急性散在性脳脊髄炎 acute disseminated encephalomyelitis : ADEM
【概念】
中枢神経白質を散在性に侵す急性脱髄性疾患で、原則的に単相性の経過をとる。一般に発熱や意識障害などの脳症が高度である。
【分類】
・特発性
・感染後性・傍感染性(風疹、麻疹、水痘・帯状疱疹など)
・ワクチン接種後性(種痘、狂犬病ワクチンなど)
・部位別:脳炎型、脊髄炎型、脳脊髄炎型
【疫学】
・好発年齢:3〜9歳の小児
・性差:男女比2:1
・有病率:10万人対0.3人/年
【病態・病理】
感染後性・傍感染性では病原微生物と髄鞘抗原との交差反応・分子相同性 molecular mimicryによる。
ワクチン接種後性では接種ワクチンに含有される微量の脳抗原により髄鞘抗原に対する自己免疫が誘導される。
病理学的には、脳脊髄など中枢神経白質に散在性に小静脈周囲性のリンパ球浸潤と脱随巣がみられる。
【臨床症状】
・初発症状:急性の発熱(38℃以上)、頭痛、嘔吐
・大脳症状:意識障害、片麻痺、痙攣、半盲、失語
・脊髄症状:対麻痺、四肢麻痺、感覚障害、膀胱直腸障害
・脊髄炎型では横断性脊髄炎を呈することが多い。
・髄膜刺激症状、下肢の腱反射低下がみられることもある。
・まれに小児では再発性経過をとる。成人では再発性はきわめてまれ。
【検査所見】
・MRI:脳・脊髄にT2強調で高信号、T1強調で低信号を呈する散在性の病巣。大脳深部白質、皮質下白質が侵されやすく、大脳基底核、視床、脳幹、小脳にもみられる。典型的には左右対称性で、ガドリニウムでも一様に病巣が造影される。
・髄液検査:著明な蛋白・細胞増加、髄液ミエリン塩基性蛋白上昇
ただし、オリゴクローナルバンドの陽性率は低い(約4%)。
【治療・予後】
・ステロイドパルス療法に続くステロイド内服が有効。
・ステロイド療法に反応しない場合は血液浄化療法。
・ワクチン接種後性、感染後性・傍感染性では重篤な後遺症を残すことも多い。