行政国家と官僚制

行政国家と官僚制


【積極政治の進行】
<政治社会の変容>
 現代社会においては、集団間の利害対立が激化し、近代社会における「市民」の同質性が崩壊した。
・福祉国家:チープ・ガバメントからビッグ・ガバメントへ
 治安と国防だけが任務の夜警国家から、福祉国家への転換。
 福祉国家(サービス国家)とは、政府が国民生活の多くの領域に積極的に関与し、国民の福祉の増進に努めるもの。
・消極政治から積極政治へ。

【官僚制の概念】
 立法国家から行政国家への転換。
 ウェーバーによる官僚制の概念(公的官僚制とともに私的官僚制も含む)
1)権限の原則:組織の活動は規則で秩序づけられた明確な職務・権限に基づく。
2)階層秩序:職務は上級から下級への上下のヒエラルキーとなっており、組織は命令・監督の体系となっている。
3)公私の分離:職務の場が生活から分離され、職務遂行に必要な諸手段と私的なそれとが分離される。
4)文書による処理:事務は原則として文書によって遂行される。
5)専門化の原則:職務活動は専門化され、分業と協業を原則とする。専門知識・能力に基づいて勤務者の選択と昇進が決まる。

【官僚制の逆機能(マートン)】
 内部では形式主義、外部に対しては繁文縟礼。
 セクショナリズム(割拠主義)を生みやすく、責任回避、秘密主義、権威主義が生じやすい。
 上下関係の階層秩序は、下層に無関心を生みやすい。

【行政国家化の諸問題】
<政府活動の肥大>
・行政国家化:多くの領域にわたる、複雑で専門的な問題を処理するため、行政府の権限が増大し、官僚の地位も相対的に向上すること。
・委任立法の増大:委任立法とは、法律の委任によって立法府(議会)以外の機関が法律を制定すること。
・行政裁量権の増大:そのため、行政権が立法権に対して優位になり、議会政治の危機が起こる。

【官僚制と民主主義】
<官僚制の二側面>
 官僚制に対する外部からの民主的統制が必ずしも容易でなくなる(行政監督機能の名目化)。
 選挙による民衆からの統制を受けることなく、強大な権力を行使している存在が官僚制(ラスキ)。
<寡頭制の鉄則(ミヘルス)>
 少数支配の傾向は、大組織ならどこにでも生じる。
 官僚制は資本主義の発展とともに進行したが、単なる社会主義はこの傾向を阻止できない(ウェーバー)。

【情実任用制と資格任用制】
・資格任用制(メリット・システム)または業績任用制(日本、西欧)
  官職には、その任務の遂行に必要な資格や能力を持つ人物を任用する。
  試験や資格による任用。公務員の政治的中立性を確保。
・情実任用制(スポイルズ・システム)または猟官制(アメリカ)
  官職はできるだけ選挙により、あるいは選挙に勝った政党や政治家が指名する。
  民意に即した公務員人事。特権的・閉鎖的官吏団の形成を防ぎうる。

【日本の官僚制】
 官僚政治:国家の重要な決定が官僚機構に大きく依存している。
 行政指導:行政機関が、法的な強制力によるのではなく、個人や団体に任意の協力を求めて働きかけること。
  日本ではこの領域が広い。強制力はないはずだが、半ば強制力を持って行われている。

【戦後日本における官僚と政党】
・官僚支配の継続説(辻清明)
  戦前の行政優位の政治が続いているとする見方。占領軍による官僚組織の温存。
  戦前の政治制度が温存され、官僚制が権力の中心に位置している。
・政党の影響力増大
  族議員:それぞれに得意な専門分野を持つ議員。
  政務調査会の各部会に属する議員が、自民党の長期政権化に伴って、影響力を高めていった。


【参考】
・「はじめて学ぶ政治学」:加藤秀治郎著 実務教育出版 1994 東京