天文学概論 Ⅰ

天文学概論 Ⅰ:太陽と太陽系


1. 太陽

1)太陽の概観

・太陽は我々から最も近い恒星で、内部が高温・高圧の巨大なガス球であり、毎秒3.8x10^33エルグ(3.8x10^26ワット)のエネルギーを宇宙空間に放出している。
・太陽の半径は約70万㎞(地球の約110倍)、質量は約2x10^30kg(地球の約33万倍)、平均密度は水の密度の1.4倍(地球は5.5倍)。
・表面温度約5800K、スペクトル型がG型の矮星で、中心での水素燃焼による核融合反応をエネルギー源とする主系列星である。
・太陽の中心温度は約1500万度、中心密度は水の約150倍だが、高温であるため、中心の物質は理想気体の性質を示す。
・中心近傍で発生したエネルギーは放射により表面に向けて運ばれるが、表面から半径で3割より外側では対流によって運ばれ、この外層を表面対流層という。
・太陽の自転軸は黄道面に対して7°10″傾き、赤道部分で約25日、極近くで約30日の自転周期を持つ。このように、自転角速度が緯度や深さで異なることを差動回転といい、赤道に近いほど自転角速度が速いことを赤道加速という。
・太陽の可視域スペクトルには種々の元素に対応する暗線がみられ、これをフラウンホーファー線という。

2)太陽の表面および外層

・光球 photosphereは太陽の表面を成し、光球部分の大気の厚みは約300㎞。太陽エネルギーは光球面から約5800Kの黒体放射で報酬される。
・粒状斑は太陽表面にみられる小粒状の構造で、太陽大気の対流運動を反映する。
・彩層は光球の外側にある、厚さ約2000㎞の薄い大気で、温度は約7000度から1万度である。
・コロナは、彩層の外側に拡がるさらに希薄な大気で、輝度は太陽光球の100万分の1しかなく、皆既日食時のみ肉眼的に観察される。温度は約200万度の、密度が極端に低い電離気体(プラズマ)からなり、ループ状の磁場構造を持ち、太陽半径の数倍にまで拡がる。
 コロナには固有のスペクトル線があり、これは鉄などの元素が高階に電離したときに出すものである。
 コロナの加熱機構として、音波による加熱説が考えられており、太陽の表面対流で発生した音波が密度の薄い上層大気に伝播して衝撃波に成長し、波の運動エネルギーが散逸して熱エネルギーに転換されるとする。
・紅炎(プロミネンス)は、彩層からコロナに伸びるドーム状の構造で、水素のバルマーα線(波長6563Å)の放射が大きため、肉眼的に紅く見える。プロミネンスが太陽表面に投射されると、暗く細長い筋状に見え、これを暗条(フィラメント)と呼ぶ。
 プロミネンスは周囲のコロナの中で、密度がより高く、低温のガスが磁力菅によって支えられていると考えられている。
・太陽風は、太陽重力によって繋ぎ止められなくなったプラズマがコロナから星間空間に放出されるもので、地球近傍では粒子密度n〜1-10個/cc、速度v〜300-800km/s、温度T>10^5Kである。

3)太陽の活動現象

・黒点 spotは、光球表面にみられる暗点で、周りと比べて温度が低く、2000〜3000ガウスの強力な磁場を持つ。黒点は対になって現れ、一方がN極で他方がS極となり、太陽内部で東西に走る磁力管が表面に浮き出た切り口と考えられている。
 黒点の中心には暗部があり、磁場が垂直に貫いているところ、暗部の周辺には半暗部があり、磁場が水平に開いているところに対応している。
 黒点が群をなす部分を活動領域と呼び、しばしばフレアを起こす。
・太陽周期とは、黒点の数が増減する周期で、約11年である。黒点が多く現れる時期は太陽活動が激しく、太陽活動の極大期と呼ばれる。
 対をなす黒点は、緯度が低く自転方向の先にある黒点を先行黒点、後ろにある黒点を後続黒点という。先行黒点の磁場の極性は、11年周期で一つの半球で一定しており、北半球と南半球では逆になる。また、次の11年周期には極性が逆になる。
・太陽周期は、太陽の表面対流層における磁場と差動回転と対流の3つの相互作用によって生み出されると考えられている(ダイナモ機構)。
・フレアは太陽活動の極大期に出現する大気中の爆発現象で、活動領域に起こり、粒子の加速や全ての波長域の電磁波の大きなエネルギー解放が生じる。典型的なものは数秒で立ち上がり、数十分から数時間持続し、その際コロナは数百万度から数千万度まで加熱される。
・コロナホールとは、X線観測で観測されたコロナにみられる暗い領域で、明るいコロナ領域では磁力線が閉じていて高温プラズマが閉じ込められているのに対し、そこでは磁力線が惑星間空間に開き、コロナのプラズマが流失している(太陽風)部分である。

4)太陽のエネルギー源

・太陽のエネルギー源は水素の核融合反応(水素燃焼反応)による核融合エネルギーである。水素燃焼反応では、水素原子4個がヘリウム原子1個に融合する際、質量の総和が0.7%減少し、その減少した質量がアインシュタインの質量とエネルギーの等価原理(E=mc^2)により膨大なエネルギーに変換される。
・熱核融合反応 thermo-nuclear reactionとは、水素のような軽い元素を融合してより重い元素を作る核反応である。水素の核融合反応のうち、CNO反応は炭素C、窒素N、水素Oを触媒として水素4個をヘリウム1個に合成する核反応であり、陽子-陽子反応(p-p反応)は水素の原子核である陽子と陽子を反応させて重水素を作る反応からスタートし、最終的に水素4個からヘリウム1個を生成する反応である。太陽より質量の大きな主系列星の内部では前者の反応が、太陽やそれ以下の質量の恒星内部では後者の反応が起こっている。

5)太陽ニュートリノ

・標準太陽モデルとは、恒星内部で核融合反応が起こる結果、恒星の化学組成の変化に伴い内部構造も変化することを理論的に追跡すること(恒星進化の計算)によって得られた理論的太陽内部構造モデルである。
・標準太陽モデルでは、現在の太陽は中心温度1500万度、中心密度が水の150倍、核融合反応により中心の水素の約半分が消費されていると考えられる。
・太陽の中心で起こっているp-p反応には3つの分岐があり、その割合はp-pⅠが86%、p-pⅡが14%、p-pⅢが0.015%であり、最終的には4個の陽子(水素原子核)から1個のヘリウム原子核と2個の陽電子と2個の電子型ニュートリノが生成される。
 4p → 4He + 2e- + 2νe
 この水素核融合反応の際に発生したエネルギーはガンマ線とニュートリノの形で放出される。ガンマ線は太陽内部の物質により吸収・再放射を繰り返しながら内部から外部に運ばれ、最終的に太陽表面から可視光の形で宇宙空間に放射される。電子型ニュートリノの流量(フラックス)は、地球上で1m^2当たり毎秒600兆個であるが、物質とほとんど相互作用しないためにほとんど影響を与えない(ただし、観測も困難)。

6)日震学

・日震学 helioseismologyとは、太陽の固有振動を使ってその内部構造を探る研究である。太陽のようなガス球の固有振動は球面調和関数によって記述され、固有振動モードは3つの整数の値を持つ量子数(n, l, m)で指定される。量子数(l, m)は、表面にどれだけモザイク模様ができているかのパターンを表し、量子数nは深さの方向の振動の節の数を表す。
・太陽表面は周期約5分で振動しており、これはpモードと呼ばれる太陽全体の固有振動であり、音波の固有振動に該当している。
・太陽の固有振動の基準振動の周期は約1時間であるが、現在まだ観測されていない。
・日震学により、太陽の表面対流層の深さや太陽内部の音速分布、太陽内部の自転速度分布などが明らかにされた。

2. 太陽系

 太陽系においては、太陽自身の質量が全体の99.9%を占めており、残りの0.1%の大部分を木星が占めている。太陽系内の天体は、基本的に黄道面と呼ばれる同一平面内を同じ方向に回転している(軌道面の傾きは、水星の7°が最大で、他の惑星の軌道傾斜角は3.4°以内に収まる)。

1)太陽系天体の大きさと軌道

・地球は回転楕円体で、半径は約6400㎞である。
・太陽系内惑星は、サイズが小さく密度の高い地球型惑星と、サイズが大きく密度が低い木星型惑星の2つに分類される。地球型惑星は平均密度が3〜5、岩石質の表面を持ち、小惑星帯よりも内側に位置する。木星型惑星は平均密度が0.7〜1.7で、水素とヘリウムからなる厚い大気を持ち、小惑星帯よりも外側に位置する。
・太陽と地球間の平均距離は1億5000万㎞で、この長さを1天文単位(1AU)とする。光は1AUを8分19秒で移動する。
・太陽から惑星までの平均距離(楕円軌道の長半径a)は次の式で表される。
 ボーデの法則 a = 0.4 + 0.3 * 2^n
n = 3の部分には惑星は存在しないが、小惑星帯に対応している。
・太陽系内天体の自転は、基本的には太陽を含めて太陽系の天体の公転と同じ方向に回転しているが、2つの例外があり、金星の自転は逆回転であり、天王星の自転軸は軌道面に対し横倒しとなっている。
・惑星の運動は、ケプラーの3法則で表される。
① 惑星は、太陽を一つの焦点とする楕円軌道上を運動する。
② 太陽と惑星を結ぶ線分が一定時間に動く面積は一定である。
③ 惑星の公転周期の2乗は楕円軌道の長半径の3乗に比例する。

2)太陽系外側の天体

・オールトの雲とは、太陽から10^4〜10^5AUの距離にある、太陽を球状に包むような彗星の巣であり、そこの小天体は放物線軌道に近い長周期の彗星となる。
・カイパーベルトは太陽系惑星の外側数10AUのところに、黄道面近くに円環状に存在する彗星の巣であり、底の小天体は楕円軌道に近い短周期の彗星となる。

3)太陽系の形成

・最初に収縮する星間雲のコアに原始星が誕生し、それを取り巻くように回転ガス円盤ができる(原始太陽円盤または原始惑星系円盤)。
・星間ガスは水素とヘリウムを主成分とするが、それより重い元素を2〜3%含んでおり、これらの元素の大部分は固体微粒子である塵となり、円盤の赤道面に次第に沈殿する。
・塵の層では自己重力が働き、円盤面内で層状に分布するが、重力的に不安定なために層が分裂していくつかの塊に成長する。この塊は直径10㎞ほどの固体で、微惑星と呼ばれる。
・微惑星どうしが互いに衝突を繰り返し、次第に合体して大きな塊となる。いったん大きな塊ができると、重力的に周りの微惑星を集めていっそう大きくなり、原始惑星へ成長する。原始惑星がさらに成長して、岩石質の地球型惑星となる。
・木星型惑星は、原始惑星がある程度成長する過程でその重力により円盤中にある水素とヘリウムのガス成分を取り込んで濃い大気をまとうようになる。大気層の質量が大きくなると、大気層は原始惑星に陥没し、さらにその外側に大気層を吸着して大型化していく。


【参考】
・尾崎洋二「宇宙科学入門」 東京大学出版会 1996