議会政治と政治制度

議会政治と政治制度


【等族会議から近代議会へ】
 13世紀から17世紀の西欧諸国には等族会議(身分制議会)があった。これは、各身分の代表者が、国王に対して身分的利害を代表して構成したものであり、議員は身分や地域社会を代表する「代理人(独自の判断で行動できる範囲が 著しく限られ、選出母体の支持に細かく拘束されている状態)」にすぎなかった。
 等族会議は、本質的には国王の諮問機関にとどまり、国家意思を形成する機関ではなかった。
 市民革命を経て、君主主権から国民主権に変わると、等族会議は近代議会へと生まれ変わった。

【代議制民主主義】
 現代のデモクラシーは、国民から選ばれた代表が議会で政治を行う代議制民主主義(間接民主制)である。
 議会政治(議会主義)とは、議会が国家の最高意思決定機関として政治の中心を担うもので、次の三原則がある。
1)国民代表の原則:議員は選出母体の代理人ではなく、国民全体の代表者(国民代表)である。
「議員は個々の選挙区から派遣された利益代弁者ではなく、全国民のためにある議会の議員である」(バーク)
2)審議の原則:議会の審議は公開の場でなされ、慎重な審議の後に決定が下されなければならない。
3)行政監督の原則:行政府にたいする立法府の優位が確立され、議会は行政を効果的に監督しなければならない。
 議会は多数決を原則とする。多数決原理とは、数的多数によって議論に決着をつける政治的技術である。

【議会政治の「危機」】
 大衆民主主義:普通選挙が実現され、議員や選挙民が多様化したため、国民代表の観念が現実にそぐわなくなった。
 利害の組織化:利害対立が明らかになり、討論の意味が低下してきた。
 行政国家化:官僚の機能が増大し、相対的に議会の地位が低下してきた。
 議会政治への不信:政治的無関心の広まりや、議会外での政治的運動の高まりがみられてきた。

【一院制と両院制】
 一院制とは、一議院で議会を構成するもの。
 両院制(二院制)は二つの議院で議会を構成するもので、国民代表の機関として一般的性格の強い下院(第一院)の他に、やや特殊性を持つ上院(第二院)を併せ持つ制度である。一般に下院の権限が上院より優越する。

<両院制のタイプ>
1)貴族院型(イギリス):上院が、選挙によって選ばれる下院の民主主義的性格を抑制する。
2)参議院型(日本):一院だけで議決する場合に生じかねない過誤を回避するために、慎重を期してもう一度、別の議院で審議する。「第二の考慮」の機会をおく。
3)連邦制型(アメリカ):連邦の運営に州の意向を反映させるため。

【本会議と委員会】
 議決を行う本会議と、予備的審査をする委員会の関係で、法案の議決方法が二分される。
1)本会議中心主義:本会議を中心に議会運営を行う。読会制をとり、法案は本会議での趣旨説明・質疑応答(第一読会)、審議(第二読会)、採決(第三読会)という経過をとる。イギリスなど。
2)委員会中心主義:委員会を中心に議会を運営する。アメリカ、日本など。

【権力分立】
 権力分立とは、政治の権限をいくつかの機関に分割・分散させ、それぞれを抑制と均衡(チェック・アンド・バランス)の関係において、専制を防ぐことである。
 立法・司法・行政の三権分立を明確な形で主張したのはモンテスキューである(「法の精神」1748)。
 三権分立のような権力分立を水平的権力分立と呼び、徹底した地方分権を垂直的権力分立と呼ぶ。
 共産主義諸国では、民主集中制(民主主義的中央集権)をとり、権力分立を否定している。

【大統領制と議院内閣制】
1)大統領制:行政府を担う大統領が立法府から明確に独立している。議会は大統領を不信任できず、大統領も議会を解散できない。
2)議院内閣制:首相が議会によって選ばれ、議会の多数派の支持がなくなると不信任される。閣僚(大臣)は、原則として議会に議席を持つ人から選ばれる。議会は不信任決議権で内閣をチェックし、内閣は解散権で議会をチェックする。したがって、立法府と行政府とに緊密な連携関係が残されている。

【アメリカの政治制度】
 アメリカは、連邦制の下、厳格な三権分立制をとっているのが特徴。
 連邦政府は、外交、国防などに必要な事項と、憲法に明記された権限だけを行使する。州政府の権限は大きく、地方分権は徹底している。
 大統領は元首であり、かつ行政府の最高責任者である。任期は四年で再選できるが、三選は禁止されている。
 大統領と議会の関係では、相互の独立性が明確である。
1)立法は議会の任務であり、大統領は議会に法案を提出できない。代わりに「教書」の形で、議会に必要な立法措置を要請する。大統領に議会を解散する権限はない。
2)大統領は議会によって不信任されない。各省長官は大統領によって任命され、大統領のみに責任を負う。長官は議員職を兼任できない。大統領や長官は議会で問責を受ける義務はない。

<法律の成立手続>
 大統領は、議会が通過させた法案に不満のときは、拒否権を行使できる。しかし、上下両院でそれぞれ三分の二以上の多数で再可決すれば法律として成立する。
 議会は上院と下院の両院制で、どちらも選挙で選ばれる。権限はほぼ同等だが、条約の批准権と高級官僚の任命同意権で上院が優越し、歳入に関する議案で下院が先議権を持つ。
 上院は、50の各州からそれぞれ2名の議員が出て、100名である。任期は6年で、2年ごとに三分の一が改選される。下院は、定員435名で、州の人口に応じて各州に定数が割り振られる。任期は2年で、一斉に改選される。選挙は大統領選と一緒か、ちょうどその中間年に行われる(中間選挙)。両院とも小選挙区制である。
 有権者登録制度(レジスター)がある州がある。
 各党候補者の選択のために指名制度があり、指名大会(コーカス)や予備選挙(プライマリー)が行われる。

【イギリスの政治制度】
 イギリスでは成文憲法がなく、歴史的文書や慣習などが基本法の役割を果たす(不文憲法)。
 首相は下院に議席を持たなければならない。
 元首である国王にはいろいろな大権があるが、それらは内閣の助言と承認に従って行使されなければならない(「君臨すれども統治せず」)。
 議会は両院制で、上院(貴族院)は終身の非民選議員からなり、実質的権限はほとんどない。実質的権限は下院(衆議院・庶民院)にある。下院議員は任期が5年で、解散がある。選挙制度は小選挙区制。
 内閣は下院第一党の党首が首相となって組閣される。全閣僚を下院・上院議員から選ばなければならない。内閣は政党内閣となり、議会に対して連帯責任を負い、不信任決議がなされると、総辞職か、下院の解散をしなければならない(責任内閣制)。

【日本の政治制度】
 日本は議院内閣制であり、両院(下院=衆議院、上院=参議院)を持つ。
 内閣総理大臣は、国会で国会議員の中から指名される。首相の指名には両院における議決が必要である。異なった議決がなされた場合は、両院協議会が開かれるが、合意に達しない場合は衆議院の議決が優越する。
 国務大臣は首相が任命するが、過半数を国会議員から選べばよい(民間からの登用が可能)。
 内閣が下院(衆議院)で不信任決議がなされると、総辞職するか、下院を解散する。
 裁判所には違憲立法審査権を与えて、「憲法の番人」としてのチェック機能を果たさせる。
 議会は両院制であり、両院は原則として対等だが、多くの点で衆議院の優越が認められる。任期は衆議院が4年だが、解散がある。参議院は6年で、三年ごとに半数が改選される。

【その他の主要国の政治制度】
<フランス>
 大統領制だが、首相もおり、内閣もおかれている。
 首相と閣僚の任命権は大統領が持つが、下院に内閣不信任権があるため、議会の意向は無視できない。
 大統領は下院の解散権を持っている。アメリカほど徹底した権力分立は行われていない。

<ドイツ>
 元首として大統領が存在するが、権限は形式的なものである(君主制の名残)。
 行政府の長である首相は議会で選ばれ、制限付きながら議会解散権もあるため、議院内閣制といえる。


【参考】
・「はじめて学ぶ政治学」:加藤秀治郎著 実務教育出版 1994 東京