イデオロギーと政治意識

イデオロギーと政治意識


【イデオロギー(観念形態)】
 肯定的用法:政治・経済・社会を統一的にとらえる理論。
 否定的用法:現実の利害関心によって制約される個人や集団の理論・思想。
 マルクスにおいては、それぞれの社会のイデオロギーは、支配階級の支配をあたかも普遍的なもののように見せかけ、現実の矛盾を覆い隠す「虚偽意識」とされる。
 マンハイムは、全ての人が自分の社会内での位置によって思想が制約されるという「存在拘束性(存在被拘束性)」を説き、イデオロギーの制約を脱して客観的認識へと進む「自由に浮遊する知識人」に期待をかけた。
 ベルは、先進社会においては、もはやイデオロギー的対立が大きな問題ではなくなったとする「イデオロギーの終焉」を唱えた。

【現実政治とイデオロギー】
 イデオロギーの政治的機能は、支配に正当性を提供し、政治社会を安定化させることである。
 対抗イデオロギーは、被支配者の間に広まり、現状に変わる全体的なヴィジョン(ユートピア)を示し、社会変革に寄与することもある。

【自由主義と保守主義】
 自由主義は、17世紀に、国家の干渉に対して自由を擁護しようとする政治的自由主義として成立した(ロックら)。
 私有財産の擁護という側面もあり、都市商工業者を中心に広まり、市民革命のイデオロギーとなった。
 18世紀には、自由放任経済を説いたアダム・スミスの経済自由主義も現れた。
 その後、ベンサムなどの功利主義の影響を受け、ミルによって発展させられた。
 保守主義は、自由主義に対抗する形で発展した。伝統を尊重し、改革にたいし懐疑的で、エリートを中心とした政治を重視する立場である(バークら)。保守主義を担ったのは、主として貴族階級である。
 後に社会主義が登場すると、自由主義と保守主義とは歩み寄り、ともに資本主義の基礎を形づくった。

【社会主義と共産主義】
 社会主義は、18世紀末に登場し、資本主義を批判し、生産手段の社会的所有をめざした。
 オーエン、サン=シモン、フーリエらの理想主義的主張は空想社会主義と呼ばれる。
 これに対して、マルクスの思想は科学的社会主義と自称する。マルクスは資本家による搾取と、労働者の疎外をとりあげ、その克服を説いた。
 共産主義は、レーニンによってマルクスの思想がより急進的な革命思想に仕上げられたもので、暴力革命を肯定し、 革命後は前衛政党である共産党の独裁により共産社会の建設を進めることをめざした。
 民主社会主義は、英国社会主義とも呼ばれ、フェビアン協会に集まったウェッブ夫妻やバーナード・ショウらによって形成された。これは代議制民主主義を通じて漸進的に資本主義を改革しようとするものである。

【ファシズム】
 ファシズムは、20世紀前半に勢力を伸ばした民族主義的急進運動である。
 近代の個人主義を全面的に否定し、個人よりも国家の優位を説き、一党独裁をかかげ、指導者と被指導者の一体化をはかる「指導者原理」も強調される。対外的には排他的ナショナリズムを示す。

【政治意識】
 政治意識とは、人々が、政治一般や特定の政治問題に対して持つ、ものの見方、考え方、行動の仕方である。
 政治意識には、政治的態度と政治行動の双方が含まれる。
 アイゼンクの図式は政治意識の構造を「保守的か急進的か」、「硬い心か柔らかい心か(パーソナリティ)」の二つの軸によって表している。
 転向(政治的立場を大きく変えること)は通常「保守−急進」の軸に沿って起こる。

【政治的無関心】
<ラスウェルの3類型>
1)脱政治的(デポリティカル)態度:政治に幻滅する場合。
2)無政治的(アポリティカル)態度:政治への知識や関心が低い場合。
3)反政治的(アンティポリティカル)態度:政治そのものを軽蔑したり、否定したりする場合。

<リースマンの分類>
1)伝統型無関心:前近代社会で、政治と無縁な庶民がとる態度。
2)現代型無関心:現代の大衆社会における非行動的で傍観者的な態度。

【政治的社会化】
 政治的社会化とは、人がそれぞれの生活環境の中で、その人なりの政治についての考え方、政治行動のパターンを身につけていくこと。
 社会化の「担い手(エージェント)」は、家族、学校、仲間集団、マス・メディアなどである。
 政治的社会化の機能の一つは、政治体系を作動させる市民の養成にある。

【政治文化】
 文化とは、それぞれの社会にみられる、かなり一般的に共通の価値観、行動様式、生活様式をいう。
 文化の政治的側面を政治文化という。政治文化とは、政治社会の構成員に一般的に見られる政治的価値観、行動様式のことである。
 前の世代の政治的価値観・態度・行動様式が、後の世代に継承されるのは、政治的社会化がおこなわれているからである。そのため、政治的社会化は「政治文化への誘導プロセス」と定義されることがある。


【参考】
・「はじめて学ぶ政治学」:加藤秀治郎著 実務教育出版 1994 東京