圧力団体と住民運動

圧力団体と住民運動


【現代社会と圧力団体】
 圧力団体:なんらかの利益を実現しようと政治過程で活動する集団。
<マッケンジーの分類>
 部分集団:職業などの利益に基づくもの。
 促進集団:利益によらず、特定の主義主張をする市民運動的なもの。
 利益集団:なんらかの利益をめぐって形成された集団。それが圧力活動を行うと圧力団体と呼ばれる。

【圧力団体台頭の要因】
1)地域代表制の補完
 議員が自分の選挙区の利害を代表するようになり、地域代表的性格を強めたため、それとは別の集団的・職業的利益のついて、別のルートでの代表が求められる。
2)行政国家化の進行
 政府が広範囲の活動を展開する行政国家化現象のなかで、政府の政策により集団の利害が大きく左右されるようになった。
3)政党の寡頭制化
 政党が内部で寡頭制化し、党幹部との取引が容易になった。

【圧力団体の力の源泉】
・選挙支援:よく組織された圧力団体の要求は、議員や政党が支持基盤として尊重するために通りやすくなる。
・政治献金

【圧力団体の機能】
1)利益表出機能
 社会生活で生じる問題を政治的に解決してもらいたいと政治の場に伝える機能。
 社会の諸要求を政治に伝え、政策に反映させる機能。
2)利益集約機能
 表出されてきた種々の利益や提起されてくる問題を政策にまとめ上げる機能。

【圧力団体と政党との相違】
 一般に政党は利益集約機能を、圧力団体は利益表出機能を中心に営む。
 圧力団体は政権獲得を求めない。
 圧力団体の政策への関心は、自己利益と関連のある領域に限られ、全般的にならない。
 その要求は硬直的で、状況に応じた柔軟性は期待しにくい。政策面での全体的な体系性は求められない。

【アメリカ社会と利益集団】
 産業社会は一般に社会・経済的に諸利益が複雑に入り組み、多元的に対立・競合する。
 アメリカにおける利益対立を政治化せしめる条件とは、
1)政治的自由の保障・強い分権性
2)緩い党規律(党議拘束がない)
 これを背景にロビイ活動が生まれた。
・ロビイスト:圧力団体の代理人として、有利な法案の成立のため、また不利な法案の修正や否決のために議員に働きかける人。

【利益集団の均衡理論(ベントレー)】
1)重複メンバーシップ
 利益が複雑に錯綜する産業社会では、対立は存亡をかけた激烈な闘争にはならない。
 クリス・クロス(ベントレー)、重複メンバーシップ(トルーマン)とは、
 人々が複数の集団にオーバーラップして加入しているので、集団の利益が相互の対立しても、調整されていく。
2)潜在集団(トルーマン)
 不断は利害を共通にしているだけで、未組織なので、表面には表れないが、ひとたびその人々の利益が強く脅かされるに至ると、政治の舞台に登場し、声を上げるような集団。
 ある圧力団体が強力になりすぎると、この潜在集団がそれにブレーキをかける役割を果たす。

【住民運動】
 住民運動:住民たちが自分たちの利益・権利を守るために組織を作り、運動すること。
 住民運動は議会政治を補完する。
<圧力団体との相違>
 圧力団体は職業利益を中心とし、永続的で、整った組織を持っている。
 住民運動は特定の問題をめぐって形成され、問題が解決されれば組織は解消されるので、非永続的であり、また主に地域的問題を扱う。
 政治的、社会的、文化的諸問題に対する共通の価値観や態度に基づく運動を、態度集団と呼ぶこともある。
 地域に限られない運動の場合、市民運動と呼ばれることもある。
<政治参加のパラドクス>
 住民運動に参加するには時間の余裕や知識や費用が必要だから、参加する人には社会階層上の偏りが出る。
 圧力団体や住民運動で積極的に自己利益を実現できるのは、政治的援助の必要な下層の人々ではなく、比較的恵まれた人々である。

【圧力政治の新局面】
 圧力政治とは、圧力が複雑に交差する政治をいう。
1)圧力をかけるポイントの変化
 以前は立法府が中心で、個別の議員や政党へ圧力がかけられていたが、今日では行政府や世論に向けての圧力が活発になった。
2)圧力政治の楽観論の崩壊
 利益集団自由(放任)主義の終焉(ローウィ)
 政府が利益集団からの要求を拒否できず、それに応じてきたために、政策の一貫性が損なわれ、少数の私的利益にのみ特権を与えてきた。

【ネオ・コーポラティズム】
 戦前のコーポラティズム(職能代表制)とは、第一次世界大戦後、民主主義を否定して、国家、労使、政党などの協調体制がめざされたもので、独裁主義のイメージを伴う概念であった。
 ネオ・コーポラティズムは、
 国家と巨大な圧力団体の緊密な関係が重視され、集団が国家の政策決定の過程で重要なメンバーとなり、国家の政策に協力しながら、自己利益を部分的に実現し、集団相互の妥協・調整を図っていく形態をいう。
 議会政治のルートは否定せず、それとならんで各種の政府委員会(審議会、諮問委員会)を位置づけ、そこに強力な利益集団を関与させ、部分的にその利益を充足させながら、自己抑制的な行動(協調行動)を引き出し、社会全体の利害調整を図っていく。


【参考】
・「はじめて学ぶ政治学」:加藤秀治郎著 実務教育出版 1994 東京