古典文法 Ⅱ:用言1:動詞
動詞とは、物事の動作・作用・存在などを表す単語である。用言のひとつで、述語になることができ、言い切るときはウ段の音で終わる。ラ変動詞のみ「り」で言い切る。
1. 活用形
動詞には6つの活用形がある。
・未然形:「未だ然らざる形」の意。「ず」「む」をつける。
・連用形:用言に連なる形の意。「て」「たり」をつける。
・終止形:言い切る形の意。
・連体形:体言に連なる形の意。「こと」「とき」をつける。
・已然形:「已に然る形」の意。「ど」「ども」をつける。
・命令形:命令することを表す形の意。
いずれの活用形でも変わらない部分を語幹といい、変化する部分を語尾という。
2. 活用の種類(9種類)
1)四段活用
ア・イ・ウ・エの4つの段にまたがって活用する動詞。
「書く」「思ふ」「住む」など多数。
基本形 | 語幹 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
思ふ | 思 | は | ひ | ふ | ふ | へ | へ |
ア | イ | ウ | ウ | エ | エ |
2)ナ行変格活用(ナ変)
ア・イ・ウ・エの4つの段にまたがって活用するが、連体形と已然形が四段活用と異なる。
「死ぬ」「往ぬ」の2語のみ。
基本形 | 語幹 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
死ぬ | 死 | な | に | ぬ | ぬる | ぬれ | ね |
ア | イ | ウ | ウる | ウれ | エ |
3)ラ行変格活用(ラ変)
ア・イ・ウ・エの4つの段にまたがって活用するが、終止形が四段活用と異なる。
「あり」「居り」「はべり」「いますかり」の4語のみ。
基本形 | 語幹 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
あり | あ | ら | り | り | る | れ | れ |
ア | イ | イ | ウ | エ | エ |
4)下一段活用
カ行のエ段音「け」と、それに「る」「れ」「よ」の付いたもの。
「蹴る」の1語のみ。
基本形 | 語幹 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
蹴る | 蹴 | け | け | ける | ける | けれ | けよ |
エ | エ | エる | エる | エれ | エよ |
5)下二段活用
ウ・エの2段にわたって活用し、それに「る」「れ」「よ」の付いたもの。
「留む」「失す」「出づ」など多数。
基本形 | 語幹 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
留む | 留 | め | め | む | むる | むれ | めよ |
エ | エ | ウ | ウる | ウれ | エよ |
6)上一段活用
イ段音に「る」「れ」「よ」の付いたもの。
「見る」「着る」「射る」など、十数語。1)
基本形 | 語幹 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
見る | 見 | み | み | みる | みる | みれ | みよ |
イ | イ | イる | イる | イれ | イよ |
7)上二段活用
イ・ウの2段にわたって活用し、それに「る」「れ」「よ」の付いたもの。
「過ぐ」「落つ」「恋ふ」など多数。
基本形 | 語幹 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
過ぐ | 過 | ぎ | ぎ | ぐ | ぐる | ぐれ | ぎよ |
イ | イ | ウ | ウる | ウれ | イよ |
8)カ行変格活用(カ変)
カ行のイ・ウ・オの3段にわたって活用し、それに「る」「れ」「よ」の付いたもの。
「來」の1語のみ。
基本形 | 語幹 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
来 | 来 | こ | き | く | くる | くれ | こ(こよ) |
オ | イ | ウ | ウる | ウれ | オ(オよ) |
9)サ行変格活用(サ変)
サ行のイ・ウ・エの3段にわたって活用し、それに「る」「れ」「よ」の付いたもの。
「す」とその複合語、「おはす」のみ。
基本形 | 語幹 | 未然 | 連用 | 終止 | 連体 | 已然 | 命令 |
為 | 為 | せ | し | す | する | すれ | せよ |
エ | イ | ウ | ウる | ウれ | エよ |
3. 動詞の音便
音便とは、単語のうちのある音が、発音の便宜のために、元の音とは別の音に変化することをいう。その特徴は、
① 四段・ナ変・ラ変に限って現れる。
② 連用形が「たり」「て」「たまふ」などに続くときに現れる。
③ 連体形が「めり」「なり」などに続くときに現れる。
1)イ音便
カ行・ガ行・サ行の四段活用連用形(き・ぎ・し)が「たり」「て」に続くとき、イ音になる。
2)ウ音便
ハ行・バ行・マ行の四段活用連用形(ひ・び・み)が「たり」「て」に続くとき、ウ音になる。
3)撥音便
バ行・マ行の四段活用連用形(び・み)およびナ変連用形(に)が「たり」「て」に続くとき、ン音になる。
ラ変連体形(る)が「なり」「めり」に続くとき、ン音になる。
4)促音便
タ行・ハ行・ラ行四段活用連用形(ち・ひ・り)およびラ変連用形(り)が「たり」「て」に続くとき、ッ音になる。
4. 自動詞と他動詞
自動詞とは、その語自身の動作や作用を表す動詞である。
他動詞とは、その語の表す動作や作用が他に働きかけている動詞である。
5. 補助動詞
補助動詞とは、その動詞のもつ本来の意味を失い、他の語について補助的に用いられ、その語にある意味を添える働きをする動詞である。
「たまふ」「たてまつる」「ある」「す」「はべる」などがある。
【註記】
1)「見る」は上一段活用、「見ゆ」は下二段活用。
【参考】
・中村幸弘、杉本完治共著「簡約古典文法」日験 1997