古典文法Ⅴ:助動詞
1. 助動詞
助動詞は、付属語で活用があり、おもに用言・他の助動詞・体言などに付いて、上にあるそれらの語に一定の意味を添える働きをする。
2. 助動詞の意味と分類
1)意味による分類
・自発・可能・受身・尊敬:る、らる
・使役・尊敬:す、さす、しむ
・過去(回想):き、けり
・完了:つ、ぬ、たり、り
・推量・意志など:む、むず、まし、べし、べらなり
・現在推量:らむ
・過去推量:けむ
・推定:らし、めり
・推定・伝聞:なり
・打消:ず
・打消推量:じ、まじ
・断定:なり、たり
・希望:まほし、たし
・比況:ごとし、ごとくなり、やうなり
2)接続の仕方による分類
① 活用語に付くもの
・未然形に付く:る、らす、す、さす、しむ、ず、む、むず、まし、じ、まほし、り(サ変のみ)
・連用形に付く:き、けり、つ、ぬ、たり(完了)、けむ、たし
・終止形に付く:べし、らむ、らし、めり、まじ、なり(推定・伝聞)
・連体形に付く:なり(断定)、ごとし
・已然形に付く:り(四段のみ)
② 活用語以外に付くもの
なり(断定)、たり(断定)、ごとし
3. 自発・可能・受身・尊敬の助動詞(る、らる)
【る、らる】
1)活用:下二段型
基本形 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
る | れ | れ | る | るる | るれ | れよ |
らる | られ | られ | らる | らるる | らるれ | られよ |
2)意味
① 自発(〜サれる、〜サセられる、自ずと〜シないではいられない)
② 可能(〜できる)
③ 受身(〜サれる、〜サセられる、Xによって〜される)
④ 尊敬(お〜になる、〜なさる)
3)接続
・る:四段、ナ変、ラ変動詞の未然形
・らる:上以外の動詞の未然形
4. 使役・尊敬の助動詞(す、さす、しむ)
【す、さす、しむ】
1)活用:下二段型
基本形 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
す | せ | せ | す | する | すれ | せよ |
さす | させ | させ | さす | さする | さすれ | させよ |
しむ | しめ | しめ | しむ | しむる | しむれ | しめよ |
2)意味
① 使役(〜せる、〜させる)
② 尊敬(お〜になる、〜なさる)
3)接続
・す:四段、ナ変、ラ変動詞の未然形
・さす:上以外の動詞の未然形
・しむ:用言の未然形
5. 過去(回想)の助動詞(き、けり)
【き】
1)活用:特殊型
基本形 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
き | (せ) | ◯ | き | し | しか | ◯ |
2)意味
① 過去(直接経験の回想:〜た、かつて〜たのだった)
3)接続
活用語の連用形(カ変・サ変は特別)
【けり】
1)活用:ラ変型
基本形 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
けり | (けら) | ◯ | けり | ける | けれ | ◯ |
2)意味
① 過去(間接経験の回想=伝聞回想:〜た、〜ということだ)
② 詠嘆(初めて気づいたという感動:〜たなあ、〜たことよ)
3)接続
活用語の連用形
6. 完了の助動詞(つ、ぬ、たり、り)
【つ、ぬ】
1)活用:つ-下二段型、ぬ-ナ変型
基本形 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
つ | て | て | つ | つる | つれ | てよ |
ぬ | な | に | ぬ | ぬる | ぬれ | ね |
2)意味
① 完了(〜た、〜てしまう、〜てしまった)
② 確述・強意(きっと〜、たしかに〜)
③ 並列・並立(〜たり〜たり)
3)接続
活用語の連用形
【たり、り】
1)活用:ラ変型
基本形 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
たり | たら | たり | たり | たる | たれ | (たれ) |
り | ら | り | り | る | れ | (れ) |
2)意味
① 完了(〜た、〜てしまう、〜てしまった)
② 存続(〜ている、〜てある)
3)接続
・たり:活用語の連用形
・り:四段動詞の已然形、サ変動詞の未然形
7. 推量・意志などの助動詞(む、むず、まし、べし、べらなり)
【む(ん)、むず(んず)】
1)活用:む-四段型、むず-サ変型
基本形 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
む(ん) | ◯ | ◯ | む(ん) | む(ん) | め | ◯ |
むず (んず) |
◯ | ◯ | むず (んず) |
むずる (んずる) |
むずれ (んずれ) |
◯ |
2)意味
① 推量(〜う、〜だろう)
② 意志(〜う、〜よう、〜スルつもりだ、〜シたい)
③ 適当(〜スルのがよい)
④ 仮定・婉曲(もし〜としたら、〜ても、〜ような)
3)接続
活用語の未然形
【まし】
1)活用:特殊型
基本形 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
まし | ましか (ませ) |
◯ | まし | まし | ましか | ◯ |
2)意味
① 反実仮想:現在の事実と反対の事柄を、仮に想像し推量する(もし〜だったら、〜だろうに)
<パターン>
・ましかば〜まし
・ませば〜まし
・せば〜まし
・活用語の未然形+ば〜まし
*結びの「まし」が省略されるときは、「よからまし」などを補って考える。
② ためらいの気持ち:疑問語を伴う(〜シようか)
③ 実現不可能なことへの希望(〜であればよいのに)
④ 単なる推量:中世以降(〜であろう、〜シよう)
3)接続
活用語の未然形
【べし】
1)活用:形容詞型(ク活用)
基本形 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
べし | べく べかり |
べく べかり |
べし | べき べかる |
べけれ | ◯ |
2)意味
① 推量(〜にちがいない、〜だろう)
② 意志(〜シよう、〜スルつもりだ)
③ 可能(〜できる)
④ 当然(〜はずだ)
⑤ 義務(〜シなければならない)
⑥ 適当・勧誘(〜スルのがよい)
⑦ 命令(〜せよ)
3)接続
活用語の終止形(ラ変の語は連体形)
【べらなり】
1)活用:ナリ活用型
基本形 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
べらなり | ◯ | べらに | べらなり | べらなる | べらなれ | ◯ |
2)意味
① ある様子を推量する(〜のようだ)
3)接続
活用語の終止形(ラ変の語は連体形)
8. 現在推量の助動詞(らむ)
【らむ(らん)】
1)活用:四段型
基本形 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
らむ (らん) |
◯ | ◯ | らむ (らん) |
らむ (らん) |
らめ | ◯ |
2)意味
① 現在の推量(いまごろは〜しているだろう)
② 現在の原因・理由の推量(〜だから〜シているのだろうか)
・原因・理由が明示されている場合
・原因・理由が明示されず、疑問語を伴って原因を疑う場合
・原因・理由も明示されず、疑問語もない場合
③ 現在の伝聞・婉曲(〜とかいう、〜というような)
3)接続
活用語の終止形(ラ変の語は連体形)
9. 過去推量の助動詞(けむ)
【けむ(けん)】
1)活用:四段型
基本形 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
けむ (けん) |
◯ | ◯ | けむ (けん) |
けむ (けん) |
けめ | ◯ |
2)意味
① 過去の推量(〜シただろう、〜シたのであろう)
② 過去の原因の推量(どうして〜シたのであろうカ)
③ 過去の伝聞・婉曲(〜シたとかいう、〜シたような)
3)接続
活用語の連用形
10. 推定の助動詞(らし、めり)
【らし】
1)活用:特殊型
基本形 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
らし | ◯ | ◯ | らし | らし (らしき) |
らし | ◯ |
2)意味
① 確かな根拠に基づく推定(〜らしい)
3)接続
活用語の終止形(ラ変の語は連体形)
【めり】
1)活用:ラ変型
基本形 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
めり | ◯ | (めり) | めり | める | めれ | ◯ |
2)意味
① 視覚による推定(〜ようだ、〜と思われる、〜のように見える)
② 婉曲(〜ようだ、〜と思われる)
3)接続
活用語の終止形(ラ変の語は連体形)
11. 推定・伝聞の助動詞(なり)
【なり】
1)活用:ラ変型
基本形 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
なり | ◯ | (なり) | なり | なる | なれ | ◯ |
2)意味
① 聴覚による推定(〜ようだ、〜らしい、〜ように聞こえる)
② 伝聞(〜という、〜だそうだ、〜と聞いている)
3)接続
活用語の終止形(ラ変の語は連体形)
12. 打ち消しの助動詞(ず)
【ず】
1)活用:特殊型
基本形 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
ず | ず ざら |
ず ざり |
ず | ぬ ざる |
ね ざれ |
ざれ |
2)意味
① 打消(〜シない、〜ぬ)
3)接続
活用語の未然形
13. 打ち消し推量の助動詞(じ、まじ)
【じ】
1)活用:特殊型
基本形 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
じ | ◯ | ◯ | じ | (じ) | (じ) | ◯ |
2)意味
① 打消推量(〜シないだろう、〜スルまい)
② 打消意志(〜シないつもりだ、〜スルまい)
3)接続
活用語の未然形
【まじ】
1)活用:形容詞型(シク活用)
基本形 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
まじ | まじく まじから |
まじく まじかり |
まじ | まじき まじかる |
まじけれ | ◯ |
2)意味
① 打消推量(〜シないだろう、〜シそうもない、〜スルまい)
② 打消意志(〜シないつもりだ、〜スルまい)
③ 不可能(〜できそうにない、〜できない)
④ 不適当・打消当然・禁止(〜はずがない、〜スべきでない、〜シてはいけない)
3)接続
活用語の終止形(ラ変の語は連体形)
14. 断定の助動詞(なり、たり)
【なり】
1)活用:形容動詞型(ナリ活用)
基本形 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
なり | なら | なり に |
なり | なる | なれ | (なれ) |
2)意味
① 断定(〜だ、〜である)
② 場所を示す(〜にある、〜にいる)
3)接続
体言、活用語の連体形、いくつかの副詞・助詞
【たり】
1)活用:形容動詞型(タリ活用)
基本形 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
たり | たら | たり と |
たり | たる | たれ | たれ |
2)意味
① 断定(〜だ、〜である)
3)接続
体言
15. 希望の助動詞(まほし、たし)
【まほし】
1)活用:形容詞型(シク活用)
基本形 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
まほし | まほしく まほしから |
まほしく まほしかり |
まほし | まほしき まほしかる |
まほしけれ | ◯ |
2)意味
① 希望・願望(〜シたい、〜シてほしい)
3)接続
動詞・助動詞の未然形
【たし】
1)活用:形容詞型(ク活用)
基本形 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
たし | たく たから |
たく たかり |
たし | たき たかる |
たけれ | ◯ |
2)意味
① 希望・願望(〜シたい、〜シてほしい)
3)接続
動詞・女動詞の連用形
16. 比況の助動詞(ごとし、ごとくなり、やうなり)
【ごとし、ごとくなり、やうなり】
1)活用:ごとし-形容詞型、ごとくなり-形容動詞型、ようなり-形容動詞型
基本形 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
ごとし | ごとく | ごとく | ごとし | ごとき | ◯ | ◯ |
ごとくなり | ごとくなら | ごとくなり ごとくに |
ごとくなり | ごとくなる | ごとくなれ | ごとくなれ |
やうなり | やうなら | やうなり やうに |
やうなり | やうなる | やうなれ | やうなれ |
2)意味
① 比況(〜のようだ、〜のとおりだ、〜と同じだ)
② 例示(〜のような、〜など)
3)接続
体言、活用語の連体形、助詞「の」「が」
17. 奈良時代特有の助動詞(ゆ、らゆ、す、ふ)
【ゆ、らゆ】
1)活用:下二段型
基本形 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
ゆ | え | え | ゆ | ゆる | ◯ | ◯ |
らゆ | らえ | ◯ | らゆ | ◯ | ◯ | ◯ |
2)意味
① 自発(〜れる、〜られる、自ずと〜シないではいられない)
② 可能(〜できる)
③ 受身(〜サれる、〜サセられる)
3)接続
・ゆ:四段、ナ変、ラ変動詞の未然形
・らゆ:動詞「寝(ぬ)」の未然形(可能用法のみ)
【す】
1)活用:四段型
基本形 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
す | さ | し | す | す | せ | せ |
2)意味
① 尊敬(お〜になる、〜なさる)
3)接続
四段動詞の未然形
【ふ】
1)活用:四段型
基本形 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
ふ | は | ひ | ふ | ふ | へ | ◯ |
2)意味
① 反復・継続(〜しつづける)
3)接続
四段動詞の未然形
18. 助動詞の音便
1)イ音便
「べし」「まじ」の連体形が「べい」「まじい」になる。
2)ウ音便
「べし」「まじ」「まほし」「たし」の連用形が「べう」「まじう」「まほしう」「たう」になる。
3)撥音便
「ず」「たり(完了)」「なり(断定)」「べし」「まじ」の連体形に「めり」や「なり(断定・伝聞)」が付くとき、「ざん」「たん」「なん」「べかん」「まじかん」となる。
【参考】
・中村幸弘、杉本完治共著「簡約古典文法」日験 1997