2つの平衡条件である。
・静水圧平衡とは、星の内部の各点で星自身の重力と圧力勾配による力が釣り合っているという条件である。
・熱平衡とは、星の表面から放射の形で失うエネルギーを内部で生成される核融合エネルギーで賄っているという条件である。
・熱輸送の条件とは、内部で発生した核エネルギーは放射あるいは対流といった形で内部から表面へ向けて運ばれることをいう。
・自己重力の条件とは、星自身の重力は星をつくっている物質自身によって生み出されていることをいう。

3)星の誕生と主系列への進化

・星の誕生は、分子雲と呼ばれる高密度の星間雲が収縮し、その中に原始星ができることから開始される。
・原始星は内部の温度が数十万度程度で、原子核反応は起こらない。原始星が表面からの放射によってエネルギーを失うと星全体が収縮し、それとともに内部温度も上昇する。星の内部温度は、収縮に伴い、星の半径に逆比例して上昇する。この段階を重力収縮段階といい、この段階の星を前主系列星という。
・星の中心温度が1000万度を超えると、水素の核融合反応が始まる。星は中心での核融合反応で生じたエネルギーと、星の表面から放射されるエネルギーが釣り合った主系列星になる。

4)主系列星

・星は一生の大部分を、中心での水素の核融合反応でエネルギーを賄う主系列星として過ごす。
・HR図上で主系列星は左上から右下にかけて長い系列をつくり、系列上の位置は星の質量によって決まる。高温のO・B型星(左上)は太陽の質量の10倍ないしそれ以上の大質量星であり、M型星(右下)は太陽質量の半分以下の小質量星である。
・かつては星はO・B型星として生まれ、次第に冷えて低温のM型星になると考えられており、O・B・A型の高温の星を早期型星、G・K・M型の星を晩期型星と呼んだが、現在ではこの考えは間違っており、主系列が星の進化の系列ではなく、星の質量の違いによる系列であることが明らかにされている(ただし、早期型星、晩期型星の名称は現在でも残っている)。
・質量-光度関係とは、星の明るさは星の質量とともに急激に増大することをいう。
・負の有効比熱系である星は、内部での核反応によるエネルギー発生量が表面から失うエネルギーより大きくなると、星は膨張して内部の温度が下がり、核融合によるエネルギー生成率も下がり、核反応エネルギー発生の超過は解消される。

5)進化の進んだ星

・星の中心部分の水素が完全に使い尽くされると、水素燃焼箇所は中心からコアの周りの薄い球殻部分に移る(主系列段階の終了)。
・コアは収縮し、球殻を堺にして星の外層は急激に膨張する結果、星は高密度のコアと密度が低く半径が大きな外層部からなる二重構造をとるようになり、赤色巨星へ向けて進化していく。
・コアがさらに収縮を続けると、中心温度も増大し、1億度以上になるとコアのヘリウムが3α反応という核融合反応により炭素に変換し始める。
・ヘリウムの燃焼が始まるとコアの収縮は止まり、外層部も膨張を止めてむしろ収縮に向かう。その結果、星はHR図上、赤色巨星列から離れ、青色巨星、黄色巨星の位置に戻る。
・中心でヘリウムが燃え尽きると、ヘリウムの燃焼領域はコアの周りの球殻に移り、中心の炭素のコアは再び収縮を始める。

6)大質量星の死と超新星爆発

・大質量星の場合、さらに中心で炭素燃焼、珪素燃焼と核反応が続き、最終的に鉄のコアができると、それ以上核融合反応は起こらず、鉄のコアがさらに収縮して中心温度が30億度を超えると鉄はヘリウムと中性子に分解する(鉄の光分解)。
・鉄の光分解は吸熱反応であるため、中心圧力がいっそう下がり、コアは加速度的に潰れていく(重力崩壊)。
・中心核の密度が上がり、原子核の密度と同程度の高密度になると、コアの物質は中性子化し、核力による反発力で星の収縮は止まる。収縮の止まったコアに外側の物質が自由落下し、コアにぶつかって跳ね返される(バウンス)。
・この際、莫大な重力エネルギーが開放され、そのエネルギーの大部分はニュートリノの形で星の外層へ伝えられる。ニュートリノの一部が外層で吸収され、そのエネルギーにより星の外層が吹き飛ばされ、超新星爆発となる。超新星爆発で星の外層の物質が秒速数千㎞という高速で放出され、それに含まれる重元素はやがて星間ガスに混入する。
・超新星 supernovaにはⅠ型とⅡ型があり、スペクトルに水素の線が観察されるⅡ型は大質量星が一生を終える際の大爆発であると考えられる。スペクトルに水素が観察されないⅠ型超新星は、連星系中の白色矮星に伴星からの物質が流入して白色矮星の表面に蓄積し、白色矮星がその上限質量であるチャンドラセカール限界質量を超えたときに起こる大爆発であると考えられる。

7)小・中質量星の進化

・質量が太陽質量からその数倍程度の小・中質量星の場合、中心で水素が使い尽くされると、水素の核融合反応はコアの周りの球殻に移る。太陽程度の小質量星では、ヘリウムのコアは縮退状態にあり、電子の縮退圧で支えられる。球殻中で水素の燃焼が続くと中心カウのヘリウム質量が増大し、それとともに星は半径と光度を増して赤色巨星へ進化していく。
・中心のヘリウム質量が増大し、太陽質量の半分程度になるとコアの温度が1億度に達し、ヘリウム燃焼が始まる。ヘリウム燃焼は反応が加速度的に増大する核反応の暴走となる(ヘリウム・フラッシュ)。星は中心でヘリウム燃焼が起こるとともに、球殻中でも水素燃焼が進行し、赤色巨星から「水平枝」と呼ばれる半径のより小さい星へ移行する。
・コアのヘリウムが燃え尽きると、炭素と酸素の中心核を囲む球殻中でのヘリウム燃焼と、ヘリウムの核を囲む球殻中での水素燃焼という2つの核融合反応が球殻中で起こり、星は再び赤色巨星へと進化する。
・太陽と同じ程度の小質量星の場合、炭素と酸素のコアは電子の退縮圧で支えられ、コアの温度が上がらずに炭素燃焼反応は起こらない。
・再び赤色巨星となると、星の半径がどんどん増大し、水素からなる星の最外層の重力ポテンシャルエネルギーはそれにともなって次第に小さくなる。やがて最外層の水素とヘリウムは星から剥がれてしまう。
・水素とヘリウムを失った星は、高温の炭素と酸素からなる星のコアがむき出しとなり、白色矮星へと移行する。星から剥がれた物質は、星を取り巻く球殻状に分布するガスの雲(星雲)となり、惑星状星雲として観察されるようになる。

8)白色矮星

・白色矮星は、地球ほどの半径に太陽と同程度の質量を持った星であり、内部の平均密度は10^6〜10^7g/ccと超高密度である。白色矮星は、太陽質量程度の恒星が核燃料を使い尽くした後の一生の最後の姿である。
・白色矮星の内部の高密度状態では、電子は退縮状態にあり、電子の退縮圧により白色矮星は自らの重力を支えている。
・電子の退縮圧は、電子がフェルミ粒子で、パウリの排他律により1つの量子状態には1個の電子しか入れないという要請から生じる圧力であり、温度には関係しないため、白色矮星は表面からエネルギーを失っても収縮せず、半径は一定のまま静かに冷えていく。
・チャンドラセカール限界とは、電子の退縮圧で支えられる星の質量には上限があり、太陽質量の約1.4倍であるこの上限値をいう。
・中心核の質量がチャンドラセカール限界を超える星は白色矮星になれず、星の中心部分はさらに収縮を続ける。中心部分の密度が10^10g/ccを超えると、原子核は電子を捕獲して中性子の豊富な核になり、ついに中性子の退縮圧によって支えられた中性子星となる。
・中心核の質量が太陽質量の約3倍を超える星は、中性子の退縮圧でも自らの重力を支えることができず、限りなく収縮を続け、最後はブラックホールになると考えられている。

4. 近接連星系とX線星

1)近接連星系 close binary system

・近接連星系の場合、
① 2つの星がきわめて接近しているため、2つの星間に働く潮汐力が大きく、その結果、一般に公転軌道は円軌道で、星の自転と公転が同期している。
② それぞれの星の質量は中心に集中しているので質点として取り扱ってよい。
・連星系の重力の等ポテンシャル面は、それぞれの星の近くでは、その星を中心とした球であるが、より半径の大きな等ポテンシャル面は、相手の星による潮汐力および回転座標による遠心力の影響で球形からずれていく。
・ロッシュローブとはそれぞれの星の重力圏であり、連星系では2つの星を同時に包むような8の字型のポテンシャル面となる。2つの星のロッシュローブが接する点はラグランジュ点と呼ばれ、どちらの星の重力圏にも属さない中立点である。
・星の表面がロッシュローブより小さい等ポテンシャル面に対応している場合、星の内部の物質は自分自身の重力圏に収まる。星の表面がロッシュローブを超えて膨張すると、ラグランジュ点を通じて、相手の星に物質が流出する。
・両星の半径がともにロッシュローブより小さく、それぞれの星が自分自身の重力圏におさまっているものを分離型、一方の星がロッシュローブを満たしているが、相手の星はロッシュローブより小さいものを半分離型、両星ともロッシュローブを満たしているものを接触型という。

2)激変星

・新星や矮新星など、もともと暗い星が突然明るく輝きだすものを激変星という。
・新星は星の爆発現象の一種で、爆発の際に10等級以上の増光があり、星の表面から物質が放出されている。しかし、爆発の前後で星の本体は基本的に変わっていないところが超新星との違いである。
・矮新星は、数週間から数ヶ月に1回の割合で小規模な爆発を繰り返す星で、1回の話億初の増光は約3〜5等級である。
・激変星は、太陽に似た赤色星白色矮星のペアからなり、典型的軌道公転周期は数時間、半分離型の近接連星系である。ロッシュローブを満たしている赤色星からラグランジュ点を通して白色矮星に物質が流出している。
・新星の爆発は、白色矮星に一定体積の水素が降り積もり核爆発が起こったものである。

3)降着円盤

・矮新星爆発は、白色矮星の周りにできた降着円盤が突然光度を増す現象である。
・ロッシュローブを満たした赤色星から白色矮星に流出する物質は、白色矮星に対して角運動量を持っているため、いったん白色矮星周囲の回転円盤に供給される。
・円盤内の物質は、ガスの粘性の影響で少しずつ角運動量を失い、中心星へ渦巻きながらゆっくり落下し、その際に重力エネルギーが開放される。回転円盤はこのエネルギーにより明るく輝く(降着円盤 accretion disk)。
・降着円盤には不安定性があり、白色矮星への降着が間欠的に起こるため、矮新星爆発が起こると考えられている。

4)X線星

・X線強度の強いX線星は、基本的に中性子星を成分星とする近接連星系である。
・大質量X線連星は、O・B型の早期型大質量星と中性子星による連星系である。中性子星は強い磁場を持っており、大質量性から流入したガスは磁極に流れ込み、X線パルサーとなる。
・低質量X線連星は、太陽質量程度ないしそれ以下の主系列星と中性子星の連星系である。相手の星から流入したガスは降着円盤を経由して中性子星に降着するが、中性子星は磁場を持たないか、あるいは磁場が非常に弱いため、X線パルサーにはならない。
・低質量X線連星で起こるX線バーストは、中性子星の表面に降着した物質がある程度溜まり、ヘリウムの核爆発を起こしたものと考えられている。

5)ブラックホールとX線星

・連星系をつくっているX線源でその質量が太陽質量の3倍を超える場合、ブラックホールの可能性が高い。
・アインシュタインによる一般相対論の球対称の重力場の解はシュワルツシルド解と呼ばれ、内部解と外部解に分かれるが、その境界がシュワルツシルド半径であり、ブラックホールの事象の地平線 event horizonに相当する。太陽質量のブラックホールの重力半径は3㎞である。
・ブラックホール候補X線星からのX線放射メカニズムは、近接連星系の相手の星からブラックホール重力圏に供給されたガスがブラックホールの周りに降着円盤をつくり、その降着円盤からの放射がX線源となると考えられる。降着円盤の内縁はシュワルツシルド半径の3倍に位置し、内縁の少し外側では降着円盤の温度が10^7〜10^8Kの高温になりX線を放射する。


【参考】
・尾崎洋二「宇宙科学入門」 東京大学出版会 1996