大衆民主主義の諸問題
【市民・公衆・群衆・大衆】
市民:市民革命によって成立した市民社会の中心となった「教養と財産」のある同質的な人々。
公衆:公共の問題に積極的な関心を払う、理性的な市民の集合。公衆の意見が「世論」をなす。
群衆:その場限りで一時的に集まった人々。匿名の存在となり、暗示にかかりやすく、容易に非合理的行動をとる。
公衆は分散して存在し、理性的なのに対して、群衆は密集して存在し、非合理的である。
大衆:市民のように同質的でなく、内部に多様性があり異質的。ときに非理性的行動をとる。マス・メディアによって結びつけられる。
【大衆と大衆社会】
大衆社会の成立要因
1)工業化・都市化:自由な都市住民。一方「原子化された個人」。
2)マスコミの発達:また、大量生産・大量消費による均質化、教育水準の上昇、運輸・交通・通信手段の発達
3)普通選挙の実現:大衆民主主義の成立。
【大衆社会の政治】
<大衆社会の特徴>
・大衆民主主義の脆弱性(コーンハウザー)
エリートへの接近可能性:大衆のなかからエリートになる人が出やすいこと。
非エリートの操作可能性:大衆がエリートによって容易に操作されやすいこと。
1)共同体社会:接近可能性が低い。操作可能性が低い。
2)大衆社会:接近可能性が高い。操作可能性が高い。
3)全体主義社会:接近可能性が低い。操作可能性が高い。
4)多元的社会:接近可能性が高い。操作可能性が低い。
【多元的社会】
自由民主主義が安定するのは多元的社会である(コーンハウザー)。
多元的社会とは、自立的で限定的(非包括的)な社会集団が多元的に存在し、個人が複数の集団に所属している社会である。このような集団を中間集団と呼ぶ。
【大衆社会におけるエリート】
エリート(選良)は大衆(非エリート)の対概念であり、地位・知識・技能などで一般人よりも優越しているとされる人が、社会の各領域で独占的に意思決定を行う。
・エリートの少数支配(ミヘルス)
組織の効率的運営の必要上、どうしても少数支配が求められる(寡頭制の鉄則)。
・エリートの周流(パレート)
社会の変化によってエリートに求められる資質が変わると、エリートの交代が生じ、社会に再び均衡がもたらされる。マルクス主義の階級闘争・革命論に対立する主張。
【大衆社会とマスコミ】
エリートが大衆操作の道具としてマス・メディアを利用する可能性がある。
・擬似環境とステレオタイプ(リップマン)大衆社会の世論
大衆はマスコミからの情報だけで周囲の出来事を認識している(擬似環境)。
人々はマスコミの膨大な情報の前に、紋切り型の判断を下すようになる(ステレオタイプ)。
・コミュニケーションの二段階の流れ(ラザースフェルド)
中間レベルでの自立的集団の少ない社会では、マスコミを通じての操作は強力な影響力を発揮する。
しかし、マスコミよりも個人をとりまく小集団の影響の方が大きい。
小集団にはオピニオン・リーダーが存在し、その口伝えのパーソナル・コミュニケーションは、マス・メディア以上に影響力を発揮する。
多元的社会では大衆の操作可能性が低い(コーンハウザー)。
小集団が発達している場合には、マスコミを道具にして大衆操作を試みても、小集団に阻まれ、その影響力は制約される。
【政治宣伝と権威主義的パーソナリティ】
<ミランダとクレデンダ(メリアム)>
ミランダ:象徴を用いて大衆の情動に働きかけ、権力の神聖化、正当化を図ること。
クレデンダ:理性など、知的なものに訴えて支持を得ようとすること。
大衆社会では、クレデンダよりもミランダの方が効果的に利用されやすい。
<権威主義的パーソナリティ(フロム)>
権威に自ら進んで従おうとする態度を権威主義という。
権威主義的パーソナリティとは、権威を背景に他者を攻撃しようとする可逆的性向の持ち主や、権威に服従することで快感を覚える自虐的性向の持ち主である。
【マス・メディアの政治的効果】
<皮下注射モデル説>
マス・メディアが「受け手」に直接影響を及ぼし、政治的意見を形成したり、既存の意見を変更したりする。
「コミュニケーションのに段階の流れ」説(ラザースフェルド)
マス・メディアの影響をより少なく評価する。
<マス・メディアの効果>
マス・コミュニケーションによる説得の効果(クラッパー)
1)創造:まだその問題について何らの態度も持たない人に対して、特定の意見や態度を創り出す。
2)補強:既存の態度を強化する。
3)減殺:態度の変更までには至らないが、既存の態度の強さを弱める。
4)改変:既存の意見や態度を変更させる。
5)無効果:何らの効果もおこさない。
マス・コミュニケーションによる効果の多くは「補強」にとどまり、「改変」に至ることは少ない。
【議題設定機能とアナウンス効果】
・議題設定機能(アジェンダ・セッティング機能)
マス・メディアが人々の政治的テーマ、議題(アジェンダ)を設定する機能を持つとする説。
・アナウンス効果
投票の前に選挙の情勢調査(選挙予測)がマスコミで公表されると、それにつれて投票を変える有権者が出てくる。
【参考】
・「はじめて学ぶ政治学」:加藤秀治郎著 実務教育出版 1994 東京