デモクラシー

デモクラシーをめぐる諸問題


【古代のデモクラシー】
 古代ギリシアにおいては、デモクラシー(民主制)という言葉は単に「多数者の支配」を意味したにすぎない。
(⇔一人支配の「君主制」、少数者支配の「貴族政」)
 古代デモクラシーの舞台は、小規模な都市国家〔ポリス〕であり、その担い手は「自由市民」と呼ばれる同質的な人々で、そのため直接民主制が可能だった。

【市民革命のイデオロギー】
 近代民主主義の起源は、市民革命の時代に求められる。
 市民革命は、イギリスの名誉革命(1688)、フランスの大革命(1789)、アメリカの独立革命(1776)に代表される。
 市民革命の指導理念は自由主義、すなわち個人の自由の実現を阻む外的拘束をなくしていこうとする思想であり、17世紀にロックらが、恣意的な「人の支配」から市民的自由を守るべく「法の支配」を求めたことに始まる。
 政治的自由主義の核心は、憲法を制定し、不可侵の基本的人権を定めること、そして国家権力は法に即して行使されねばならないという原則を確立して、市民的自由に法的保障を与えること、つまり立憲主義にある。

【立憲主義の二つの流れ】
1)法の支配(英):社会生活にはあらかじめ規範があり、法律は単に手続が適正なだけではなく、内容的にも社会の倫理基準に反していてはならないとする。
2)法治主義(独):正しい手続に則った法律が有効性を持つとする。手続という形式さえ整えば、内容は問わない。

【自由民主主義(リベラル・デモクラシー)】
 自由民主主義は、自由主義と民主主義の理念が融合されて形成された思想である。
 自由主義は、国家権力の恣意的行使を制限することによって、市民的自由を確保しようとする思想であり、「誰が政治的権力を掌握するか」は二次的であった。
 民主主義は、一般国民が政治権力を掌握すべきだという思想であり、「権力の行使にどのような制限をおくべきか」は二次的であった。
 初期の自由主義は、「教養と財産」のある「市民」層に支持され、制限選挙を主張したのに対し、民主主義は、都市下層民や農民の支持を得て、普通選挙を求めた。
 19世紀後半に社会主義が台頭してくると、それに共同で対抗するために、自由主義と民主主義の両理念は次第に接近して自由民主主義が生まれた。
 民主主義からは国民主権の考えが取り入れられ、普通選挙が認められた。自由主義からは「法の支配」、少数者の権利尊重、言論の自由、権力分立などの諸原則が取り入れられた。

【民主主義と社会主義】
 社会主義は、政治参加に限定された民主主義は形式的にすぎると批判し、実質的、社会的平等を求め、自ら「社会民主主義」と称するようになった。
 ロシア革命後のソ連では、資本家階級の残存分子を打倒し、絶滅させるまでは、労働者階級(プロレタリアート)の独裁(つまり、共産党独裁)が必要と考えられ、それを民主主義の新しい高次の形態であるとして、「人民民主主義(プロレタリア民主主義、社会主義的民主主義)」と称した。
 社会主義における共産主義と民主社会主義との対立点は民主主義の内容をめぐるものであった。
 共産主義は人民民主主義を唱えたのに対し、民主社会主義は、議会を通じて社会主義への改革を進める立場をとり、人民民主主義に反対して、自由民主主義を擁護した。

【参加デモクラシー】
 自由民主主義諸国は議会主義による間接民主制を採用しており、主権者である国民の最も基本的な政治参加は、選挙での投票参加である。
 直接民主主義的な政治参加のルートには、リコール(住民解任)、イニシアティブ(住民発案)、レファレンダム(国民投票)などがある。
 投票参加に限定されない積極的な政治参加を推進する動きは「参加デモクラシー」と呼ばれる。
 しかし、投票参加以外の政治参加は、参加者が、知識が多く、時間・費用・労力などで余裕のある人、社会的に恵まれた層に偏りがちになる(社会階層のバイアス)。これが「政治参加のパラドクス」と呼ばれる。

【統治能力の低下】
 今日、先進諸国では、民主主義の統治能力(ガバナビリティ)の低下が指摘されている。
 民主的であるほど、権力が多元的に分散して「手詰まり状態」になる傾向があるためである。
 民主主義の統治能力は次のように定義される:「民主主義の基本的特徴を保持した上で、それぞれの社会が、その内外において直面する課題に取り組み、その課題の解決に必要な変化(改革)を導入する能力(綿貫譲治)」。

【多極共存型デモクラシー】
 レイプハルトは、欧州の中小国において、異質な小集団同士が民主制を維持できているのは、「エリートの協調的行動」によると考えた。また、選挙制度を比例代表制にするなど、政治全般で比例原理が重視されていることに注目した。そして、このような政治の在り方を多極共存型(コンソシエーショナル)デモクラシーと呼んだ。


【参考】
・「はじめて学ぶ政治学」:加藤秀治郎著 実務教育出版 1994 東京